死神と呼ばれた俺は聖母と呼ばれた彼女に恋をした。

尾高 太陽

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~始まりの異変~

ー立候補ー

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 もちろん手を挙げる奴はいない………はずだった。
「自分はダメでしょうか?」
 そう言って会議室の扉を開けたのは…。
「……誰だ。」
「酷い!ついさっきスケール会議の報告をしたのも、現場まで案内したのも自分じゃないですか!自分ですよ!解放政策選抜者最高責任者、貴方の付き人のベルセルクですよ!」
 あぁ。
「誰だ?」
 俺の言葉にベルセルクは肩を落として溜め息を吐いた。
「いえ、いいです。」
 なぜだ。
 スケールにそこまでのバカはいないはず。
 いや、真っ先にアメに飛びつくバカを除外するためのアメとムチだ、問題は無い。
 だがしかし、
「……なぜ数え終わってから立候補した?」
 するとベルセルクは手を後ろで組み、休めの姿勢を取ると声を上げた。
「自分はタナトス様にお仕えする身!主人が自らの身を危険に晒すと言うのに仕える身である自分が安全な場所にいて何が付き人でしょうか!」
 その言葉が注目を集めていることを思い出したのか、ベルセルクは扉の前で赤面して固まった。

「だとさタナトス。残念だったな思惑通り行かなくて。」
 と、男勝りなしゃべり口調をした女の声がした。
「お前は……。」
 その若く見える女は茶色い長い髪の隙間から面白そうに笑ったような目を俺に向けていた。
 ………待て、喉元まで出てる。
「ハァ………覚えていないのだろう?テミスだ、秩序政策最高責任者のテミス。」
 秩序?
「班の編成はどうした?」
「ん?ああ、秩序と言っても警備と執行があるもんでな。今回は警備に任せた。有能過ぎる部下もダメだな、今や私はただの責任取りだ…。ちなみに警備者からは丁度10人の志願者が出たそうだ。今頃はもうスケール管理棟の前に集まっていると思うぞ?」
 会議室が「おお!」と尊敬の声を上げた。
 テミスは苦笑いを浮かべると「話を戻す」と、場を沈めた。
「どうせ名前は覚えていなかったのだろ?今覚えて貰えればいい。それよりも……私の付き人が要るんじゃないか?」
 ………。


 俺は一度家から持ってきたスケール会議参加者とその付き人の情報を書いた書類を開いた。
ーーーーーーーーーー
 ジグムンド
 秩序政策最高責任者テミス付き人。親に捨てられ、解放政策導入以前の統制が取れていない頃に育つ。1人孤独に育ち、生きるために盗み、殺しを繰り返してきた。解放政策導入後はテミスに力を認められ、今までの罪を不問にする代わりに付き人となる。
ーーーーーーーーーー
 なるほど…。
「死神さんも人殺しといるのは怖いってか?」
 と、テミスの後ろの灯の当たらない壁にもたれかかり、姿を見せないジグムンドであろう男はバカにしたような声でそう言った。
 そしてその言葉に、会議室がざわつく。
「ジグ、それは軽蔑と侮辱に等しい。口を慎め。」
 そのテミスの目からは、先のような笑いは消えていた。
「別にかまわん。このシェルターのほとんどの奴がそう思っている。あとジグムンド、今のは立候補か?」
 ジグムンドはフッと鼻で笑うと、影から姿を表す。
 黒く長い髪が目にかかり、左目は閉じたまま、何かで切られたような傷をつけた若い男だった。
「別に……どちらにせよ解放者選抜群から抜ける気はねぇ。人を殺してんだ、いつでも死ぬ覚悟は出来てる。」
 同類か。ならば好都合。
「分かった。もちろん戦えるんだろうな。」
 するとテミスが小さく笑い「私が保証しよう。」と言った。

「さて、これであと4人だ…。」
「あれ…もしかして自分忘れられてます?」
 と、いつの間にか俺の後ろにいたベルセルクが呟いた。
「お前は何の役にたつ。」
 俺が振り返ってそう言うと、ベルセルクは空気に向かってパンチを繰り返す。
「自分も一応訓練を受けていますので!後は荷物持ち程度ですが…。」
 一応俺の付き人だ、ついて行かせるのが主人としての義務か。
「では、あと3人だ…。」
 俺は前を向いてそう言うと、後ろのベルセルクが「むふん」と嬉しそうな声をだした。
 こいつ今からどれだけ危険な事をするのか分かっていない。
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