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第5章 相思
失意(★)
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迦楼羅を破壊する術を見つけられなかった上、迦楼羅と久遠を奪われて手詰まりに陥った静夜たちは大森林に戻る他なかった。
宇内と永遠と彼方、そして瞬も駆けつけた琥珀の館のテラスに来るなり静夜は四人の前に跪いて頭を垂れた。
「…申し訳ありません…俺の不注意と力不足です…」
ひどく打ちひしがれ、憔悴した静夜の今にも消え入りそうな声に、四人は悲痛な顔を見合わせた。彼方に至ってはもはや顔面蒼白だ。静夜の後ろに控えている曜と界の表情も暗い。
「…久遠がさらわれたのは私の責任だ」
永遠は沈鬱そうにつぶやき、うつむいた。
「久遠は自分で自分の限界を理解し迷惑をかけまいとしていたのに、私は根拠のない直感を信じ込み、自分と同じ役割を久遠に期待し押しつけた…そもそも最初から久遠を旅に送り出すべきではなかったんだ…」
「違う…!君のせいじゃない!」
静夜は激しく首を振り、握りしめた拳をぶるぶると震わせた。
「俺が久遠を追いつめたんだ…彼の自尊心を傷つけ、逆撫でし、自暴自棄に走らせた…俺があんなことを言わなければ、久遠はあんな無茶なこと…!!」
「…静夜、君…」
久遠との間にいったい何がーーそう口から出かかったところで永遠は周囲の目と耳を意識し、何も言わずに静夜の肩を優しく撫でた。
「仮にそうだとしても、それもあいつが自分の意思で決めたこと…もうそれ以上自分を責めるな、静夜…」
「…だから籠の外に出したくなかったのに」
彼方がほとんど唇を動かさずに舌の上でだけぽつりとこぼしたが、気づく者はいなかった。
界が発言した。
「自分の意思で決めたと言えば、さらわれる直前、久遠は迦楼羅は自分が何とかすると言ってました。…彼には何か秘策があったんでしょうか」
「今となってはわからないが…ともかく今は迦楼羅より久遠を救出することが最優先だ」
答えた永遠に静夜は身を乗り出し、半ば取り乱したように訴えた。
「俺が…俺がひとりで行く!黄泉と明夜が本当に欲しいのは俺の身なんだ…俺さえ手に入れば久遠は…!」
「そんなことをしたら迦楼羅が無限に生み出されてそれこそ破滅へ一直線だぞ!だいたいあいつらが口約束を守る保証なんて…!」
「それに、行くと行ってもいったいどこへ?久遠がどこに連れていかれたか、心当たりが?」
「それは…煌狩りと黄泉の拠点を片っ端から…」
「冷静さを欠いた今の君ではかえって罠にはまり利用されかねない。君まで失ってしまったら私たちは打つ手がなくなってしまう。君の気持ちはわかるが、今は心を落ち着けて次の策を考えよう」
曜と彼方に立て続けに現実を突きつけられ、永遠にも苦言を呈されて静夜はとてもそれ以上反論することができず、肩を落としてうなだれた。宇内は小さく溜め息をつき淡々と言った。
「久遠のことは心配だが、黄泉は頭が良く用心深い。今すぐに人質に危害を加えるような愚は犯さないだろう。静夜殿、君は少し頭を冷やし、身体を休めなさい。事態が動いたときにすぐに行動に移れるように」
「…はい」
「…」
宇内は隣で先ほどから何事か沈思黙考している瞬に目を向けた。
「どうした、瞬。何か気になるのか?」
「…いえ…まだ確証がありませんので」
「よければ後で話してくれ」
「はい」
宇内は久遠の捜索と救出のため、旅をする同胞たちに知らせを送り情報提供を呼びかけることを決めた。そして静夜には再び麗のもとに身を置くことを求めたが、彼は頑なに拒否し、始めにあてがわれた宿舎の部屋にこもった。誰とも、永遠とさえ話す気になれず、今はとにかくひとりになりたかった。
(結局俺は何も果たせていない…大言壮語を吐くだけ吐いて、その実永遠に頼らずには何も実行できず、界くんたちを巻き込んで…挙句の果てに久遠をむざむざと敵の手に渡した…)
