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「それから、何人か来ているかもしれん。お前の旦那候補だ。見ておけ。見るだけで近づくな」
 お父様から20人の名前を書いたリストを渡された。
 アイリーンが書いたものに、お父様が情報を書き加えてある。
「まったくアイリーンときたら、容姿やもらった物は覚えていても家名は覚えていない、婚約者の有無も知らない、ましてや既婚者かどうかも確かめてなかったんだ」
「え?」
「生まれた子が金髪なら、6人中3人は既婚者。1人は婚約者持ちだ。2人しか候補は残らない。銀髪が生まれたら最悪だ。候補はゼロ、お前は愛人になるしかない。しかも、金持ちとはいえ、婿の立場だ。本妻にばれないようにおとなしくしていないといけない……」
「もしかして……お金だけもらって、子供と二人で暮らすことになるんですか?」
 どんな人だったとしても我慢しようと思っていたのに……。我慢する必要のない生活を手に入れることもできるの?
「文句は許さん。相手次第だ。たくさん金を出してくれれば使用人の一人や二人つけてくれるはずだ。それに、本妻に子供ができなきゃ、子供を養子として引き取ってくれるかもしれん」
 お父様がどんっとテーブルを叩く。
「とにかくだ、家名が分かった者もいるが、まだ6人がどこの誰だか分からん。名前……愛称と髪と目の色しかわからんのだ。アイリーンは顔を見ればわかると言うが、できるだけ早くどんな奴か確かめておきたい。それらしい人を見つけたらどんな奴か教えろ」
 それだけ言うとお父様が出て行った。
 すでにどこのだれか分かった14名のうち、10名が既婚者か婚約者持ち……。
 ヴァイオレッタは体のいい遊び相手にされていたんだ。
 私じゃないけれど、私。
 男に騙されて遊ばれていた、茶色の髪のヴァイオレッタを想像して悲しくなった。
 体調を崩して領地で静養しているという話は耳に届いていないのだろうか。いまだに……誰からも心配した手紙の一つも届かない。
 誰一人として……ヴァイオレッタの身を気遣う者はいない。
 婚約者もいないのは、金髪の子爵家の嫡男と伯爵家の次男。アイリーンの血が出れば金髪になる。この二人が有力候補になるのだろうか。正体不明の6人は、黒髪が1人……。
 ルーノ様の顔が浮かんだ。
「彼は……そんな人じゃないわ……名前だって、ハルーシュと別だもの」
 他には濃い茶髪、薄い茶髪が2人に赤毛が一人に、アッシュグレーが一人……か。
 アッシュグレーの人は少なそうだからすぐに見つかりそう。あとはどうやって探すのか。
「茶髪で生まれたら母親に似たと言えばいいなら、見つけておかなければならないのは黒髪と赤毛とアッシュグレーの3人かな……」
 こんな、宝石やドレスを選ぶみたいに、人を選ぶなんて……。
 半年後……私には子供ができる。家族ができる。大丈夫……きっと、幸せになれる。
 机の引き出しから本を1冊取り出す。真ん中あたりの紙を挟んであるページを開くと、ピンクの花びらの押し花が姿を現す。
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