死神と呼ばれた俺は聖母と呼ばれた彼女に恋をした。

尾高 太陽

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~始まりの異変~

ーカラーフォーマーー

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「………。」
 これで7人目。
 解放門外に出てから30分、未だに登り続ける階段の途中にはいくつもの亡骸があった。
 ミイラ化した者、白骨化した者、腐敗した者。
 そして4586番の様に〈何か〉に殺された者。
 全員俺が解放を命じた奴らだ。
 たった30分でそんな者を6人、いや目の前の1人を含めれば7人の亡骸を通り過ぎた。

「うっ。」
 7人目の亡骸はまだ肉が残っており、酷い腐敗とその肉にたかる虫に、マイケルは嘔吐く。
 いくら戦いや護衛に慣れている付き人でも、腐敗した人間を見るのは精神的に辛いか。
「見るな。進むぞ。」
 そう言って、先頭の俺は階段を登って行く。



 解放と言うのは建前上、選ばれた者にしかできない喜ばしい事、という事になっている。
 そのため見栄えを気にしているのか、解放門外の電灯には常に電気が送られている。
 しかし、ここ10年は解放者以外解放門外に出ていないため整備されておらず、大半の電灯は光を失っていた。
「どうします?灯りなら10時間分電池は持ってきましたけど…。」
 とベルセルクは手のひらほどの大きさのライトに光を付けた。
「いいや、この先何があるかわからん。今のところはまだ生きているいくつかの電灯のおかげ周りも見えているしな。」
 ベルセルクは残念そうにライトの光を消した。

「ハァ………おいタナトス。」
 なんだジグムンド。
 足を止めて振り返ると、ジグムンドは俺の顔にライトの光を当てた。
「今は子供の秘密基地にいるんじゃない。これは探索だ、しかも命の危険もある。」
 ジグムンドは光を付けたまま、ライトの向きを変えると、自分の顔を照らし、持ち手を俺に差し出した。
「いくら見えているとは言っても薄暗い。ここの探索ならいつでも出来る、今は安全性を求めろ。」
 ……こいつぐらいになると光の強弱で力に差は出ないはずだが。
 まあいい、俺自身少し焦っていた部分もあった。
「ベルセルク、頼んだ。」
 するとベルセルクは表情を明るくしてライトの光を付けた。
 ………なるほど。



 階段を登り始めて2時間が経過した。
 通り過ぎた亡骸は100を超え、俺とジグムンド以外は、肉体的にも精神的にも限界が近づいていた。
「次の広場で休憩をする。」

 解放門外の階段は約200メートルごとに広場があった。
 広場は何も置かれておらず、ただ塗装された直径10メートルほどの円形の部屋だ。

「よかった。灯生きてましたね。」
 2回目の広場は電灯がまだ生きており、1回目の広場のように大量の亡骸は無かった。
「害物質は?」
 階段から石を落とした後は、あらかじめ防護服の中に入れておいた非常食と水で休憩をしていた。
 するとマイケルは腰についたメジャーのようなものから紙を3センチほど伸ばし、それと同化している刃で紙を切り取った。
「致死量ではありませんが、やはりシェルターよりは大幅に増加していますね。そして残留害物質と反比例して温度は下がっています。」
 確かに寒いくらいだ。
 これは残留害物質のせいなのか……それとも。
 俺はマイケルの差し出す紙を受け取った。
「これはカラーフォーマーか?」
 カラーフォーマーとは旧文明解読者が解読した残留害物質に触れると色の変わる物質を塗った紙のことだ。
 するとマイケルは「えぇ」とメジャーのような物ごと俺に渡した。
「カラーフォーマーは害物質と触れれば触れるほど色が変わっていくので常に害物質のある場所では1つずつ真空ケースに入れないと正確な害物質濃度を検出できませんでした。ですがこの間開発者が作ったこれは巻き取り式で小型化。さらには取り出し口に仕掛けがあって中には害物質が入らないようになっているので、使用する場所で使用する分切り取ればこれ1つで複数箇所の検出が可能なのです!」
 確かにすごい。今のところは重要視されていないが、いつかは今回のように解放門外に出ることがあるかもしれん。
 が……誰だお前は。
 ついさっきまで亡骸を見て弱っていたのが嘘のようにマイケルはは活き活きとした目でカラーフォーマーの事を語っていた。
 マイケルの変わりように皆が戸惑っていると、ベルセルクが「あっ!」と声を上げた。
 なんだ。
「ご飯と水、防護服の中に入れるの忘れてました………。」
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