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「えっと、では、あの、続きを話ますね」
 黒崎さんが姿勢を正して座りなおします。
 私も、腰を少し浮かして浅く腰かけなおし、相談用紙を手に取りました。
「ここから先、私の推測です。洗濯を外に干せない不便な狭い物件に住む女学生が、コインランドリーにも行けないと書いたのは、コインランドリーが怖いからじゃないでしょうか」
 とんっと、軽く【コインランドリーにも行けない】という部分を指さします。
「怖い?コインランドリーが?」
 男性には想像できないのかもしれません。
 ましてや、目の前に座っている黒崎さんは、ハウスキーパーが家事をしていると言っていました。一度もコインランドリーを利用したことがないのでしょう。
「あくまでも、想像ですが、相談者はお金に余裕がないためアルバイトをしているのでしょう。大学が終わってからアルバイトをして帰宅すれば、外は暗くなってます」
 洗濯がろくに干せないような部屋に住んでいるのであれば、お金に余裕がない、もしくはお金を貯めたい、節約したいのどれかでしょう。
「暗くなってから、若い娘が一人でコインランドリーに行くことを想像してください。人気のない空間。自分の下着がぐるぐると回る洗濯機。見ず知らずの男の人。男の人たちの目。乾燥までかかる長い時間。暗闇。一人の帰り道。もしかすると、過去に何かあったのかもしれません」
 黒崎さんの眉根が寄りました。
「そうか……。確かに、女性が一人で、人気のない夜道を歩くだけでも危険があるものな……。うちの学生を痴漢やストーカー被害に合わせるわけにはいかない。……コインランドリーを利用するだけでも女性の立場になれば……恐怖が付きまとうのか。とても想像できなかった」
 でしょうね。
 コインランドリーを利用するお金もないのかと、思ったくらいですものね。
「だが、それを相談されても……できることは、警察に見回りを強化してもらうお願いをするくらいしか……」
 黒崎さんの言葉に、静かに首を横に振る。
「大学に何とかしてほしいと言っているんですよ?警察にじゃないです。コインランドリーに行けないなら、行けるようにしてあげればいいんです」
 黒崎さんが寄った眉根を指でほぐす。
「私が、相談者がコインランドリーに行くたびに護衛すればいいと言うのか?いくら何でも一人の学生のためにそこまでは」
 護衛……黒崎さんSP姿とか似合いそうですよね。って、違いますよ。
「一人の学生だけではないと思いますよ。声を上げたのはこの子ですが、一人暮らしの女性は同じように怖い思いをしていると思います。コインランドリーに行くことができても、下着を人に見られたくないと思っている人は多いです。女性専用コインランドリーが欲しいと思ったことありません?男の人も、見るつもりがないのに見えて気まずいこともあるでしょう」
 見ていないのに見たと睨まれたなんていう話を聞いたこともあります。
 乾燥機にへばりついて残っていた下着を間違って持って帰ってしまったなんて話も……。

「は?」
 黒崎さんの眉根がさらに寄り、そして……。
「白井さん、そういうことですか!」
 私の両手を黒崎さんが握る。
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