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31 悪役令嬢の弟は愛されている。
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「……カミル、あんた自分の意思でそこに座ってんのよね?」
数日振りに会ったアリシアが、冷たい目で僕を見つめながら問いかけた。
僕はレオンハルト王子の膝の上に座り、王子からケーキを食べさせて貰っている最中だった。王子の反対側の腕は僕の腰に回されていて、王子の膝の上から逃げ出すことが出来ない。
「もちろんカミルの意思だよ。最近は自分から俺の膝の上に乗ってくるんだ。可愛いだろ?」
王子は僕の腰を撫でながらアリシアに笑いかける。アリシアの眉間に皺が寄った。
「殿下に聞いてません。カミル、どうなのよ?」
「ぼ、僕、自分でここに座ってるから」
僕は慌てて答えた。実際、嘘ではない。王子の膝の上に乗らないと甘味が食べさせてもらえないので、毎日自分から積極的に王子の膝の上に乗っている。
「あんたがそう言うならいいけど、人前では控えなさいね」
アリシアは呆れた眼差しを僕に向けた。僕は小さく首を何度も縦に振って頷いた。
「アリシアは家族だから気を許してるんだよ。ゆっくりしていくといいよ」
王子はアリシアに優しく告げた。僕を膝から下ろすつもりはないらしい。
「手続きが全て終わったのでご挨拶に上がっただけです。用事がすんだら退散します」
アリシアは素っ気なく答えると、僕の隣にある椅子に座った。
アリシアと王子は正式に婚約を解消した。
王子は僕達の父上には予め意思を伝えていたらしい。父上は、僕達の卒業を待つこと、僕達2人がそれを了承すればとアッサリ認めていたとか。先に父上から婚約解消の話を聞いたアリシアは、いったん返事を『保留』にし、王子に真意を確認していたそうだ。
僕は学園を卒業後、王宮でレオンハルト王子の秘書官として仕えることになった。何故か別邸に僕の部屋が用意されていた。
普通に実家からも通えるし、寄宿舎でも構わないと言ったが、王子が許してくれなかった。
「……アリシア、ごめん」
僕は王子の膝の上に乗せられたまま、アリシアに謝った。
「何で謝るのよ?」
アリシアは不思議そうに首を傾げた。
「だって、殿下と婚約破棄したくないって言ってたのに…、結婚できなくなっただろ」
「ああ、そんなこと。処刑と一家断絶が怖かっただけで、むしろ王妃なんて絶対に無理だから、婚約破棄だけなら万々歳よ」
アリシアはあっけらかんと笑った。
「そ、そうなんだ……」
「何なら、殿下がカミルを激愛してるのも知ってたしね。あんたが無理強いされてないかだけはずっと気になってたけど…」
「俺は無理強いなんてしてない。カミルに愛を乞い、受け入れて貰っただけだ」
王子は僕をギュッと抱きしめると、頬に口付けをした。
アリシアは冷ややかな視線を王子に投げかける。
「在学中に手を出すなって言いましたよね?順序間違えると身を亡ぼすって言いましたよね?カミルを『主人公』ポジに落とし込むなんて頭湧いてんのか?コラ」
アリシアの口調が段々崩れてきた。これはかなり怒っている時の状態だ。王子は苦笑いをしながらも、僕を抱き締める腕を緩めなかった。
あの日、卒業パーティで、僕はあまりの緊張感に絶えられなくなり、意識を失った。
気絶した僕をそのまま王子が王宮に連れ帰り、あの場は強制解散となったらしい。
このため、僕は公衆の面前で辱めを受けることもなかったし、今のところ首輪を嵌められて閉じ込められたりもしていない。
「殿下、いい加減認めてください。『白薔薇学園物語』をご存じですよね?」
アリシアは真剣な表情で王子を見つめた。
「以前言ってた未来視の話か?何のことだか…よく分からないな」
王子は平然と答えた。動揺している様子もない。
「卒業パーティで皆様にいろいろと伺いました。王家の、殿下のご指示で、エルスハイマー男爵家の断罪に動いてくださったと。おかげでローズハート公爵家は無実の罪を免れました。
それから……、カミルが修道院に行こうとして悪徳業者に騙されてしまうのを引き止めてくださいました。ありがとうございます」
アリシアは王子に向かって丁寧に礼を述べた。
「…でも、カミルがあの修道院と連絡をとっていたのをなぜ殿下はご存じだったのですか?……シナリオを最初からご存知だったのでしょう?
