上 下
21 / 96

21

しおりを挟む
「なんとか連絡先交換にこぎつけたので、そこから先は本人次第かなー。とはいえ、初夏から連絡とるのはむつかしそうなんで、次の飲み会の幹事を二人に頼んだの。いつどこでとか連絡取り合ううちに仲良くなればいいなぁと……」
「飲み会?合コンじゃなくて?何が違うの?」
「あー、世間ではどう言うか知らないけど、合コンは男女の出会いの場。今度は、知らない人間なし。知ったメンバーばかりが合うから、飲み会。出会いはないんだよね。結梨絵ちゃん、来てくれないかな?」
「合コンじゃなくて、飲み会ですか……」
 それなら、私が参加しても失礼じゃないですよね?
 いや、でも……。
「学生じゃないのに……」
 おごってもらったんですよね。そう、何度も学生のふりしておごってもらうなんて良心が痛みます……。
 この間は急にメンバーがいなくなって困っている菜々さんのためにと思ったけれど。あ、もちろん少しは夕飯代が浮くからっていう気持ちもありましたけど……。
 今回は、学生じゃない私が参加すること前提なのですよね……。
「あー。いいよ、その辺は特に説明しなくて。向こうが勝手に勘違いしてるだけで、こっちが嘘ついたわけじゃないし。偽学生だとか言われることもないから大丈夫だよ」
 に、偽学生……。
「偽学生とかを心配してるんのではなくて、社会人だから学生にお金を使わせないっておごってもらったでしょう?私も社会人だから、その心苦しいというか……」
 バンバンバンバン。
 痛たた。菜々さんが勢いよく私の背中をリュックの上から何度も叩きます。
「いい人!結梨絵ちゃんいい人だねぇ!男におごらせて当たり前って思ってる女も多いっていうのに!」
 いや、多くないですよね?え?
「うん、分かった。いつもおごってもらってばかりで申し訳ないから、学生でも支払いしやすい価格帯の店を探すように頼んでおくということでいいかな?」
 はい?
 私、行くことになってます?
「また日程の打ち合わせとか連絡するから、連絡先教えて」
 すちゃっとスワロフスキーでデコられた女の子らしいスマホを菜々さんが取り出しました。
 つられて、ポケットからスマホを取り出す。
 時間を見ると、残業時間が34分。
 おしゃべりで6分使ってしまいました!このまま45分を超えると、仕事をしてないのに残業代をもらうということになってしまう……。
 残業時間は15分単位で計算されるのです。
「ラインでいいかな?」
 焦って、言われるままにラインのQRコード取り込み、連絡先を交換する。
「これで、あいつに貸し一つ」
 菜々さんがニヤッと楽しそうに笑いました。
 え?誰に何をなんですか?
「じゃあ、またね!」
 あ、はい。
 私も急がなければ。
 学生相談室に紙を入れて何とか40分でタイムカードをカチャリ。
 危なかったです。

 ピロリロン。
 さっそくラインで菜々さんからメッセージが届いきました。
「当日は、また化粧したげるね!服は任せる!」
 菜々さん面倒見がいいなぁ。
 化粧、自分でもできるんですけどね……。菜々さんほど上手ではないけれど。
 菜々さんは手際がよかったです。髪の毛のセットまで含めて30分くらいしかかかっていませんでした。
 私があのレベルに仕上げようと思ったら……2時間はかかりますね。いえ、2時間かけてもあそこまでかわいくはならないと思います。
 うん、やっぱりお願いしましょう。
「ありがとうございます」
 菜々さんにお礼メッセージ送信。すぐに既読になりました。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...