その日の夜、静夜は物思いに沈みながら煌気のランプに彩られた森の夜道を歩いていた。
(…俺には何ひとつ守れない…仲間も、両親の形見も、償いたい人たちも…たったひとりの大切な人さえ…)
彼の足は短い間ながらその人と過ごした思い出の場所に自然と向いていた。今踏みしめて進むこの小径も、その人が教えてくれて一緒に歩いた道だ。
(そう思ってはいけないということは始めからわかっていたはずなのに…)
笑い声を立てながら軽やかな足取りで先へ先へと行くその人の姿が溶けるように透けて闇の奥に消える。静夜は昔のことを思い出していた。子供の頃のことだ。
十数年前のある日、彼は砦の裏山の森で怪我をし迷子になった仔兎を見つけ、不憫に思い、父の明夜に内緒でこっそり部屋に連れ帰った。そして怪我の手当てをし、寝床を作り、水と餌を与えて世話をしながら可愛がっていたが、数日後仔兎はあっけなく明夜に見つかってしまった。せめて怪我が治るまでは世話をさせて欲しい、治ったら森に帰すから、と懇願する彼の手から明夜は仔兎を取り上げ、動物と戯れるなどくだらない、鍛練の妨げになる、と言い、首根っこを摑んでぶら下げた仔兎をそのままどこかに連れ去った。心配した彼が少し経ってから明夜を見つけ、あの仔兎がどうなったかと尋ねると、明夜はぶすっとした不機嫌な顔つきで答えた。
『食った』
青ざめて棒立ちになる彼に、露骨に鼻と唇をひん曲げてさらに明夜は平然と言った。
『まずかった。仔兎だから良さそうだと思ったが、身は硬いし少ないし、食えたもんじゃない。だがまあ、野生ならあんなもんかな』
彼はすぐさま厨房に駆け込んだ。血の臭いを感じて懸命に探し回ると、屑入れの中にさばかれた兎の小さな残骸が無造作に投げ込まれているのを見つけた。その日から彼は肉を食べることができなくなった。しかし食べなければ世話係の者に心配と迷惑をかけてしまうことと、肉を食べなければ身体を大きく強くすることができないことを知っていたので、無理にでも少しずつ食べようと努めた。震える手で口に入れてはその都度吐きそうになり、それでも涙を堪えて必死に飲み込んで、自分の命に換えた。
時が経つと次第に心の傷は癒え、肉を食べることにも抵抗はなくなったが、その件以来、何かを慈しみたい、大切にしたい、愛したいと思う気持ちには罪と後悔の予感が常につきまとった。自分が守りたいと思ったものはいずれすべて奪い取られ、傷つけられ、踏みにじられる運命なのだ、それがこの父の後継者である自分の宿命なのだ、と。それゆえ彼は欲や物に執着せず、他者を心の中に立ち入らせないよう慎重に振る舞ってきた。永遠の優しさに最初反発し背を向けたのもそれが理由だった。まして恋や愛などは喪失と同義だった。だが久遠に対しては違っていた。
記憶を失い呪縛を解かれていたせいでその抑制はかかることなく、心が自然に動くままいつしか彼は久遠を愛していた。その自由、そのしなやかさ、朗らかさ、ひたむきさ、そして優しさ…久遠の見せるあらゆる表情が空っぽになった心を隅々まで輝きで埋め尽くし温めてくれた。久遠と出会い、二人で旅した日々は彼にとって人生で最も幸福な時間だった。記憶を取り戻した今も、自覚されたこの気持ちは抑えることなど到底できない。
(でも、もし記憶を失っていなくても、きっと俺は久遠を愛していた…あの笑顔を愛さずにいられなかった…)
気づけばそこは翡翠の屋根のあの巨木の足許だった。目にするのは最初の旅立ちの朝以来だ。しかし今は住人が留守なので生活の気配やぬくもりはない。上り口の梯子は管理を任されている四季の手によって巻き上げられ、縄できっちりと束ねてあったが、静夜は構わず縄を解き、躊躇なく梯子を上っていった。
樹上の家の最上層、久遠の部屋であるデッキは綺麗に片づけられてがらんとしていた。もともと物が少なくすっきりとした空間だったが、今は時が止まってしまったかのような沈黙と暗闇に冷え冷えと沈んでいる。あの頃と変わらないのは頭上の緑の天蓋越しに広がる星空だけだ。