それに、カミルと恋仲になるかもしれない『シャルロッテ』を学園に編入させず、別人にするように仕向けられたのも……殿下ですよね?本物の『シャルロッテ』が勝手な行動をとらないよう、アロイス様に見張らせていたとか。他にも……」
アリシアの言葉を聞きながら、僕は驚いて王子の顔を見た。
「何を言っているのか、分からないな」
アリシアの言葉を遮り、王子は短く答えた。
「アリシア、今の結末は君が恐れていた未来とは違うものなんだろう?婚約解消は自分の周囲に不幸がなければと、予め了承していたはずだ。これ以上、何を暴くつもりだ?」
王子は苦笑しながら、アリシアを見つめた。
「この世界は『ゲーム』とやらではなく、現実だ。シナリオなんてものは存在しない。……未来は自分で、切り開くものだ。俺はカミルを不幸にしたくなくて、そのために行動しただけだ。これからは、叶うなら一緒に幸せになりたいと思っている」
王子は僕の腰に手を回して抱き寄せると、穏やかな眼差しでアリシアを見つめた。
「私の知っている内容とは若干違う原因が、すべて殿下ではないかと疑っておりましたが……。あくまで認めないんですね。いいんですか?『ゲーム』のハッピーエンドじゃなく、婚約破棄された『悪役令嬢』が『第一王子』と『主人公』にざまぁ展開しかける未来が待ってるかもしれませんよ?」
アリシアは呆れたように言った。
「俺に対しては分からないけど、アリシアはカミルをそんな目に遭わせるよう仕向けたりしないだろう?意外と家族想いなのは知ってるよ」
王子は楽しそうに笑った。
「やっぱり私が『悪役令嬢』だと認識してるんじゃない」
アリシアはジト目で王子を見つめたが、王子は気が付かないフリをした。
「まあ、いいです。カミルが一応生きてるのも確認できたし、そろそろ失礼いたします。カミル!なんかおかしなことがあったら、ちゃんと帰ってきて私に報告するのよ!!」
アリシアは僕に向かってビシッと指差して言い放つと、立ち上がった。
「アリシア。その言い方が誤解されるんだよ。心配してるから、いつでも相談にのるよ、って言えばいいのに」
王子は苦笑してアリシアを見つめた。
「だ、大丈夫です。殿下。ちゃんと伝わってます」
僕は慌てて返事をした。
「殿下、カミルはすぐ流されるから、浮気されないといいですね。それじゃ、またね。カミル」
アリシアは王子に悪戯っぽく笑いかけると、僕に向かって手を振り、颯爽と去っていった。
僕は思わず身体を震わせた。
アリシア……最後になんて言葉を残していくんだ。
「うううう浮気なんてしませんよ。流されませんよ」
僕は涙目になりながら王子を見上げた。
「自分からはしないだろうけど、カミルはいろいろ引き寄せちゃうから、巻き込まれないよう気をつけてね」
王子は微笑みながら僕の髪に口付けた。僕は冷や汗を流しながらコクコクと頷いた。
僕は卒業パーティの後、王子にそのまま連行され、恐ろしい『お仕置き』をされた。
甘味禁止令だ。
甘味を全く与えて貰えなくなった。あまりの辛さに禁断症状が出始めた頃、王子から『お預け』が解かれた。死ぬかと思った。もうあんな思いは絶対にしたくない。
飢えて干からびかけていた時、目の前に、色とりどりのケーキをいくつも並べられ、「どれ食べたい?好きなだけ食べていいよ」と王子に優しく言われた瞬間の僕のキモチを想像してみてほしい。
王子が救いの神様に見えた。僕から甘味を取り上げたのが誰だったか完全に忘れていた。
「他の奴に触らせたり懐いたら絶対駄目だよ。逃げ出すのも禁止ね。約束できる?」と囁かれた言葉に全力で頷き、僕は自ら王子の膝の上に乗り、涙を流しながら、王子にケーキを食べさせてもらっていた。一生分の甘味を摂取したと言っても過言じゃないくらい、心ゆくまで食べた。
満足して幸せに浸っていたら、笑顔の王子に寝室に引きずり込まれた。「約束破ったら閉じ込めるからね」と言われながら、衣服を剥ぎ取られ、身体中を撫で回され、弄られ、舐められ、吸われ、貫かれた。耳元で愛の言葉を囁かれながら、何度も何度も何度も絶頂を迎えさせられて、僕は限界を迎えてベッドで意識を失った。
目が覚めたら、身体中が痛いし怠いし動けなくて、辛くて涙が溢れた瞬間、「ごめんね、無理させたね」と心配そうな顔をした王子に、フルーツゼリーを口の中に入れられた。ボロボロの身体にゼリーの甘さが幸せを運んでくる。
コレ何だろ。アメとムチ?躾?
