死神と呼ばれた俺は聖母と呼ばれた彼女に恋をした。

尾高 太陽

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~始まりの異変~

ーヤツー

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 これは。
「マズイ!!」
 1番後ろで歩いていた俺は4人を追い抜いて、階段を駆け下りる。
 トーマスが来るということは対処できない何らかの事。いやほぼ間違いなく例の生物がシェルター内に侵入していた。
「ジグムンド、ベルセルク達を頼む!!」
 何故だ。
 解放門外には〈いる〉痕跡も〈いた〉痕跡もなかったはず……。
「クソ!!どこから来た!!!」
 テミス、うまくやっていてくれ。



 スケール管理棟に向かって中央通りを走っていると、警備者最高責任者ヘーリオス付き人のトシヨシと合流した。
「テミス様!!」
「ティータンはどうした!!」
「分かりません!!この混乱の中で逃げたのか、それとも。」
 やられたか。
「書庫にはいなかったのか?」
 するとトシヨシはあり得ないとでも言うように声を荒げた。
「あそこは解放門のすぐ隣ですよ!?」
 思わず舌打ちをしてしまった。
 混乱する市民の声のおかげでトシヨシには聞こえなかったようだが。
「〈ヤツ〉は今ヘーリオス達が農作地に誘導している!お前は書庫に行ってこい!!」
 そうだ。
 こいつはタナトスじゃ、ない。



「トーマス!どうした!」
 よほど疲れているのだろう。
 顔が見えないほどに防護服を曇らせ、肩で息をしながら説明を始めた。
「シェルター内に、長く、鋭い牙、をっ、持った生物が、現れ、ました!、体長、およそ20メートル!!」
 トーマス。悪いがまだ頑張ってくれ。
「死者は?」
 トーマスは声を出すのも辛いはずの息づかいで説明を続ける。
「死者、3人。負傷、者、多、数…。」
 そう言って倒れかかってきたトーマスは気絶していた。
 俺は螺旋階段の吹き抜けに顔を出し、上に向かって声を上げる。
「マイケル!!聞こえるか!?残留害物質がないとして、体が長くて地上でも活動できる生物を知っているか!?」
 その声は反響し、やがて聞こえなくなる。
 少しすると、上から反響したベルセルクの声が聞こえた。
「ミミズと蛇だそうです!!」
 何故お前が答える。
 まあいい、なら。
「その2つの姿形と、殺す1番簡単な方法を教えてくれ!!」
 そしてその声も反響し、また反響したベルセルクの答えが返ってきた。
「ミミズは手足がない細長い体で目はなく、切断しても時間をかけて再生するので、完全に殺すには焼くか溺れさせるかだそうです!蛇も同じく手足がない細長い体、ですが目があり、脳があるので頭にナイフを刺すか頭を切り落とす、が1番簡単だそうです!」
 なるほど。
「トーマスが階段で気絶している!!俺は先に行くから後で拾ってやってくれ!!」
 ベルセルクの「分かりました!」と言う返事を聞いて、俺は階段を駆け下りていった。

 第五、第四、第三、第二…。
 広場を通って行くごとに体が重くなっていく。
 やっと第一広場…。
 もっと運動をするべきだった。
 自分の運動不足に後悔していると、階段の下、シェルターから音が聞こえ始めた。
 初めは何の音かわからなかった音も、階段を降りて行くにつれてそれが人の声だと理解した。
 声は男の声しか聞こえず、その声もただ叫んでいるだけのような声だった。
 俺は急いて階段を降り、10分弱でやっと1番下に戻ってこれた。
 階段の下にはヘーパイストスが立っていて、不安そうにシェルターに続く道の先を眺めている。
「ヘーパイストス。」
 その俺の声に、ヘーパイストスは驚いた様子で振り返る。
「タナトス!!」
 ヘーパイストスは聞く暇が無かったのか、あえて聞かなかったのか、俺1人という事には何も言わず「こい!」と人1人がちょうど通れるほどの道を走っていった。
 付いていこうと疲れた体に鞭を打って足を前に出すと、足の先に何かがぶつかった。
 爆薬。



 防護服を着て走るのは負担がかかる。少し前に投げ捨て防護服の中に着ていた服で俺は走る。
「大体の事はトーマスに聞いてる。今はどういう状況だ?」
 しかしその返事はなく、そのまま解放門を通りシェルター内へと入る。
 シェルター内はすでに電灯が減り暗くなっていた。
 そして農作地が見えてくると共に、さっきから聞こえている声の正体と現状が見えてきた。
 これは。
「こういう状況だ。」
 とヘーパイストスは遅れた返事をした。
 ひらけた農作地では何十もの男達が武器とも言えない武器を手に、〈ソレ〉を誘い込んでいた。
 長く鋭い牙、鱗に囲われた手足のない体、そして瞬き1つしない丸い目。
 おそらく目がある事から、あの生物は〈蛇〉なのだろう。
 そして蛇は、4階ほどの大きさの体で男達の事を見下ろしている。
 蛇の口からは時折二股に割れた舌が出入りしていた。
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