静夜は久遠の面影を探して部屋中を隈なく見渡した。丸太のテーブルを見ると清水をコップに注いで出してくれる姿が浮かび、畳まれた布団や毛布が目に入ると並べて敷いたその上で笑顔と握手を交わしたことが思い出された。その人はもういない。彼をあの仔兎と同じ末路に導くのが恐ろしくて、自分のこの手で遠ざけてしまったからだ。
記憶を取り戻してからというもの、静夜を悩ませたのは離れようという気持ちと側にいたいという気持ちのせめぎ合いだった。何度も彼から離れようとし、それでも諦めきれずにわずかな望みにすがり、最後は冷たい言葉で彼の方から距離を置くように仕向けもしたが、それはかえって久遠を傷つけ、自分も苦しめ、恋慕と後悔をますます深めただけだった。そして自分を守るために身を捧げた久遠は今まさにあの無抵抗の仔兎のように喉許に刃を突きつけられ、新たな犠牲になろうとしている。
(久遠を失いたくない…だが俺に何ができる…)
静夜は唇を噛みしめ、少しの間、彼がその下のどこかにいる満天の星空を見上げていた。
翡翠の屋根を後にした静夜は、次に久遠と自分が初めて出会った場所に向かった。自分の目で見たのはあの夜のたった一度きりだったので、無性に心惹かれたのだ。
広大な森林の外れにひっそりと抱かれた掬星ヶ淵は、あの夜と何ら変わることなく美しく静謐だった。地上に墜ちた流れ星の欠片のような光源が瞬きながらゆっくりと飛び交い、穏やかに打ち寄せる清らかな波が岸辺を洗っている。ぼうっと立ち尽くす静夜の記憶には久遠の歌声と踊る姿が知らず知らずのうちに蘇っていた。
(そう言えば永遠も歌っていた、あの歌…弟が好きだったという、旅に出た友の無事を願う歌…)
同じものに二度初めて触れた不思議なめぐり合わせに胸を打たれてただ夜の水辺を眺めていると、背後から誰かが近づいてくる気配がして静夜は振り向いた。
目と目が合うと、彼方はうっすら微笑んだ。
「やあ、静夜くん。夜中にこんなところで会うなんて奇遇だね。どうしてここに?」
「…ここは久遠と初めて会った場所ですから、なんだか懐かしくて…彼方さんは?」
「私も…久遠との思い出に触れたくなって」
奇しくも共通の人への想いを秘めて同じ場所に来合わせることになった二人は、しばし肩を並べて夢のように美しい風景を見つめていた。
「君と二人だけで話すのはあの日以来だね」
「…そうですね」
静夜はそう答えたきり間が持てずに顔をそらした。静夜は実のところ彼方が少し苦手だった。初めて会ったときに向けられたあの含むところのある瞳が忘れられず、その後も自分に対してはなぜかあまり好意的な態度ではないことがわかっていたからだ。
だが静夜は平静を装って率直に自分から会話を続けた。
「彼方さん、あの…俺がここに流れ着いたとき、石を積んで囲ってくださってありがとうございました。今まできちんとお礼を言えなくてすみませんでした」
すると彼方は作ったように完璧な微笑みでこう返した。
「お礼なんて言わなくていいよ。他ならない久遠の頼みだったからね」
君を助けたかったから、とは彼方は言わない。彼方の行動の動機は徹頭徹尾久遠なのだ。
(久遠…久遠…ああ、そうだ…彼方さんは俺に久遠のことを話すとき、いつもそういう目をするんだ…)
口許ほどは笑っていない目の奥の意図の一端にようやく気づけたのは、自分も同じ想いだからかもしれなかった。
「少しは落ち着いたかい?」
「…ええ」
大勢の身近な人々の前で平常心を失い無様な姿をさらしたことを思い出し、静夜は顔に朱を注いだ。星明かりと煌気の蛍しか明かりがないことがせめてもの救いだった。
その様子を横目で見て取った彼方は意地悪そうにくすっと笑ったが、すぐに笑みを消した真顔で静夜にこう尋ねた。
「…久遠はなぜ独断であんな行動に及んだんだろう」
「それは…あのとき言ったとおり、俺が彼の能力に関して彼の心を傷つけ、土足で踏み荒らすような発言をしたからです」
