死神と呼ばれた俺は聖母と呼ばれた彼女に恋をした。

尾高 太陽

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~始まりの異変~

ーアメとムチー

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「あ、あのーすいません。私じゃだめでしょうか?」
 そう言って会議室の扉から入ってきたのはマリアだった。
 却下。
「ダメだ。」
 俺は会議室内の男性の顔を見渡す。
 正直なところ、権利持ちを解放門の外に連れて行くのは問題が多い。かといって統率の取れない市民は論外。連れて行くなら権利持ちの付き人だ。
 付き人なら護衛として戦闘の訓練も受けて、統率も取れる。
「もう一度聞く。行きたい奴はいるか。」
「何でですか!!」
 と、マリアは声を上げた。
 無視だ。
「さて、急がなければならない状況で何を迷う。お前らは権利持ちだ。市民を守らないのか?」
 会議室に沈黙が流れる。
「私が行くって言ってるのに!」
 まあ、いないな。
 だがまぁ…。
「………そんな事を言うつもりはない。権利持ちや女、子供が命をかけるのは色々と問題だ。よって今回の作戦に権利持ち、女、子供の参加は却下する。参加するのは権利持ちの付き人だけ……参加したい奴は?」
 視線をマリアに向けると「うぅ」と呻きながら俯いた。
 どちらにせよいないのは知っているがな。
 こんな時は何が正解なのか。
 それはアメとムチだ。
「なら俺と共に解放門の外に出た奴の中からクジで1名を解放者選抜群から除外する。」
 コレで……。
「なっ!」と会議室がざわついた。
「そ、そんな事が可能なのか?」
 1人釣れた。
「ああ。選抜者は俺のみ。つまり選抜するときに見て見ぬフリをすればいいだけ。」
 だろ?と目でジジイに確認すると、ジジイは小さくフッと笑った。
「まったく。お前がそんな悪巧みをするようになるとはな。」
 そしてその笑みは突然真面目な表情に変わり。
「バレれば終わるぞ?」
 と、低い声を出した。
「その時は俺も一緒に終わってやる。」
 ジジイは「まったく」と溜め息を吐いた。
「儂も道連れなのは決定なのか……。」
 心配せずともバレることはない。
「今この状況で誰も質問、反対しない時点でお前らは共犯。もちろん、他言しないよな?」
 俺のワザとらしい挑発に、会議室の主に付き人が唸り声を出した。
「この条件でも立候補がいなければ、参加者は俺が勝手に決める。拒否した場合、老後最優先で解放者に命じられると思え。」

 これで大きな袋の中の小さなアメと完全な暴力のムチができた。
 ムチから逃げたいばかりに、小さなアメの入った袋に入ろうとする。
 が。
「残り10秒で立候補を終了する。」
 そう言って、俺はカウントダウンを始めた。
 8.7.6と、数字が減っていくにつれて付き人の人間は余裕が無くなっていく。
 額の汗がその証拠だ。
 誰かに行ってもらいたい。
 しかしアメも欲しい。
 ここにいる付き人は14人。
 5人全てを強制的に選んだとしても、選ばれる可能性は役35%。65%でアメはないが安全を得られる。
 そして、100%の危険に立候補してもアメを貰える可能性は20%。80%でアメのないただの危険。
 賢い奴はまず始めに得よりも損を見る。
 ならば、35%の危険と100%の危険。
 言うまでもないだろう。なら一か八か自分が選ばれない事に賭けるしかない………。
 とでも考えて、アメに飛びつかないだろう。
 まさか…それが狙いだとは思わず。
 俺のカウントダウンが0になった。
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