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 学生相談室のドアをノックすると、すぐに扉が開きました。
「師匠!おはようございます!」
「部屋を間違えたみたいです、失礼いたします」
 師匠と呼ばれたので、踵を返した。
「ああ、待ってください、白井さんっ!おはようございます、白井さんっ!」
 グイっと腕をつかんで引っ張られたため、ふらついて後ろに倒れ……。
 黒崎さんの胸元に頭をぶつけてしまいました。
「ああ、すいません、すいませんっ」
 ふんわりと甘い匂いが立つ。
 ……あれ?この香り……どこかで?
 記憶の糸をたどろうと思わず見上げてしまい、匂い立つようなイケメンの顔を真下から除きこんでしまいました。
 は、破壊力、すごいっ!
「もう、二度と師匠とよ、よばないで、くださいっ!」
 思わず赤面してしまったことを隠すように、黒崎さんから慌てて距離を取り、怒ったふりをする。
「は、はい。わかりました。どうぞ、入ってください」
 いつものソファに促される。
 テーブルの上には、たくさんの紙が置かれている。
「とりあえず、コインランドリーを運営している会社について調べてみました。ネットで調べられた情報はプリントアウトしてあります」
 なるほど、この紙はインターネットで得られた情報なのですね。
「フランチャイズ方式と、直営店があるようなので、ひとまずフランチャイズは検討から外しました」
 と、紙を半分くらいよけました。
「インターネットで情報が得られないところは、電話で問い合わせてみるつもりです」
 会社名と電話番号などが複数社書かれた紙を見せられる。
 ……えーっと、もしかして、こうしてコインランドリーの計画を逐一私に報告するつもりなのでしょうか?
 私、食堂の白井なんですが。いつから洗濯係に任命されたのでしょう?
「条件や、誘致に応じてくれるかはまた別の話なのですが、とりあえず各社の特徴を比較しました」
 別の紙を見せられる。
 使用している洗剤の種類。洗剤の持ち込みが可能かどうか。
 設置している洗濯機の種類。靴の洗濯の可否。大型のサイズ。ペット用衣類の洗濯の可否。
 はぁ、いろいろ違うものですね。知りませんでした。
 そして、利用料も忘れずに書いてあります。
 正直、利用料はどこも同じようです。
「どんなものが学生たちには求められていると思いますか?」
 知りません。
「人それぞれではありませんか?」
「あー、それは、設置してみて、利用状況を見て改善していくということしかないでしょうかね」
「アンケートしてはいかがですか?」
 黒崎さんがむつかしい顔をしました。
「学生にアンケート用紙を配って記入してもらうというのは、数年前に禁止になりました。特例としてオリエンテーションの時間は許されていますが、それ以外の講義の時間に行うのは、高い授業料を支払っているのにアンケートのために時間を使うなという意見がありまして……」
 そうか。そういわれれば、そうですね。
「意見箱に意見を入れてもらうとしても、偏った意見になってしまうかもしれませんね……。そもそもどれほどの意見が集まるか……」
「そうなんです、それで、できるだけ多くの声を集めたいのですが、なかなかむつかしくて、とりあえず白井さんの声を聴こうと」
 ……、なぜ、まず、私なのでしょうか。

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