このままでは、王子なしでは生きていけなくなりそうだ。
僕は危機感を感じながらも、甘味の呪縛からは逃れられず、気がつけば毎日、頭を撫でられながら王子の膝の上でお菓子を食べさせてもらっている。
「カミル、口開けて」
王子は一口サイズに切り分けたケーキをフォークに刺すと、僕の口元へ運んだ。僕は素直に口を開く。口の中にケーキの甘みが広がり、幸せな気持ちになる。
「美味しい?」
王子は微笑みながら僕に問いかける。僕は何度も頷いた。
「じゃあ、俺にも味見させて?」
僕は王子の首に両腕を回し、抱きつくような体勢で自分から彼に口づけた。彼の口内に舌を差し込み、絡め合わせる。
王子は僕を抱きしめ、より深く唇を重ねてきた。上顎や歯列の裏まで舌でなぞられ、僕は身体の奥が熱くなるのを感じた。
「んん……っ」
王子は僕の後頭部を押さえながら、何度も角度を変えて唇を重ねる。僕も夢中になって彼に応えた。
「……甘いね」
王子は名残惜しげに僕の唇をぺろりと舐めると、微笑んだ。僕も微笑むと、再び彼の首に腕を回す。
僕と王子の関係は、表向きは主君と家臣のままだ。
この人とずっと一緒にいたいとは思うが、未来のことは分からない。
不安に思うことはこの先もあるだろう。だけど、僕は自分の気持ちと、この好きな人を信じよう。
「レオンハルト殿下、愛してます」
僕は幸福感に包まれながら、王子の耳元に口を寄せて囁いた。
【終】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
感想、エール、お気に入り登録くださった方、本当にありがとうございます。
気の利いたことが書けず、個別返信しておりませんが、感想コメント嬉しかったです。
エール機能は調べて知りました。わざわざありがとうございます!励みになります。
拙い作品ですが、少しでも面白かったよ~と感じていただけたら幸いです。
数日振りに会ったアリシアが、冷たい目で僕を見つめながら問いかけた。
僕はレオンハルト王子の膝の上に座り、王子からケーキを食べさせて貰っている最中だった。王子の反対側の腕は僕の腰に回されていて、王子の膝の上から逃げ出すことが出来ない。
「もちろんカミルの意思だよ。最近は自分から俺の膝の上に乗ってくるんだ。可愛いだろ?」
王子は僕の腰を撫でながらアリシアに笑いかける。アリシアの眉間に皺が寄った。
「殿下に聞いてません。カミル、どうなのよ?」
「ぼ、僕、自分でここに座ってるから」
僕は慌てて答えた。実際、嘘ではない。王子の膝の上に乗らないと甘味が食べさせてもらえないので、毎日自分から積極的に王子の膝の上に乗っている。
「あんたがそう言うならいいけど、人前では控えなさいね」
アリシアは呆れた眼差しを僕に向けた。僕は小さく首を何度も縦に振って頷いた。
「アリシアは家族だから気を許してるんだよ。ゆっくりしていくといいよ」
王子はアリシアに優しく告げた。僕を膝から下ろすつもりはないらしい。
「手続きが全て終わったのでご挨拶に上がっただけです。用事がすんだら退散します」
アリシアは素っ気なく答えると、僕の隣にある椅子に座った。
アリシアと王子は正式に婚約を解消した。
王子は僕達の父上には予め意思を伝えていたらしい。父上は、僕達の卒業を待つこと、僕達2人がそれを了承すればとアッサリ認めていたとか。先に父上から婚約解消の話を聞いたアリシアは、いったん返事を『保留』にし、王子に真意を確認していたそうだ。
僕は学園を卒業後、王宮でレオンハルト王子の秘書官として仕えることになった。何故か別邸に僕の部屋が用意されていた。
普通に実家からも通えるし、寄宿舎でも構わないと言ったが、王子が許してくれなかった。
「……アリシア、ごめん」
僕は王子の膝の上に乗せられたまま、アリシアに謝った。
「何で謝るのよ?」
アリシアは不思議そうに首を傾げた。
「だって、殿下と婚約破棄したくないって言ってたのに…、結婚できなくなっただろ」
「ああ、そんなこと。処刑と一家断絶が怖かっただけで、むしろ王妃なんて絶対に無理だから、婚約破棄だけなら万々歳よ」
アリシアはあっけらかんと笑った。
