死神と呼ばれた俺は聖母と呼ばれた彼女に恋をした。

尾高 太陽

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~始まりの異変~

ー死神ー

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 これは少し昔……。いいえ、昔の誰かにとっては少し未来の物語。
 誰かが生み出した地獄の中で死神を演じ。
 誰にも理解されず。
 誰にも必要とされない。
 最も重要で。
 最も報われなかった。
 一人の物語。



「どうか!どうかおゆるしください!」
 膝を立てて地面に座り、錆び付きひび割れた壁に持たかかった俺の前に1人の女がひざまずく。
 どの家族もが最初はそう言う。
 俺の心もそう叫ぶ。
「わるいな……。」
 そしてその言葉で言い聞かせる。
 その家族を。俺自身を。

 ここは第四シェルター。
 適正人口500人。現人口………1000人。
 初めは数百人だったシェルターも今や1000人。
 いや1001人か。
 今日新しい命が生まれた。
 だから今から俺の仕事だ。

 ここの最低限の生活が出来る最大人口は1000人。
 1人増えたからと言ってそう変わりはない。
 しかし1人でも許せばこのシェルターの信頼や治安バランスは壊れてしまう。
 だから……〈仕方ない〉。

 俺の家の前を数十、何百もの人が早足で通り過ぎて行く。
 小さな子供から若い女。
 そして……
「そこのばあさん。」
 俺のその声に、共に歩いていた家族であろう女の肩が跳ねた。

 その老婆とその女。
 そして人の陰で見えていなかった1人の子供が俺の前に立つ。
「〈解放政策〉により、」
 俺の言葉が止まると、その意味を理解した老婆は左肩の袖をまくり、肩に入れられた4586という数字を俺に見せる。
「4586番にシェルター外への解放を命ずる。」

 解放。
 聞こえは良い。
 しかし、このシェルターは地下5000mに作ってやっと地上の残留害物質から逃れられている。
 つまりそこから出ろと言うことは〈死ね〉と伝える事だ。
 かといってこのまま人が増えればこのシェルターはもたない。
 間引きしなければ俺ら人間はここでは生きていけない。
 だから〈仕方ない〉。

「時刻は明日午前10時、解放門前に」
「ねぇ、かいほうって何?」
 と子供が俺の言葉を遮った。
 するとその子の母親であろう女の目が開かれる。
「お母さん。この子を連れて先に帰ってて。」
 その女の言葉に老婆は優しく微笑み、子供を連れて人の流れに消えていった。

 ダンッ!という音。
 いや幻聴か。
 女がコンクリートの地面に膝をついたくらいでそんな音は出ない。
「こんな事は都合のいい事だと理解しています。ですが、どうか!どうかおゆるしください!」
 そう、家族の誰もがこの言葉を口にする。
「わるいな……。」
 そしてこの言葉で言い聞かせる。
「………。」
 誰も反論は出来ない。
 当たり前だ。
 その〈解放政策〉によって1000人が確実に生きているのだから。
 自分に関わりのない者になら、1000人のためだと見て見ぬフリをするのだから……。

 女は何を言おうとも無駄と気づいたのか、涙を浮かべて立ち上がり、家を出ていった。
「死神……。」
 その小さな言葉と涙を残して。
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