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「え?自分で作るの?すごいね。魚を下ろすんだよね?なんか、魚を下ろせないと主婦失格なんて間違った話が広まっているようだけど、もともと魚を下ろすのはプロの仕事で、主婦の技術じゃなかったんだってね」
 和臣さんはいろいろなことを知りたくなるタイプだと言っていた通り、偏った見方をしないようです。
「ってことは、結梨絵さんはプロ並み?」
 まぁ、一応職場は食堂で、プロと言えばプロなのかもしれませんが……。
「いえ、違いますよ。つみれは、すりつぶして作るので、とりあえず骨とか取り除ければ大丈夫なんです。上手に三枚におろす必要なんてないんですよ」
「そうなの?じゃぁ、僕にもできるかな?」
「やってみたいんですか?」
「一緒に料理が作れたら楽しそうだと思って」
 え?
 一緒に料理?

 思わず、私と和臣さんの二人がキッチンに立つ姿を想像してしまいました。
 違います、勘違いしては駄目なのです。誰と一緒になんて言ってないじゃないですか。和臣が誰を想像していったのかわかりません。
 もしかすると、誰の姿も想像してなくて、単に「彼女と」とか「妻と」とか、いつか誰かとという意味なのかもしれません。
「一緒に……もいいですが、魚をさばくのは僕にかませてくれってプロレベルに魚が捌けたら尊敬されるかもしれませんよ?」
「え?結梨絵さんも、そう思う?」
「そうですねぇ……釣りに行って、その場で捌いた魚を刺身で食べるとかやってみたいですね」
 テレビ番組で見るあのシーン。いくら新鮮な魚と言って売られていても、ある程度の時間は立っています。
 釣りたての魚はどれほどおいしいのか……一度食べてみたいと思うのです。
「ああ、なるほど!それは確かに一度は食べてみたいな。ねぇ、結梨絵ちゃん、僕が上手に魚をさばけるようになったら、一緒に釣りに行こうか」
「え?魚をさばけるようになっても、釣れなければ食べられませんよね?」
「そうだなぁ、じゃぁ、結梨絵ちゃんが釣り担当」
「私が、釣り担当ですか?」
 まさかの話に、びっくりして目が真ん丸になりました。
「冗談、冗談。ははは」
「もー、和臣さん」
 楽しそうに笑い出した和臣さん。冗談も言う人だったんですね。
 冗談……ですか。魚が捌けるようになったら、一緒に釣りに行こうっていうのは、冗談だったのですね。
「さすがに、ちょっと無理だから、今度は店内のいけすで自分でとった魚を食べられる店なんてどう?」
「あ、テレビで見たことがあります!網でも取れるし、釣りもできるんですよね?」
「そう。釣りの場合は、何が釣れるのか分からないスリルがある」
「スリルですか?」
「高級魚が釣れたら、会計が高額になる」
「えー、そんなシステムなんですか?それは、確かにスリルが……でも、せっかくそういう店に行ったら釣りがしたいですよね?」
「だね。釣った魚も食べきれないと勿体ないから、大人数で行ったほうがいいだろうなぁ」
 あ。そうですね。みんなで行くということですよね……。
 ……二人じゃないんだ。
 ……二人じゃないなら……。また、会ってもいいかな。
 また会える。
 会いたい。
 二人じゃなければ……。
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