「そ、そうなんだ……」
「何なら、殿下がカミルを激愛してるのも知ってたしね。あんたが無理強いされてないかだけはずっと気になってたけど…」
「俺は無理強いなんてしてない。カミルに愛を乞い、受け入れて貰っただけだ」
王子は僕をギュッと抱きしめると、頬に口付けをした。
アリシアは冷ややかな視線を王子に投げかける。
「在学中に手を出すなって言いましたよね?順序間違えると身を亡ぼすって言いましたよね?カミルを『主人公』ポジに落とし込むなんて頭湧いてんのか?コラ」
アリシアの口調が段々崩れてきた。これはかなり怒っている時の状態だ。王子は苦笑いをしながらも、僕を抱き締める腕を緩めなかった。
あの日、卒業パーティで、僕はあまりの緊張感に絶えられなくなり、意識を失った。
気絶した僕をそのまま王子が王宮に連れ帰り、あの場は強制解散となったらしい。
このため、僕は公衆の面前で辱めを受けることもなかったし、今のところ首輪を嵌められて閉じ込められたりもしていない。
「殿下、いい加減認めてください。『白薔薇学園物語』をご存じですよね?」
アリシアは真剣な表情で王子を見つめた。
「以前言ってた未来視の話か?何のことだか…よく分からないな」
王子は平然と答えた。動揺している様子もない。
「卒業パーティで皆様にいろいろと伺いました。王家の、殿下のご指示で、エルスハイマー男爵家の断罪に動いてくださったと。おかげでローズハート公爵家は無実の罪を免れました。
それから……、カミルが修道院に行こうとして悪徳業者に騙されてしまうのを引き止めてくださいました。ありがとうございます」
アリシアは王子に向かって丁寧に礼を述べた。
「…でも、カミルがあの修道院と連絡をとっていたのをなぜ殿下はご存じだったのですか?……シナリオを最初からご存知だったのでしょう?
それに、カミルと恋仲になるかもしれない『シャルロッテ』を学園に編入させず、別人にするように仕向けられたのも……殿下ですよね?本物の『シャルロッテ』が勝手な行動をとらないよう、アロイス様に見張らせていたとか。他にも……」
アリシアの言葉を聞きながら、僕は驚いて王子の顔を見た。
「何を言っているのか、分からないな」
アリシアの言葉を遮り、王子は短く答えた。
「アリシア、今の結末は君が恐れていた未来とは違うものなんだろう?婚約解消は自分の周囲に不幸がなければと、予め了承していたはずだ。これ以上、何を暴くつもりだ?」
王子は苦笑しながら、アリシアを見つめた。
「この世界は『ゲーム』とやらではなく、現実だ。シナリオなんてものは存在しない。……未来は自分で、切り開くものだ。俺はカミルを不幸にしたくなくて、そのために行動しただけだ。これからは、叶うなら一緒に幸せになりたいと思っている」
王子は僕の腰に手を回して抱き寄せると、穏やかな眼差しでアリシアを見つめた。
「私の知っている内容とは若干違う原因が、すべて殿下ではないかと疑っておりましたが……。あくまで認めないんですね。いいんですか?『ゲーム』のハッピーエンドじゃなく、婚約破棄された『悪役令嬢』が『第一王子』と『主人公』にざまぁ展開しかける未来が待ってるかもしれませんよ?」
アリシアは呆れたように言った。
「俺に対しては分からないけど、アリシアはカミルをそんな目に遭わせるよう仕向けたりしないだろう?意外と家族想いなのは知ってるよ」
王子は楽しそうに笑った。
「やっぱり私が『悪役令嬢』だと認識してるんじゃない」
アリシアはジト目で王子を見つめたが、王子は気が付かないフリをした。
「まあ、いいです。カミルが一応生きてるのも確認できたし、そろそろ失礼いたします。カミル!なんかおかしなことがあったら、ちゃんと帰ってきて私に報告するのよ!!」
アリシアは僕に向かってビシッと指差して言い放つと、立ち上がった。
「アリシア。その言い方が誤解されるんだよ。心配してるから、いつでも相談にのるよ、って言えばいいのに」
王子は苦笑してアリシアを見つめた。
「だ、大丈夫です。殿下。ちゃんと伝わってます」
僕は慌てて返事をした。
「殿下、カミルはすぐ流されるから、浮気されないといいですね。それじゃ、またね。カミル」
