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〚06〛「こっちへおいで」※
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※攻以外に性的に触られる描写があります。
俺は戸惑いながら、王子の命令に従い、彼の座るソファへと歩を進めた。以前ならこのまま彼の膝の上に座っていたが、流石にそれは躊躇われてソファの横で立ち止まる。
「こっち向いてここに座って」
王子は少しだけ不機嫌そうな瞳で俺を見遣ると、自分の膝を叩いた。
「……失礼します」
無表情のまま彼の足の上に跨って座ると、彼は俺の腰を抱き寄せて満足そうに笑った。久し振りの感覚に少し緊張する。
「最近、僕にかまってもらえなくて、寂しかった?ルシア」
耳元を擽る彼の声に、俺は「はい……」と答えながら、小さく身動ぎする。
本当は全く寂しくないどころか快適生活だったが、正直に言えるはずもなかった。
「あまり一緒にいれなくて、ごめんね」
王子は機嫌が良さそうに俺の頬を撫でると、そのまま顔を引き寄せて俺の唇に自らのそれを重ねた。
触れるだけのキスから、だんだんと深くなっていく口付けを、俺は無心で受け入れる。
これは一体どういうことだろう?
何故再びセクハラタイムが復活しているのだ? 聖女はどうした?喧嘩でもしたのか??
頭に大量の疑問符が浮かぶ。しかし、だからといって拒むことも出来ずに大人しく唇を貪られる。
「……ルシア」
王子は唇を離すと、俺の首筋や鎖骨に何度も口付ける。そのまま耳朶を舐められ、反射的に肩が跳ねる。少し性急すぎるように感じる行為に、俺は眉根を寄せた。王子の様子がおかしい気がする。
「昨日、演習場でノルドが君に向かって長剣を飛ばしてしまったらしいね」
王子は口付けの合間に言葉を紡ぎながら、器用に俺のシャツのボタンを外しはじめた。俺は彼の行動の早さに、目を白黒させる。
「っ……殿下?何を」
「君の身体に傷がないか、確かめないと」
今まで王子は俺の身体を触ることはあっても、衣服を乱すようなことはしなかった。しかし今日は何故か違った。
「ルシア、君は何故演習場にいたんだ?あんな場所、危険過ぎる」
王子は、俺のシャツのボタンを全て外すと、今度はその大きな掌で確かめるように、素肌を優しく撫で始めた。
「それは……ノルドが、自主練をしていたので……」
俺は王子の行動に動揺しながらも問われた事に答える。彼は俺の身体を撫でながら、首筋に顔を埋めてそこに口付けを落とした。
「ノルドは仕事も出来ないし、剣も碌に使えない。それどころか、君を危険に晒すような無能だ。退学させる」
王子は淡々とした口調でそう言うと、俺の首筋に強く吸い付いた。ピリッとした痛みが走り、俺は眉を顰める。どうやら、彼は怒っているようだ。
「ノルドはわざとではないし、彼は悪くありません。私が、見学を希望したので……」
「自ら進んで、あんな場所に?危険なことはするなと命じたはずだ。君は僕の婚約者なんだよ?もう少し自覚を持ってくれ」
王子は俺の言葉を遮るようにして叱責すると、俺の背中に腕を廻して強く抱き締めてきた。
「君が怪我でもしたら……考えただけで気が狂いそうになる」
王子は絞り出すような声でそう呟くと、俺の肩に額を押し付けて動かなくなった。俺は硬直したまま、動けないでいる。
「あの、殿下……申し訳ありません」
俺はやっとのことでそれだけ言うと、彼の背に腕を廻して優しく撫でた。王子はそれに応えるようにギュッと腕に力を入れると、俺の肩口に顔を埋めたまま小さく溜め息を吐き出した。
「今後、演習場への出入りは禁止だ。わかった?」
「……はい」
「いい子だ」
王子はそう言うと、俺の首筋を甘噛みした。俺は、王子の首に腕を廻したまま、身を硬くする。
「ルシア、……もう少し、触るよ?」
「は、はい……」
断れず了承はしたものの、俺は今の状況に全くついていけていない。本当に、王子はどうしたんだ?
