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〚00〛宣言
しおりを挟む「ルシア・ディ・ファンティオール。君との婚約を破棄する」
学園のホールに響く、よく通る低い声。卒園式後の交流会の日、壇上で堂々と宣言しているのは、俺の婚約者でもあるこの国の第二王子、アドラシオン・ファン・リュド・エストラントだ。
白銀の髪に翡翠色の瞳。モデルのようにスラリとした長身に、まるで彫刻のような整った美貌の持ち主である。その見た目から氷の貴公子と言われている彼は、真っ直ぐに俺の方を見据えている。
その隣には、彼の腕に絡みつくように身体を寄せて立つ美少女の姿があった。彼女はこの学園でも有名な『聖女』だ。
セリア・フランソワーズ。治癒魔法のスペシャリストである。市井の出身でありながら、その類い稀なる才能を見出され、この学園に特例として編入が許された。
「ご、ごめんなさいっ……ルシア様……!」
セリアは目に涙を溜めながら、か細い声で謝罪の言葉を口にする。肩まで伸ばしたピンクブロンドの髪に、透き通るような白い肌。庇護欲を掻き立てる小動物のようなその容姿は、男女問わず魅了する。
「アドラシオン殿下ぁ……私っ……」
セリアは王子に縋り付くようにしながら、上目遣いで彼を見上げる。そのアメジストの瞳には涙の膜が張り、まるで恋する乙女のようだ。
「……セリアが謝ることじゃない」
王子はそんなセリアを優しく見つめ、慰めるようにその肩を抱きしめた。そして俺に冷たい視線を向ける。
「婚約を破棄する理由は、君自身がよく理解しているはずだ。……ルシア、僕は君に忠告したはずだよ」
王子は眉間に皺を寄せると、深くため息をついた。そして鋭い視線を俺に向けると、今度は睨むように目を細めた。
「ルシア・ディ・ファンティオール。聖女への度重なる嫌がらせの容疑が掛かっている。……何か申し開きはあるか?」
王子の冷たい声に、ホールがざわつき始めた。俺は無表情のまま、ただ黙って立っている。そしてゆっくりと目を閉じると、そのまま静かに一呼吸つく。身体の震えが止まらないが、なんとか耐える。
「アドラシオン殿下。私は聖女様に危害を加えるような行為は一切しておりません」
「まだ、そんなことを言うのか?往生際の悪い子だね。調べはついてるんだよ、これが証拠だ」
王子はそう言って、書類の束を俺の目の前に突きつけた。俺はそれを受け取ると、その内容を確認する。
全く身に覚えのない悪行の数々が書き連ねられていた。しかも、俺とそれなりに親交のある人物の名前も、容疑者や実行者としていくつか見受けられる。
チラリと周囲を見渡せば、俺と親交のあった知人たちや、俺を慕ってくれていた後輩が困惑した様子でこちらを見ていた。その顔色は青ざめており、中には涙を浮かべている者もいる。
「ここに書かれていることは事実無根だと君は言うのか?中には彼女を階段から突き落とす等悪質な行為もあるようだが。君が指示したんじゃないのか?」
王子は冷ややかな声で、容赦なく追い討ちをかけてくる。
「アドラシオン殿下!それについてですがっ……!!」
「黙れ。お前に発言の許可は与えていない」
慕ってくれていた後輩の一人であるノルドが、勇気を振り絞って反論したが、王子の氷のような眼差しに一蹴されてしまう。彼は真っ青になって俯いた。
「ルシア、君が素直に罪を認めて謝罪するなら、君の指示で聖女を害そうとした者達は不問に付そう。……今後、自らの行動を改め、僕に全て従うと誓うならば、君のことを許す用意はある。……君次第だ」
王子は、俺に向かって優しく告げた。微笑みさえ浮かべている。
「……どうする?ルシア」
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