「具体的にどんな経緯でどんな言葉を使ったかは知らないが、その種の侮辱や愚弄は久遠は物心ついた頃からずっと受けてきている。彼が今になってたかが旅の仲間のひとりに一度侮辱されたくらいで自棄を起こして命がけの危険を冒すと本気で考えているなら、君は相当の自惚れ屋だね」
彼方の声は抑揚もなく言い募るほどに重く冷え込んでいった。
「静夜くん、あの日、久遠の性格に関して私が話したことを憶えているか?最初の旅立ちの直前、あの橅の林で」
静夜はうなずいた。久遠の優しさの根本にある心理、低い自己評価と強い感受性についてだ。
「久遠は旅の途中で遭遇した事件や、目の前で困っている人々に対して親身に、真剣に接し、まるで自分の身を削るように無理をして尽くしていました。情に脆い頑張り屋という表現では片づけられないほど次々と自分ひとりの身に引き受けて…」
そう言った静夜ははっとして言葉を切った。
「まさか…俺に対しても同じことを…?」
顔を上げると、彼方の黒灰色の瞳がすでに彼をじっと見据えていた。
「同じじゃない。同じなどという程度のものじゃない」
静夜はみるみる目を大きくする。
「久遠は君を守るために迦楼羅を引き受けた。迦楼羅に運命を左右される君の力になれないことを心の底から悩み、気に病んでいた。…君が誰よりも特別な存在だからだ」
「…でも、久遠は原礎殺しの俺を憎んで…」
「君は…君という人は、ここまで来てもまだ理解しないんだね…」
唇と声を震わせてそう言った彼方は、静夜に詰め寄るといきなり彼の胸ぐらをその細身からは想像もつかないほどの猛烈な力で摑み上げた。
「久遠は私にとってかけがえのない宝物、生きる望みそのものだった…だが久遠が今見つめているのは私ではなく君だ。君なんだ!!なぜそれがわからない!?」
初めて目の当たりにする彼方の激しい口調と形相に、静夜は愕然として言葉も出ない。彼方は静夜を締め上げる手にぎりぎりと力を加えながら爆発する寸前まで抑えた声色でささやいた。
「もし君が私を押しのけてでも久遠の一番近くにいたいのなら、中途半端な覚悟では困る…!私との約束を最後まで果たし、命をかけて私を諦めさせなさい!…久遠を守るために」
「俺は…けしてあなたを押しのけるつもりなんて…」
「久遠を愛しているなら、意味は同じだ」
「…!」
とっさに羞恥に頬を染めた静夜の胸許から手を離し、彼方はうつむいて言った。
「四十年前の戦いのとき、私は久遠の母親の刹那さんに命を救われ、片脚の怪我だけで生き延びることができた。そして刹那さんが亡くなったとき心に誓った、何があっても久遠を見守り続け、絶対に彼を傷つけないと…何があっても…そう、たとえ久遠が私から離れていって、他の誰かを愛し、その人と幸せになるのを見ることになっても…」
静夜は切なく揺れ動く彼方の瞳の奥に巌のように揺るがない意思を見、自分は彼方には勝てないことを思い知らされた。少なくとも彼方のその想いが、久遠の望む幸福と安穏を最優先し、見返りも求めず、終生変わらぬ無私の愛であるという点では。
彼方が四十年近くもの長い時間をかけて愛し慈しんできた存在を、自分はほんの数か月前に知り合ったばかりの立場で奪い取ろうとしているのだ。それなのにいたずらに時を過ごし、素直になれないばかりに久遠をみすみす危険に追いやってしまった。
…自分に彼方ほどの固い覚悟が果たしてあるだろうか。
「…ようやく君にも、本当に大切な人を奪われた者の気持ちがわかったようだね」
拭い去ることのできない濃い陰にくっきりと縁取られた目つきで彼方は言う。
「私の言葉が信じられないか?でも、久遠が今本当に必要としているのは私ではなく君だよ。久遠の決意にどう報いるか、自分を偽らずによく考えなさい」
彼方は怒りの炎を鎮め、ただ灰の中の熾火のような情念の込もる視線と言葉を投げかけて、片脚を引きずりながら去っていった。
愛する人はひとりだけだ。しかしその人の背後や周りには多くの人々がいて、その数だけ無視することの許されないそれぞれの心がある。