俺が思案していると、王子の指先が俺の胸の突起を掠めた。俺は思わず「んっ……」と鼻から抜けるような声を出してしまう。慌てて口を塞ぐが、王子はそんな俺の様子をじっと観察しているようだった。
「ここ、気持ちいい?」
王子は俺の乳首を指で捏ね回しながらそう問いかける。俺は羞恥心を誤魔化すように首を左右に振った。
「……っ……擽ったい、です」
「そう。なら、そのうち気持ち良くなれるよ。開発しないとね」
王子は俺の回答に少し笑うと、そのまま俺の胸を弄り続けた。時折強く摘まれたりすると少し痛い。俺は眉根を寄せてその行為に耐えた。しかし彼はそんな俺の様子にはお構いなしで、今度はそこに吸い付いてきた。
「っ……殿下……」
彼の熱い舌がぬるりとそこを這い回る感触に思わず身を捩ったが、逃さないとばかりに腰を引き寄せられてしまう。俺は泣きそうになっていた。
男の乳首を舐めて、弄って、何が楽しいんだ? 王子は執拗に俺の乳首に吸い付いてくる。時折歯を立てられると、身体の奥が熱くなるような感覚に襲われた。
以前なら、少し触れ合えは王子は満足して、俺を解放してくれていたが、今日は違うようだ。これ、いつ終わるんだろう。
そのとき、扉をノックする音が聞こえて、王子の愛撫が止んだ。俺はほっと胸を撫で下ろす。
「アドラシオン殿下、ジラルド・ヴァンデです」
聞き慣れた幼馴染の声が耳に届き、俺は思わず息を詰めた。
王子はそんな俺の様子に小さく笑うと、再び俺の胸の突起に手を這わした。そのまま、指先で弾くように刺激を与えられる。
「っ……殿下……」
俺は小声で止めるよう訴え、王子の膝の上から降りようとするが、彼はただ笑うだけで俺の身体を離してくれない。
「入りなさい」
王子は俺を抱えたまま、平然と入室の許可を出した。俺は信じられない思いで王子を見る。何考えてんだ、この人。
「失礼致します。お呼びと伺い参上いたしま……し、た……」
ジラルドの言葉が途切れた。俺は羞恥心に襲われ、後ろを振り向けないでいた。王子はそんな俺の様子を眺めながら、ただ笑みを浮かべている。
「昨日、僕の婚約者を助けてくれてありがとう。直接お礼を伝えたくてね」
「いえ……それが騎士の役割でもありますから……」
ジラルドの声はひどく困惑しているようだった。当たり前だ。俺は王子の膝の上に乗せられ、胸を曝け出したまま、抱き込まれているのだ。こんな姿を見せ付けられれば、誰だって動揺するに決まっている。俺は居た堪れなくなって思わず俯いた。ジラルドの視線が痛い。
「ルシア、ヴァンデに直接お礼は言った?」
王子は俺の耳元でそう言いながら、俺の胸の先端を指先で摘まんだり押し潰したりして弄り続けている。俺はその刺激に、漏れそうになる声を必死で堪える。
「っ……はい……」
俺は上手く動かない頭でそれだけ答える。
もうヤダ、この変態王子。悪趣味にも程がある。ジラルドにこんな姿を見られて恥ずかしいし、情けない。涙で視界が滲む。
「ルシアは危なっかしいから心配なんだ。これからも守ってあげて」
「はい……。承知致しました」
俺の背後で、ジラルドが王子に感情のない声でそう答えるのが聞こえた。俺はもう何も言えずに、ただ唇を噛み締める。
「ヴァンデ、もう下がって良い」
王子は、俺の頭を優しく撫でながらジラルドにそう告げる。しかし、ジラルドは動く気配がなかった。
「殿下、失礼を承知で申し上げますが……」
ジラルドの声が静かな部屋に響き渡る。王子はそんなジラルドの様子をただ静かに見つめていた。
「無理強いは、よろしくないかと」
ジラルドの声は怒りを孕んでいた。王子は無表情のままジラルドを見遣ると、「別に無理強いなんてしていないよ」と呟く。
「震えていますし、泣いておられます」
俺は、ジラルドの言葉に思わず目を見開いた。確かに俺の身体は小刻みに震え、目尻からは涙が伝い落ちていた。自分が恐怖を感じていることに、今やっと気が付いたのだ。
「ルシア、彼はこう言ってるけど君は僕に触られるの、嫌?」
王子は俺を膝に乗せたまま、平然とそう問いかける。
コイツ殴りたい。嫌に決まってんだろ!と怒鳴りつけてやりたい。脳内で暴言を吐きながらも、一応貴族の端くれである俺は、王子の膝の上で身を硬くしたまま、俯いて小さく首を横に振った。
「嫌では……ないです」
嫌だ、と答えられる筈がない。王子の声は静かで優しかったが、その質問には有無を言わせぬ力があった。
俺の返答に、ジラルドが息を呑む音が聞こえた。しかしすぐに彼はいつもの冷静な声に戻って「そうですか……」と答えた。