アリシアは王子に悪戯っぽく笑いかけると、僕に向かって手を振り、颯爽と去っていった。
僕は思わず身体を震わせた。
アリシア……最後になんて言葉を残していくんだ。
「うううう浮気なんてしませんよ。流されませんよ」
僕は涙目になりながら王子を見上げた。
「自分からはしないだろうけど、カミルはいろいろ引き寄せちゃうから、巻き込まれないよう気をつけてね」
王子は微笑みながら僕の髪に口付けた。僕は冷や汗を流しながらコクコクと頷いた。
僕は卒業パーティの後、王子にそのまま連行され、恐ろしい『お仕置き』をされた。
甘味禁止令だ。
甘味を全く与えて貰えなくなった。あまりの辛さに禁断症状が出始めた頃、王子から『お預け』が解かれた。死ぬかと思った。もうあんな思いは絶対にしたくない。
飢えて干からびかけていた時、目の前に、色とりどりのケーキをいくつも並べられ、「どれ食べたい?好きなだけ食べていいよ」と王子に優しく言われた瞬間の僕のキモチを想像してみてほしい。
王子が救いの神様に見えた。僕から甘味を取り上げたのが誰だったか完全に忘れていた。
「他の奴に触らせたり懐いたら絶対駄目だよ。逃げ出すのも禁止ね。約束できる?」と囁かれた言葉に全力で頷き、僕は自ら王子の膝の上に乗り、涙を流しながら、王子にケーキを食べさせてもらっていた。一生分の甘味を摂取したと言っても過言じゃないくらい、心ゆくまで食べた。
満足して幸せに浸っていたら、笑顔の王子に寝室に引きずり込まれた。「約束破ったら閉じ込めるからね」と言われながら、衣服を剥ぎ取られ、身体中を撫で回され、弄られ、舐められ、吸われ、貫かれた。耳元で愛の言葉を囁かれながら、何度も何度も何度も絶頂を迎えさせられて、僕は限界を迎えてベッドで意識を失った。
目が覚めたら、身体中が痛いし怠いし動けなくて、辛くて涙が溢れた瞬間、「ごめんね、無理させたね」と心配そうな顔をした王子に、フルーツゼリーを口の中に入れられた。ボロボロの身体にゼリーの甘さが幸せを運んでくる。
コレ何だろ。アメとムチ?躾?
このままでは、王子なしでは生きていけなくなりそうだ。
僕は危機感を感じながらも、甘味の呪縛からは逃れられず、気がつけば毎日、頭を撫でられながら王子の膝の上でお菓子を食べさせてもらっている。
「カミル、口開けて」
王子は一口サイズに切り分けたケーキをフォークに刺すと、僕の口元へ運んだ。僕は素直に口を開く。口の中にケーキの甘みが広がり、幸せな気持ちになる。
「美味しい?」
王子は微笑みながら僕に問いかける。僕は何度も頷いた。
「じゃあ、俺にも味見させて?」
僕は王子の首に両腕を回し、抱きつくような体勢で自分から彼に口づけた。彼の口内に舌を差し込み、絡め合わせる。
王子は僕を抱きしめ、より深く唇を重ねてきた。上顎や歯列の裏まで舌でなぞられ、僕は身体の奥が熱くなるのを感じた。
「んん……っ」
王子は僕の後頭部を押さえながら、何度も角度を変えて唇を重ねる。僕も夢中になって彼に応えた。
「……甘いね」
王子は名残惜しげに僕の唇をぺろりと舐めると、微笑んだ。僕も微笑むと、再び彼の首に腕を回す。
僕と王子の関係は、表向きは主君と家臣のままだ。
この人とずっと一緒にいたいとは思うが、未来のことは分からない。
不安に思うことはこの先もあるだろう。だけど、僕は自分の気持ちと、この好きな人を信じよう。
「レオンハルト殿下、愛してます」
僕は幸福感に包まれながら、王子の耳元に口を寄せて囁いた。
【終】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
感想、エール、お気に入り登録くださった方、本当にありがとうございます。
気の利いたことが書けず、個別返信しておりませんが、感想コメント嬉しかったです。
エール機能は調べて知りました。わざわざありがとうございます!励みになります。
拙い作品ですが、少しでも面白かったよ~と感じていただけたら幸いです。
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