始まりの水際に再びひとり立った静夜は、自らの背負ったものの大きさと重さを自らの心の内に問い直した。
宇内と永遠と彼方、そして瞬も駆けつけた琥珀の館のテラスに来るなり静夜は四人の前に跪いて頭を垂れた。
「…申し訳ありません…俺の不注意と力不足です…」
ひどく打ちひしがれ、憔悴した静夜の今にも消え入りそうな声に、四人は悲痛な顔を見合わせた。彼方に至ってはもはや顔面蒼白だ。静夜の後ろに控えている曜と界の表情も暗い。
「…久遠がさらわれたのは私の責任だ」
永遠は沈鬱そうにつぶやき、うつむいた。
「久遠は自分で自分の限界を理解し迷惑をかけまいとしていたのに、私は根拠のない直感を信じ込み、自分と同じ役割を久遠に期待し押しつけた…そもそも最初から久遠を旅に送り出すべきではなかったんだ…」
「違う…!君のせいじゃない!」
静夜は激しく首を振り、握りしめた拳をぶるぶると震わせた。
「俺が久遠を追いつめたんだ…彼の自尊心を傷つけ、逆撫でし、自暴自棄に走らせた…俺があんなことを言わなければ、久遠はあんな無茶なこと…!!」
「…静夜、君…」
久遠との間にいったい何がーーそう口から出かかったところで永遠は周囲の目と耳を意識し、何も言わずに静夜の肩を優しく撫でた。
「仮にそうだとしても、それもあいつが自分の意思で決めたこと…もうそれ以上自分を責めるな、静夜…」
「…だから籠の外に出したくなかったのに」
彼方がほとんど唇を動かさずに舌の上でだけぽつりとこぼしたが、気づく者はいなかった。
界が発言した。
「自分の意思で決めたと言えば、さらわれる直前、久遠は迦楼羅は自分が何とかすると言ってました。…彼には何か秘策があったんでしょうか」
「今となってはわからないが…ともかく今は迦楼羅より久遠を救出することが最優先だ」
答えた永遠に静夜は身を乗り出し、半ば取り乱したように訴えた。
「俺が…俺がひとりで行く!黄泉と明夜が本当に欲しいのは俺の身なんだ…俺さえ手に入れば久遠は…!」
「そんなことをしたら迦楼羅が無限に生み出されてそれこそ破滅へ一直線だぞ!だいたいあいつらが口約束を守る保証なんて…!」
「それに、行くと行ってもいったいどこへ?久遠がどこに連れていかれたか、心当たりが?」
「それは…煌狩りと黄泉の拠点を片っ端から…」
「冷静さを欠いた今の君ではかえって罠にはまり利用されかねない。君まで失ってしまったら私たちは打つ手がなくなってしまう。君の気持ちはわかるが、今は心を落ち着けて次の策を考えよう」
曜と彼方に立て続けに現実を突きつけられ、永遠にも苦言を呈されて静夜はとてもそれ以上反論することができず、肩を落としてうなだれた。宇内は小さく溜め息をつき淡々と言った。
「久遠のことは心配だが、黄泉は頭が良く用心深い。今すぐに人質に危害を加えるような愚は犯さないだろう。静夜殿、君は少し頭を冷やし、身体を休めなさい。事態が動いたときにすぐに行動に移れるように」
「…はい」
「…」
宇内は隣で先ほどから何事か沈思黙考している瞬に目を向けた。
「どうした、瞬。何か気になるのか?」
「…いえ…まだ確証がありませんので」
「よければ後で話してくれ」
「はい」
宇内は久遠の捜索と救出のため、旅をする同胞たちに知らせを送り情報提供を呼びかけることを決めた。そして静夜には再び麗のもとに身を置くことを求めたが、彼は頑なに拒否し、始めにあてがわれた宿舎の部屋にこもった。誰とも、永遠とさえ話す気になれず、今はとにかくひとりになりたかった。
(結局俺は何も果たせていない…大言壮語を吐くだけ吐いて、その実永遠に頼らずには何も実行できず、界くんたちを巻き込んで…挙句の果てに久遠をむざむざと敵の手に渡した…)
その日の夜、静夜は物思いに沈みながら煌気のランプに彩られた森の夜道を歩いていた。
(…俺には何ひとつ守れない…仲間も、両親の形見も、償いたい人たちも…たったひとりの大切な人さえ…)