「なら問題ないね。ヴァンデももう下がって良いよ」
「……失礼致しました」
ジラルドはそれだけ言うと踵を返して部屋を出ていったようだった。これ以上、ジラルドの前でみっともない姿を晒したくなかった俺としては、ひとまず安堵する。彼の表情は最後まで見れなかったが、きっと呆れていたに違いない。
「恥ずかしかった?」
王子が俺を見つめながら尋ねてきた。俺は王子を涙目で睨み付けながら、小さく頷いた。もうこんな羞恥プレイに付き合わされるのは御免だ。王子はそんな俺の様子をみて笑っている。
「ごめんね、ルシア。君が泣きながら必死に声を我慢してる姿が、可愛すぎて……つい意地悪してしまった」
ごめんと言いながらも、どこか楽しそうな雰囲気さえ醸し出す王子にクソ腹が立つ。こっちは羞恥と恐怖で死ぬ所だったというのに。
「……人前で辱められて、傷付きました」
俺は頬を膨らませて、つい本音を漏らしてしまう。また涙が溢れ出そうになり、慌てて俯く。王子は俺のそんな態度に少し目を見開くと、すぐに瞳を細めて、物凄く嬉しそうに笑った。
「ヤバいな。今日はルシアの本音がダダ漏れだ。興奮しすぎてどうにかなりそう」
何故か浮かれた様子で訳の分からないことを呟いている。最低だ、この人。絶対反省してないな。悶絶している王子を目の前に俺は自分の失敗を悟る。
この変態には何されても無反応でいなきゃいけないと把握済みだったのに。
せっかく聖女セリアという王子の興味を惹き付けてくれる救世主が現れて、放置プレイ決定だと喜んでいたのに。何故、思い出したように俺を玩具にするのか。
「せ、…聖女様は……どうされたのですか?」
俺は王子の気を逸らすようにそう尋ねた。つい昨日まで超お気に入りだったじゃないか。彼女には飽きたのか?
王子は少し表情を変え、可哀想なものを見るような目で俺を見下ろした。
「やはり……僕の行動が君を追い詰めていたんだね。ごめんよ。彼女は少し…いや、かなり頭が残念な子だけど、悪い子じゃないし、僕にとって必要だから側に置いてるんだ。ルシアも意地悪しないで、仲良くしてあげて欲しい」
王子から哀れみの表情で静かに諭され、俺は怒れば良いのか呆れて良いのか分らなくなる。別に意地悪はしてないのだが?「出来ない相談です」と答えた俺に王子は溜息を吐いている。何故だ。
「ルシアが嫉妬してくれるのは嬉しいけど、これ以上の噂が真実として流れれば、僕も君を庇いきれない。セリアにはこれ以上近づかないように。……忠告は、したよ」
「……?わかりました……?」
王子が何を言っているのかわからないけど、あまり突っ込んではいけない雰囲気に思わず頷いた。聖女は奇行が目立つから怖いし、言われなくても近づかない。むしろ逃げている。
王子は俺の返答に満足したようで、優しく微笑んだ。
「ルシア。不安にさせて、泣かせて本当にごめんね。毎日は会えないけど、これからはちゃんと時間作るから……君の泣き顔は、そそられるし」
王子はサラッと問題発言をしながら、俺の目元に唇を押し当てて涙を舐め取った。そしてそのまま、瞼や頬に軽い口付けを落とす。
ヤバい、王子が余計な気遣いをしようとしている。完全に戦略ミスだ。身動ぎすらできず、俺は固まったままだ。
「次は、ここを拡げるから。少しずつ慣らしていこうね」
「拡げ……?」
王子はそう言いながら俺の尻の谷間に指を這わした。その感覚に思わず身体が跳ねる。
「ちゃんと僕を全部受け入れてね」
微笑みながら耳元で甘く囁かれた王子の言葉に、俺は血の気が引いた。
俺は戸惑いながら、王子の命令に従い、彼の座るソファへと歩を進めた。以前ならこのまま彼の膝の上に座っていたが、流石にそれは躊躇われてソファの横で立ち止まる。
「こっち向いてここに座って」
王子は少しだけ不機嫌そうな瞳で俺を見遣ると、自分の膝を叩いた。
「……失礼します」
無表情のまま彼の足の上に跨って座ると、彼は俺の腰を抱き寄せて満足そうに笑った。久し振りの感覚に少し緊張する。
「最近、僕にかまってもらえなくて、寂しかった?ルシア」
耳元を擽る彼の声に、俺は「はい……」と答えながら、小さく身動ぎする。
本当は全く寂しくないどころか快適生活だったが、正直に言えるはずもなかった。
「あまり一緒にいれなくて、ごめんね」
王子は機嫌が良さそうに俺の頬を撫でると、そのまま顔を引き寄せて俺の唇に自らのそれを重ねた。
触れるだけのキスから、だんだんと深くなっていく口付けを、俺は無心で受け入れる。
これは一体どういうことだろう?
