人違いなので離してください。

フジミサヤ

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【番外編3】

03 尋問された。

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「……あの、殿下は……本当に無能な方なのでしょうか?最初から、俺の目的に気が付いて、捕まえようとしていたと思うのですが……」

 思わずそう主張すると、フレデリックは眉間の皺を更に深くした。

「自分の命を狙っていると分かっている暗殺者を、自ら寝室に招くような馬鹿がどこにいる?王子はお前の外見に惑わされただけの愚か者だ。現にお前は王子と一夜を共にしているではないか。お前はその隙を上手く使えば良かったものを……」
「あ、いえ、殿下とは、本当に何もなくて……本当に……」

「……まあ、手篭めにされた挙句、任務が失敗に終わり現実逃避をしたくなるお前の気持ちは分かる」
 フレデリックは憐れむような目で俺を見下ろしてくる。

 全裸にされ、首輪と拘束具をつけられた状態で一晩中一緒にいたので、確かに全く説得力はないなと自分でも思う。だが別に俺と王子はナニをした訳ではない。俺の貞操はまだ無事だ。
 
 いや、ちょっと待てよ?
 尻に卑猥な玩具を突っ込まれたのはアウトなんじゃないか?いやでも本物は突っ込まれてないし。となればセーフだよな?うん、セーフだ。


「いつまでもダラダラと元婚約者への未練を引きずり、王子はその性根が腐っている。聖女との婚姻まで拒否するなど王家の面汚しもいいところなのだ」

 吐き捨てるように言うフレデリックの言葉を聞き、俺は思わず目を丸くした。

 俺にこの任務を指示したフレデリックは聖女の後見であり、一応神殿側の人間である。聖女に傾倒する彼が、独断で王子暗殺を謀っている気がしなくもないが、実際のところはよく分からない。

 何にせよ、俺はフレデリックに命じられた王子の暗殺に失敗した。ただでは済まないだろう。


「さっさとお前の口封じをしてしまいたいが……、王子にああ言われた以上、まだお前を殺すわけにもいかない」

 フレデリックの呟きに、俺はびくりと身を竦ませた。どうやら、あの変態王子の妙な執着心のおかげで今すぐ自分が殺されることはないと分かり安堵するが、だからと言ってこの状態が改善されるわけでもない。

「どちらにしろ、お前には重い処罰が下るだろう。王子がお前に直接尋問をするそうだが……自分がどうすればいいか、分かっているな?」

 フレデリックの言葉に、俺は思わず俯いて唇を噛んだ。やはりそうなるのは避けられないのだろう。


「……はい。覚悟はしています。あの、ただ妹だけはどうか……」
「お前が自分一人で王子暗殺未遂の罪を被り、余計な事を口外しないと約束できるなら、妹の命だけは助けてやる」

 結局のところ、口封じのために殺されるか、牢獄に繋がれるかのどちらかしかないということだ。それならば自らを差し出した方が賢明だろうという結論に達した俺は、人生を諦めたような心持ちで静かに深く頷いた。





***


 その日、王子が再び現れたのは夜半過ぎの事だった。

「遅くなってすまないな、ミシェル。良い子にしてたか?」
「……はあ」

 俺は朝と同じ格好で力なく返事をした。名前を知られている、ということは、俺の経歴はあらかた調べ上げられているに違いない。
 これから自分の身に降りかかるであろう残酷な運命を想像してしまい、俺の気分は最悪だった。

「食事をとらなかったそうだね。お腹すいてるだろ。今からでも何か食べるかい?食べさせてあげるよ」

 王子は笑顔のまま問いかけてくる。昼間、メイドらしき人が食事を持ってきてくれたが、俺は一切手を付けなかった。とてもそんな気分になどなれなかったし、食べても吐いてしまいそうだったからだ。首輪と拘束具をつけられた全裸男がベッドに転がってる様を見ても、顔色ひとつ変えずに淡々と食事を運んできたあのメイドも、随分と奇特な人間だった。
 こういう状況はよくあるのだろうか。

「……いえ、結構です」
「そう?じゃあ、まず先に君に尋問してしまおうかな」

 王子はベッドの上に座ると、俺の身体をゆっくりと起こした。そのまま抱えあげられ、何故か王子の膝の上に乗せられてしまい、俺は戸惑ってしまう。どう考えても尋問の体制ではない。首輪に繋がれた鎖がじゃらっと音を立てた。


「……やっぱりこの首輪、気に入らないよな?すまない、もう少しだけ我慢してくれるかな」

 王子は申し訳無さそうな口調でそう言いながら、俺の首筋に指を這わせてきた。その指の動きに背筋がぞくりと震える。そのまま反対側の腕が、俺の腰に巻きつき、完全に逃げられない体勢にされてしまう。

「……あの……何をお知りになりたいのですか?」

 黒幕を吐け、とかだろうか?自分は下っ端なので正直フレデリックから命じられたことが全てだ。
 
「うん?君の好きな食べ物とか、趣味とか、やりたいこととかね。大事なモノが何かとか色々あるじゃないか?まずは君のことをたくさん知りたいんだよ」
「……は?」

 王子の言葉に、俺は思わず間の抜けた声を上げてしまった。そんな俺を気にした様子もなく、彼はにこにこと笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。暗殺犯にするような質問ではない。というか、もっと他に訊かなければならないことがあるのではないか?

「……僕も、これでも反省したんだよ。以前の僕は相手のことを知ろうとせず一方的過ぎたって。……だから、今度はもう失敗したく無いんだ」

 王子は俺の頬や耳を撫でるようにしながら、そう告げた。その指先はひどく優しいもので、俺は思わず戸惑ってしまう。彼の眼差しはとても穏やかで優しげで……まるで愛しい恋人でも見るような熱っぽい視線だった。


 
 アレ?これなんか……もしかして俺、口説かれ始めてる?



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