彼の足は短い間ながらその人と過ごした思い出の場所に自然と向いていた。今踏みしめて進むこの小径も、その人が教えてくれて一緒に歩いた道だ。
(そう思ってはいけないということは始めからわかっていたはずなのに…)
笑い声を立てながら軽やかな足取りで先へ先へと行くその人の姿が溶けるように透けて闇の奥に消える。静夜は昔のことを思い出していた。子供の頃のことだ。
十数年前のある日、彼は砦の裏山の森で怪我をし迷子になった仔兎を見つけ、不憫に思い、父の明夜に内緒でこっそり部屋に連れ帰った。そして怪我の手当てをし、寝床を作り、水と餌を与えて世話をしながら可愛がっていたが、数日後仔兎はあっけなく明夜に見つかってしまった。せめて怪我が治るまでは世話をさせて欲しい、治ったら森に帰すから、と懇願する彼の手から明夜は仔兎を取り上げ、動物と戯れるなどくだらない、鍛練の妨げになる、と言い、首根っこを摑んでぶら下げた仔兎をそのままどこかに連れ去った。心配した彼が少し経ってから明夜を見つけ、あの仔兎がどうなったかと尋ねると、明夜はぶすっとした不機嫌な顔つきで答えた。
『食った』
青ざめて棒立ちになる彼に、露骨に鼻と唇をひん曲げてさらに明夜は平然と言った。
『まずかった。仔兎だから良さそうだと思ったが、身は硬いし少ないし、食えたもんじゃない。だがまあ、野生ならあんなもんかな』
彼はすぐさま厨房に駆け込んだ。血の臭いを感じて懸命に探し回ると、屑入れの中にさばかれた兎の小さな残骸が無造作に投げ込まれているのを見つけた。その日から彼は肉を食べることができなくなった。しかし食べなければ世話係の者に心配と迷惑をかけてしまうことと、肉を食べなければ身体を大きく強くすることができないことを知っていたので、無理にでも少しずつ食べようと努めた。震える手で口に入れてはその都度吐きそうになり、それでも涙を堪えて必死に飲み込んで、自分の命に換えた。
時が経つと次第に心の傷は癒え、肉を食べることにも抵抗はなくなったが、その件以来、何かを慈しみたい、大切にしたい、愛したいと思う気持ちには罪と後悔の予感が常につきまとった。自分が守りたいと思ったものはいずれすべて奪い取られ、傷つけられ、踏みにじられる運命なのだ、それがこの父の後継者である自分の宿命なのだ、と。それゆえ彼は欲や物に執着せず、他者を心の中に立ち入らせないよう慎重に振る舞ってきた。永遠の優しさに最初反発し背を向けたのもそれが理由だった。まして恋や愛などは喪失と同義だった。だが久遠に対しては違っていた。
記憶を失い呪縛を解かれていたせいでその抑制はかかることなく、心が自然に動くままいつしか彼は久遠を愛していた。その自由、そのしなやかさ、朗らかさ、ひたむきさ、そして優しさ…久遠の見せるあらゆる表情が空っぽになった心を隅々まで輝きで埋め尽くし温めてくれた。久遠と出会い、二人で旅した日々は彼にとって人生で最も幸福な時間だった。記憶を取り戻した今も、自覚されたこの気持ちは抑えることなど到底できない。
(でも、もし記憶を失っていなくても、きっと俺は久遠を愛していた…あの笑顔を愛さずにいられなかった…)
気づけばそこは翡翠の屋根のあの巨木の足許だった。目にするのは最初の旅立ちの朝以来だ。しかし今は住人が留守なので生活の気配やぬくもりはない。上り口の梯子は管理を任されている四季の手によって巻き上げられ、縄できっちりと束ねてあったが、静夜は構わず縄を解き、躊躇なく梯子を上っていった。
樹上の家の最上層、久遠の部屋であるデッキは綺麗に片づけられてがらんとしていた。もともと物が少なくすっきりとした空間だったが、今は時が止まってしまったかのような沈黙と暗闇に冷え冷えと沈んでいる。あの頃と変わらないのは頭上の緑の天蓋越しに広がる星空だけだ。
静夜は久遠の面影を探して部屋中を隈なく見渡した。丸太のテーブルを見ると清水をコップに注いで出してくれる姿が浮かび、畳まれた布団や毛布が目に入ると並べて敷いたその上で笑顔と握手を交わしたことが思い出された。その人はもういない。彼をあの仔兎と同じ末路に導くのが恐ろしくて、自分のこの手で遠ざけてしまったからだ。