何故再びセクハラタイムが復活しているのだ? 聖女はどうした?喧嘩でもしたのか??
頭に大量の疑問符が浮かぶ。しかし、だからといって拒むことも出来ずに大人しく唇を貪られる。
「……ルシア」
王子は唇を離すと、俺の首筋や鎖骨に何度も口付ける。そのまま耳朶を舐められ、反射的に肩が跳ねる。少し性急すぎるように感じる行為に、俺は眉根を寄せた。王子の様子がおかしい気がする。
「昨日、演習場でノルドが君に向かって長剣を飛ばしてしまったらしいね」
王子は口付けの合間に言葉を紡ぎながら、器用に俺のシャツのボタンを外しはじめた。俺は彼の行動の早さに、目を白黒させる。
「っ……殿下?何を」
「君の身体に傷がないか、確かめないと」
今まで王子は俺の身体を触ることはあっても、衣服を乱すようなことはしなかった。しかし今日は何故か違った。
「ルシア、君は何故演習場にいたんだ?あんな場所、危険過ぎる」
王子は、俺のシャツのボタンを全て外すと、今度はその大きな掌で確かめるように、素肌を優しく撫で始めた。
「それは……ノルドが、自主練をしていたので……」
俺は王子の行動に動揺しながらも問われた事に答える。彼は俺の身体を撫でながら、首筋に顔を埋めてそこに口付けを落とした。
「ノルドは仕事も出来ないし、剣も碌に使えない。それどころか、君を危険に晒すような無能だ。退学させる」
王子は淡々とした口調でそう言うと、俺の首筋に強く吸い付いた。ピリッとした痛みが走り、俺は眉を顰める。どうやら、彼は怒っているようだ。
「ノルドはわざとではないし、彼は悪くありません。私が、見学を希望したので……」
「自ら進んで、あんな場所に?危険なことはするなと命じたはずだ。君は僕の婚約者なんだよ?もう少し自覚を持ってくれ」
王子は俺の言葉を遮るようにして叱責すると、俺の背中に腕を廻して強く抱き締めてきた。
「君が怪我でもしたら……考えただけで気が狂いそうになる」
王子は絞り出すような声でそう呟くと、俺の肩に額を押し付けて動かなくなった。俺は硬直したまま、動けないでいる。
「あの、殿下……申し訳ありません」
俺はやっとのことでそれだけ言うと、彼の背に腕を廻して優しく撫でた。王子はそれに応えるようにギュッと腕に力を入れると、俺の肩口に顔を埋めたまま小さく溜め息を吐き出した。
「今後、演習場への出入りは禁止だ。わかった?」
「……はい」
「いい子だ」
王子はそう言うと、俺の首筋を甘噛みした。俺は、王子の首に腕を廻したまま、身を硬くする。
「ルシア、……もう少し、触るよ?」
「は、はい……」
断れず了承はしたものの、俺は今の状況に全くついていけていない。本当に、王子はどうしたんだ?
