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「……入れ替わっていることをばらしてやると……言われました。もし本当にばらされたら迷惑をかけてしまいます」
 お父様が私には何も返事を返さずに部屋のへと戻っていった。
「おい!使用人を全部首にしろ!入れ替わりをばらされないように、今いるやつらには……そうだな、金では口止めはできん……だ。白い粉でも使って……ああ、全部お前に任せる」
 お父様は家令に何かを命じているようだ。
 次の日。
 私は朝から身支度をさせられた。
「いいか、絶対にカツラは外すなよ。それから部屋から一歩も出るな。出ていいのは使用人が帰った夜だけだ!いいな!」
 家の中でもアイリーンのフリを白と命じられる。
 昨日までいた使用人の姿は一人もなく、新しく通いで何人かの使用人を雇用したようだ。
 屋根裏部屋からアイリーンの部屋に移された。
 屋根裏部屋よりもずっと明るくて広い。柔らかいベットに、たくさんのドレス。
 そのどれにも喜びは感じない。むしろ部屋から出歩くことを禁じられ、常にカツラをかぶってアイリーンのふりしなければならないなんて……。
 ヴァイオレッタが消えてしまったようだ。
 書類仕事は毎日家令が運んできた。
 アイリーンの部屋にうつったことで、使用人の目がどこにあるかもわからず悪い噂が立つといけないと、体に触れられることはなくなった。
 そして、部屋にこもっていなければならないということは、下働きや侍女の仕事の手伝いはしなくてよいことになった。
 水仕事をしなくなって、荒れていた手が10日もすればマシになった。
 たまっていた書類の処理も時間ができたことで片付けることができた。
 そうすると、書類の量が減り、1日のうち1時間もあれば終わるようになった。
 何をして過ごそうか。
 部屋から出るなと言われているため、できることは限られている。
 新しく雇い入れた使用人は、お義姉であるヴァイオレッタが静養中で落ち込んで部屋にこもっていると家令が伝えているようだ。
 ……ありがたい。
 いくらカツラをかぶっていても、ずっと家の中でアイリーンを演じるなんて無理だったろうから。
 そっと、屋根裏部屋から持って来た数少ない私物を手に取る。
 お母様が私に残してくれたという本。
 マーサからもらった。
 本……の形をしているけれど、中は日記帳だ。お母様がつづった日々の出来事が書かれている。
 私を妊娠してからのこと。生まれてくるのを楽しみにしていると書かれている。
 女の子だったらどんな名前がいいだろう、男の子だったらどんな名前がいいだろう……と。
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