記憶を取り戻してからというもの、静夜を悩ませたのは離れようという気持ちと側にいたいという気持ちのせめぎ合いだった。何度も彼から離れようとし、それでも諦めきれずにわずかな望みにすがり、最後は冷たい言葉で彼の方から距離を置くように仕向けもしたが、それはかえって久遠を傷つけ、自分も苦しめ、恋慕と後悔をますます深めただけだった。そして自分を守るために身を捧げた久遠は今まさにあの無抵抗の仔兎のように喉許に刃を突きつけられ、新たな犠牲になろうとしている。
(久遠を失いたくない…だが俺に何ができる…)
静夜は唇を噛みしめ、少しの間、彼がその下のどこかにいる満天の星空を見上げていた。
翡翠の屋根を後にした静夜は、次に久遠と自分が初めて出会った場所に向かった。自分の目で見たのはあの夜のたった一度きりだったので、無性に心惹かれたのだ。
広大な森林の外れにひっそりと抱かれた掬星ヶ淵は、あの夜と何ら変わることなく美しく静謐だった。地上に墜ちた流れ星の欠片のような光源が瞬きながらゆっくりと飛び交い、穏やかに打ち寄せる清らかな波が岸辺を洗っている。ぼうっと立ち尽くす静夜の記憶には久遠の歌声と踊る姿が知らず知らずのうちに蘇っていた。
(そう言えば永遠も歌っていた、あの歌…弟が好きだったという、旅に出た友の無事を願う歌…)
同じものに二度初めて触れた不思議なめぐり合わせに胸を打たれてただ夜の水辺を眺めていると、背後から誰かが近づいてくる気配がして静夜は振り向いた。
目と目が合うと、彼方はうっすら微笑んだ。
「やあ、静夜くん。夜中にこんなところで会うなんて奇遇だね。どうしてここに?」
「…ここは久遠と初めて会った場所ですから、なんだか懐かしくて…彼方さんは?」
「私も…久遠との思い出に触れたくなって」
奇しくも共通の人への想いを秘めて同じ場所に来合わせることになった二人は、しばし肩を並べて夢のように美しい風景を見つめていた。
「君と二人だけで話すのはあの日以来だね」
「…そうですね」
静夜はそう答えたきり間が持てずに顔をそらした。静夜は実のところ彼方が少し苦手だった。初めて会ったときに向けられたあの含むところのある瞳が忘れられず、その後も自分に対してはなぜかあまり好意的な態度ではないことがわかっていたからだ。
だが静夜は平静を装って率直に自分から会話を続けた。
「彼方さん、あの…俺がここに流れ着いたとき、石を積んで囲ってくださってありがとうございました。今まできちんとお礼を言えなくてすみませんでした」
すると彼方は作ったように完璧な微笑みでこう返した。
「お礼なんて言わなくていいよ。他ならない久遠の頼みだったからね」
君を助けたかったから、とは彼方は言わない。彼方の行動の動機は徹頭徹尾久遠なのだ。
(久遠…久遠…ああ、そうだ…彼方さんは俺に久遠のことを話すとき、いつもそういう目をするんだ…)
口許ほどは笑っていない目の奥の意図の一端にようやく気づけたのは、自分も同じ想いだからかもしれなかった。
「少しは落ち着いたかい?」
「…ええ」
大勢の身近な人々の前で平常心を失い無様な姿をさらしたことを思い出し、静夜は顔に朱を注いだ。星明かりと煌気の蛍しか明かりがないことがせめてもの救いだった。
その様子を横目で見て取った彼方は意地悪そうにくすっと笑ったが、すぐに笑みを消した真顔で静夜にこう尋ねた。
「…久遠はなぜ独断であんな行動に及んだんだろう」
「それは…あのとき言ったとおり、俺が彼の能力に関して彼の心を傷つけ、土足で踏み荒らすような発言をしたからです」
「具体的にどんな経緯でどんな言葉を使ったかは知らないが、その種の侮辱や愚弄は久遠は物心ついた頃からずっと受けてきている。彼が今になってたかが旅の仲間のひとりに一度侮辱されたくらいで自棄を起こして命がけの危険を冒すと本気で考えているなら、君は相当の自惚れ屋だね」