俺が思案していると、王子の指先が俺の胸の突起を掠めた。俺は思わず「んっ……」と鼻から抜けるような声を出してしまう。慌てて口を塞ぐが、王子はそんな俺の様子をじっと観察しているようだった。
「ここ、気持ちいい?」
王子は俺の乳首を指で捏ね回しながらそう問いかける。俺は羞恥心を誤魔化すように首を左右に振った。
「……っ……擽ったい、です」
「そう。なら、そのうち気持ち良くなれるよ。開発しないとね」
王子は俺の回答に少し笑うと、そのまま俺の胸を弄り続けた。時折強く摘まれたりすると少し痛い。俺は眉根を寄せてその行為に耐えた。しかし彼はそんな俺の様子にはお構いなしで、今度はそこに吸い付いてきた。
「っ……殿下……」
彼の熱い舌がぬるりとそこを這い回る感触に思わず身を捩ったが、逃さないとばかりに腰を引き寄せられてしまう。俺は泣きそうになっていた。
男の乳首を舐めて、弄って、何が楽しいんだ? 王子は執拗に俺の乳首に吸い付いてくる。時折歯を立てられると、身体の奥が熱くなるような感覚に襲われた。
以前なら、少し触れ合えは王子は満足して、俺を解放してくれていたが、今日は違うようだ。これ、いつ終わるんだろう。
そのとき、扉をノックする音が聞こえて、王子の愛撫が止んだ。俺はほっと胸を撫で下ろす。
「アドラシオン殿下、ジラルド・ヴァンデです」
聞き慣れた幼馴染の声が耳に届き、俺は思わず息を詰めた。
王子はそんな俺の様子に小さく笑うと、再び俺の胸の突起に手を這わした。そのまま、指先で弾くように刺激を与えられる。
「っ……殿下……」
俺は小声で止めるよう訴え、王子の膝の上から降りようとするが、彼はただ笑うだけで俺の身体を離してくれない。
「入りなさい」
王子は俺を抱えたまま、平然と入室の許可を出した。俺は信じられない思いで王子を見る。何考えてんだ、この人。
「失礼致します。お呼びと伺い参上いたしま……し、た……」
ジラルドの言葉が途切れた。俺は羞恥心に襲われ、後ろを振り向けないでいた。王子はそんな俺の様子を眺めながら、ただ笑みを浮かべている。
「昨日、僕の婚約者を助けてくれてありがとう。直接お礼を伝えたくてね」
「いえ……それが騎士の役割でもありますから……」
ジラルドの声はひどく困惑しているようだった。当たり前だ。俺は王子の膝の上に乗せられ、胸を曝け出したまま、抱き込まれているのだ。こんな姿を見せ付けられれば、誰だって動揺するに決まっている。俺は居た堪れなくなって思わず俯いた。ジラルドの視線が痛い。
「ルシア、ヴァンデに直接お礼は言った?」
王子は俺の耳元でそう言いながら、俺の胸の先端を指先で摘まんだり押し潰したりして弄り続けている。俺はその刺激に、漏れそうになる声を必死で堪える。
「っ……はい……」
俺は上手く動かない頭でそれだけ答える。
もうヤダ、この変態王子。悪趣味にも程がある。ジラルドにこんな姿を見られて恥ずかしいし、情けない。涙で視界が滲む。
「ルシアは危なっかしいから心配なんだ。これからも守ってあげて」
「はい……。承知致しました」
俺の背後で、ジラルドが王子に感情のない声でそう答えるのが聞こえた。俺はもう何も言えずに、ただ唇を噛み締める。
「ヴァンデ、もう下がって良い」
王子は、俺の頭を優しく撫でながらジラルドにそう告げる。しかし、ジラルドは動く気配がなかった。
「殿下、失礼を承知で申し上げますが……」
ジラルドの声が静かな部屋に響き渡る。王子はそんなジラルドの様子をただ静かに見つめていた。
「無理強いは、よろしくないかと」
ジラルドの声は怒りを孕んでいた。王子は無表情のままジラルドを見遣ると、「別に無理強いなんてしていないよ」と呟く。
「震えていますし、泣いておられます」
俺は、ジラルドの言葉に思わず目を見開いた。確かに俺の身体は小刻みに震え、目尻からは涙が伝い落ちていた。自分が恐怖を感じていることに、今やっと気が付いたのだ。
「ルシア、彼はこう言ってるけど君は僕に触られるの、嫌?」
王子は俺を膝に乗せたまま、平然とそう問いかける。
