上 下
20 / 32

19 転校生に忠告される。

しおりを挟む
「あっ、ごめん。つい……」
 僕は慌ててシャルロッテの手を放した。ダメだ、甘いものを目の前にすると、見境無く行動してしまう。王子やコルネリウスからは当たり前のように見逃されていたが、普通は舐めないよな、と反省する。
 そして、王子の言いつけを破ってしまったことに改めて気付き、青ざめる。

「……もう1個食う?」
 シャルロッテは誤魔化すように『おはぎ』を差し出してきた。僕は泣きそうになりながら、首を横に振った。

「……ごめん。食べさせられるの、ダメって言われてたから……」
「は?何それ。どういう意味だ?」
 シャルロッテは眉根を寄せた。

「えっと……」
 僕は説明しようとして、言葉を詰まらせた。どこまで正直に伝えていいのか迷う。
「お前、まさか、変な約束させられてんのか?」
 シャルロッテは心配そうな表情になった。僕は黙りこんでしまう。

「……誰に?」
「……」
「なあ、誰に言われたんだ?」
 さっきまで笑顔だったのに、シャルロッテの表情が険しくなった。声も低い。僕は怯えて俯いた。

「……甘いもの、誰かに食べさせてもらうなって禁止された?」
 シャルロッテが僕の顔を覗き込んで、先ほどより優しく訊ねた。僕は無言で首肯する。
 シャルロッテが溜め息をついた。


「カミル。そいつ気を付けた方がいいよ」
 シャルロッテが真剣な顔で忠告してくれた。僕は顔をあげ、探るようにシャルロッテを見つめた。

「……どういうこと?」
「この場所で……、その、学園の、薔薇の庭園で、カミルにお菓子を与えるっつか、食べさせる行為ってさ、ちゃんと目的があるんだ。それはさ…」



「カミルの好感度あげるためよ」


 突然、後ろから聞こえたアリシアの声に僕は飛び上がりそうになった。
 振り返ると、アリシアがいつもの腕組みポーズで僕たちを睨んでいた。


「あれ?カミルの姉さんじゃん。なんでここに?レオの断罪は終わったのか?」
 シャルロッテが不思議そうな顔でアリシアを見る。

「あんた、不敬ね。レオンハルト殿下のこと、呼び捨てにすんじゃないわよ。身分考えなさいよ。それにいい加減カミルを解放しなさいよ」

 僕はアリシアから言われて、慌ててシャルロッテの膝の上から降りようとしたが、彼はまだ僕を離してくれなかった。

「嫌で~す。せっかくどさくさに紛れて密着できたのに、離す訳ないじゃん。それに、本人から、呼び捨ての許可はもらってるよ。カミルの姉さん怖いなあ」
 シャルロッテは僕を抱き締めたまま、耳元で苦笑しながら囁いた。
 僕は真っ赤になって俯いた。


「ガタガタうっさいわね」

 アリシアが眉間に皺を寄せて言い放つ。普段は背中に背負っている猫を今はぶん投げているらしい。
 僕の前だけでみせる口の悪いアリシアのままだった。アリシアにとってシャルロッテは、猫を被る必要がない相手のようだ。

「あんた、カミルの好感度のあげ方知ってるってことは、『白薔薇学園』やってたんでしょ?しかもカミルを餌付けして、好感度上げるの実践しようとして。胡散臭いと思ってたのよ。すっかり騙されてたわ。何企んでんのよ」


「……は、マジ?」
 シャルロッテが目を見開く。
「もしかして姉さんも転生者なの!?自分以外にも存在しているとは思ってたけど、こんな近くに!」
 シャルロッテが叫ぶと、アリシアの眉間の皺がさらに深くなる。

「ま~バレたんなら白状するけど、一応俺、カミルのファンだったから、推しの好感度あげられるか試して、スチルを生で拝みたかったていうか……。
 それより、姉さんも転生者だったら、事情分かってるんでしょ?俺がカミルのルート入った方が嬉しいんじゃないの。唯一の破滅回避ルートでしょ?」
 シャルロッテは僕の背中を撫でながら、アリシアに向かってニヤニヤと微笑む。


「あんたが本物の『シャルロッテ』ならね。偽物のくせに何言ってんのよ」
 アリシアは、シャルロッテを睨みつけながら、吐き捨てるように言った。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...