彼方の声は抑揚もなく言い募るほどに重く冷え込んでいった。
「静夜くん、あの日、久遠の性格に関して私が話したことを憶えているか?最初の旅立ちの直前、あの橅の林で」
静夜はうなずいた。久遠の優しさの根本にある心理、低い自己評価と強い感受性についてだ。
「久遠は旅の途中で遭遇した事件や、目の前で困っている人々に対して親身に、真剣に接し、まるで自分の身を削るように無理をして尽くしていました。情に脆い頑張り屋という表現では片づけられないほど次々と自分ひとりの身に引き受けて…」
そう言った静夜ははっとして言葉を切った。
「まさか…俺に対しても同じことを…?」
顔を上げると、彼方の黒灰色の瞳がすでに彼をじっと見据えていた。
「同じじゃない。同じなどという程度のものじゃない」
静夜はみるみる目を大きくする。
「久遠は君を守るために迦楼羅を引き受けた。迦楼羅に運命を左右される君の力になれないことを心の底から悩み、気に病んでいた。…君が誰よりも特別な存在だからだ」
「…でも、久遠は原礎殺しの俺を憎んで…」
「君は…君という人は、ここまで来てもまだ理解しないんだね…」
唇と声を震わせてそう言った彼方は、静夜に詰め寄るといきなり彼の胸ぐらをその細身からは想像もつかないほどの猛烈な力で摑み上げた。
「久遠は私にとってかけがえのない宝物、生きる望みそのものだった…だが久遠が今見つめているのは私ではなく君だ。君なんだ!!なぜそれがわからない!?」
初めて目の当たりにする彼方の激しい口調と形相に、静夜は愕然として言葉も出ない。彼方は静夜を締め上げる手にぎりぎりと力を加えながら爆発する寸前まで抑えた声色でささやいた。
「もし君が私を押しのけてでも久遠の一番近くにいたいのなら、中途半端な覚悟では困る…!私との約束を最後まで果たし、命をかけて私を諦めさせなさい!…久遠を守るために」
「俺は…けしてあなたを押しのけるつもりなんて…」
「久遠を愛しているなら、意味は同じだ」
「…!」
とっさに羞恥に頬を染めた静夜の胸許から手を離し、彼方はうつむいて言った。
「四十年前の戦いのとき、私は久遠の母親の刹那さんに命を救われ、片脚の怪我だけで生き延びることができた。そして刹那さんが亡くなったとき心に誓った、何があっても久遠を見守り続け、絶対に彼を傷つけないと…何があっても…そう、たとえ久遠が私から離れていって、他の誰かを愛し、その人と幸せになるのを見ることになっても…」
静夜は切なく揺れ動く彼方の瞳の奥に巌のように揺るがない意思を見、自分は彼方には勝てないことを思い知らされた。少なくとも彼方のその想いが、久遠の望む幸福と安穏を最優先し、見返りも求めず、終生変わらぬ無私の愛であるという点では。
彼方が四十年近くもの長い時間をかけて愛し慈しんできた存在を、自分はほんの数か月前に知り合ったばかりの立場で奪い取ろうとしているのだ。それなのにいたずらに時を過ごし、素直になれないばかりに久遠をみすみす危険に追いやってしまった。
…自分に彼方ほどの固い覚悟が果たしてあるだろうか。
「…ようやく君にも、本当に大切な人を奪われた者の気持ちがわかったようだね」
拭い去ることのできない濃い陰にくっきりと縁取られた目つきで彼方は言う。
「私の言葉が信じられないか?でも、久遠が今本当に必要としているのは私ではなく君だよ。久遠の決意にどう報いるか、自分を偽らずによく考えなさい」
彼方は怒りの炎を鎮め、ただ灰の中の熾火のような情念の込もる視線と言葉を投げかけて、片脚を引きずりながら去っていった。
愛する人はひとりだけだ。しかしその人の背後や周りには多くの人々がいて、その数だけ無視することの許されないそれぞれの心がある。
始まりの水際に再びひとり立った静夜は、自らの背負ったものの大きさと重さを自らの心の内に問い直した。
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