コイツ殴りたい。嫌に決まってんだろ!と怒鳴りつけてやりたい。脳内で暴言を吐きながらも、一応貴族の端くれである俺は、王子の膝の上で身を硬くしたまま、俯いて小さく首を横に振った。
「嫌では……ないです」
嫌だ、と答えられる筈がない。王子の声は静かで優しかったが、その質問には有無を言わせぬ力があった。
俺の返答に、ジラルドが息を呑む音が聞こえた。しかしすぐに彼はいつもの冷静な声に戻って「そうですか……」と答えた。
「なら問題ないね。ヴァンデももう下がって良いよ」
「……失礼致しました」
ジラルドはそれだけ言うと踵を返して部屋を出ていったようだった。これ以上、ジラルドの前でみっともない姿を晒したくなかった俺としては、ひとまず安堵する。彼の表情は最後まで見れなかったが、きっと呆れていたに違いない。
「恥ずかしかった?」
王子が俺を見つめながら尋ねてきた。俺は王子を涙目で睨み付けながら、小さく頷いた。もうこんな羞恥プレイに付き合わされるのは御免だ。王子はそんな俺の様子をみて笑っている。
「ごめんね、ルシア。君が泣きながら必死に声を我慢してる姿が、可愛すぎて……つい意地悪してしまった」
ごめんと言いながらも、どこか楽しそうな雰囲気さえ醸し出す王子にクソ腹が立つ。こっちは羞恥と恐怖で死ぬ所だったというのに。
「……人前で辱められて、傷付きました」
俺は頬を膨らませて、つい本音を漏らしてしまう。また涙が溢れ出そうになり、慌てて俯く。王子は俺のそんな態度に少し目を見開くと、すぐに瞳を細めて、物凄く嬉しそうに笑った。
「ヤバいな。今日はルシアの本音がダダ漏れだ。興奮しすぎてどうにかなりそう」
何故か浮かれた様子で訳の分からないことを呟いている。最低だ、この人。絶対反省してないな。悶絶している王子を目の前に俺は自分の失敗を悟る。
この変態には何されても無反応でいなきゃいけないと把握済みだったのに。
せっかく聖女セリアという王子の興味を惹き付けてくれる救世主が現れて、放置プレイ決定だと喜んでいたのに。何故、思い出したように俺を玩具にするのか。
「せ、…聖女様は……どうされたのですか?」
俺は王子の気を逸らすようにそう尋ねた。つい昨日まで超お気に入りだったじゃないか。彼女には飽きたのか?
王子は少し表情を変え、可哀想なものを見るような目で俺を見下ろした。
「やはり……僕の行動が君を追い詰めていたんだね。ごめんよ。彼女は少し…いや、かなり頭が残念な子だけど、悪い子じゃないし、僕にとって必要だから側に置いてるんだ。ルシアも意地悪しないで、仲良くしてあげて欲しい」
王子から哀れみの表情で静かに諭され、俺は怒れば良いのか呆れて良いのか分らなくなる。別に意地悪はしてないのだが?「出来ない相談です」と答えた俺に王子は溜息を吐いている。何故だ。
「ルシアが嫉妬してくれるのは嬉しいけど、これ以上の噂が真実として流れれば、僕も君を庇いきれない。セリアにはこれ以上近づかないように。……忠告は、したよ」
「……?わかりました……?」
王子が何を言っているのかわからないけど、あまり突っ込んではいけない雰囲気に思わず頷いた。聖女は奇行が目立つから怖いし、言われなくても近づかない。むしろ逃げている。
王子は俺の返答に満足したようで、優しく微笑んだ。
「ルシア。不安にさせて、泣かせて本当にごめんね。毎日は会えないけど、これからはちゃんと時間作るから……君の泣き顔は、そそられるし」
王子はサラッと問題発言をしながら、俺の目元に唇を押し当てて涙を舐め取った。そしてそのまま、瞼や頬に軽い口付けを落とす。
ヤバい、王子が余計な気遣いをしようとしている。完全に戦略ミスだ。身動ぎすらできず、俺は固まったままだ。
「次は、ここを拡げるから。少しずつ慣らしていこうね」
「拡げ……?」
王子はそう言いながら俺の尻の谷間に指を這わした。その感覚に思わず身体が跳ねる。
「ちゃんと僕を全部受け入れてね」
微笑みながら耳元で甘く囁かれた王子の言葉に、俺は血の気が引いた。
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