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四章 白虹、日を貫く
第45話 天弓の翼1
しおりを挟む※このお話からは、予告無く残虐なシーンがあります。
苦手な方は、ご注意お願いいたします。
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左手に長い茶髪の女性の生首をぶら下げ、王冠を被ったジュストコール姿のグレーン国王アンドレアスが、バキボキと首を鳴らしながら近づいてくる。
「あはあ~、美味そうなのがいっぱい、いるなぁ~~~~~~~ふしゅるしゅしゅ~~~~~~~」
追従しているはずの近衛騎士たちの姿はない。
傷ついた馬は鞍だけを乗せており、何があったかは推測の域を出ないが、
「男はやっぱり、不味いなあ~~~~~~~~」
のセリフで、察するに余りある。
「なんと……いうことだ……」
ハンス率いるグレーン王国騎士団には、事前にこの可能性を伝えてはあるものの、実際に目にすると衝撃で動けなくなっている。
「ハンスさん! 僕たち『天弓の翼』は、魔物と遭遇した!」
「っ」
「命の危険を感じるため、討伐に動く! ……態勢整うまで、下がっていてっ」
ところが、サバトンは地面に根を張っているかのように動かない。
「ハンスさん!?」
「ちっ」
ヨルゲンが強引に腕を引こうと動くと、ウルヒが鋭い声を発した。
「騎士団長! 王女たちを守れっ!!」
「っ……はっ」
命からがら走って逃げてきたグレーン王国の王女シーラ――侍女(生首)を喰われたショックで声が出なくなっているが、容貌をヨルゲンが確認した――に、ルミエラが寄り添っている。
その側には、元の大きさに戻ったケルベロスと、アモン。
「っそ……総員! 防御線展開っ!! 殿下方を、守るっ!!」
「お、おう」
「そ、そうか」
「てん、かい……展開だっ」
ようやく騎士たちが動き始めたところで、ヨルゲンは『蒼海』を両手持ちで構え、アンドレアスを威嚇する。
その横でシュカはぶつぶつと強化魔法を唱えた――物理防御、魔法防御、攻撃力アップ、と複合させていくと、王国騎士団全員が目を見開く。
「こんな高度な組み合わせなど、見たことがない!」
「だろうねえ。ジャムゥは、あたしと一緒にいて魔素。集めてくれるかい?」
「ん」
ウルヒはジャムゥを伴って、騎士団と、前衛であるシュカとヨルゲンの間に陣取った。中衛として前後の補助をすることに重きを置く体制だ。
「風の精霊カルラよ……眷属ウルラよ……我らに風の恩恵を!」
『産まれてしまったからには、倒すしかない』
「ホロッホー」
ウルヒの周囲に風が集まり、ジャムゥの足元から黒い霧がモワモワと立ち上る。
シュカはシュカで、まだ未熟なはずの肉体でもって、魔力を高める。
「キース」
「ピルッ」
白鷹がバサリと羽ばたいたかと思うと、白刃煌めくロングソードへとその姿を変えた。
「あ~はあ! みぃつけたぁ~~~~その剣~~ほしぃ~~~~~~」
「なんだあ!?」
「キースを狙ってる?」
「それぇでぇ~~~世界をぅ~~~~喰らうのだあっ!」
ぼぼん! と鈍い爆発音がしたかと思うと――国王だったモノはみるみるその体躯を膨らませ、豹の体に大蛇の尾、そして首が七本――顔も七つ――の化け物になった。
「きゃあああああああああああああ!!」
実の父の異形の姿に、シーラ王女は絶叫の末失神する。
アモンはさっと横抱きにして木陰へ横たえると、人差し指に中指を絡ませる不思議な手の印を作り、何事かをぶつぶつと唱えた。
たちまち足元に黒い魔法陣が発生し、その中だけ視界が歪む。
「ごまかし程度ですけどねえ」
それから丁寧な礼で、ルミエラもその中へ入るようエスコートする。
「こちらから出ないよう、お願いいたしますね」
「は、はい」
魔族の執事は、冷たく低い、地を這うような声で告げた。
「さて皆様。あれはリヴァイアサンと違って、数多の命によって作られた、最も悪しきもの。本気でかからないと死にますよ」
「ぐるるる」「わおん」「がうっ」
「アモンが言うと、まるで滅亡の宣告みたいだね」
苦笑いするシュカの横で、ヨルゲンは全力で闘気を放った。
「倒さなきゃ、そうなるだろ!」
「だね!」
「手加減なしだ」
「うん。――緑竜の加護の、あらんことを!」
ウルヒの風の守りと合わさり、シュカたちそれぞれの体にシールドができたのが視認できた。
「っしゃ。いくぞ!」
大きな刃から、水が絶え間なく迸る。
伝説の武器を構え、ヨルゲンは走った――
◇
大帝国コルセア、帝城にある皇帝の私室。
大きな樫の机の上で、レアンドレ直通の音石がぴかぴかと光っていた。
「終末の獣、だと!?」
『はい。北西国境付近の帝国民には、既に騎士団長から避難命令を出しました。騎士団が迅速に動き、誘導を開始しています』
「そうか……ヨーネットはどうだ」
『は。ヘッグ伯ヴァルデマルも、ルミエラ殿下の件を踏まえ我が国への協力を支持、グレーンとの同盟破棄を進言するとのこと』
「ならば政治は良いが問題は」
『魔教連です。街道の大動脈を押さえられていますからね』
地理上の要所に存在する独立都市ウェリタスは、北東のグレーン王国、精霊国アネモス、南東から南西にまたがる大帝国コルセア、北西のヨーネット王国のちょうど中心にあり、貿易上避けることのできない主要街道が、全て通る位置づけだ。回り道はあるにはあるが、魔物も多く非常に危険で時間がかかる。
「今となっては、やりよったな無窮の賢者め、という気持ちだな」
『ええ。中立を気取って居を構えたその実は、ですね。まあ言っても仕方のないことです』
「今のところ、潜らせている間諜からは何もない」
『静観しているかもしれないですね』
「天弓の翼次第、か」
『まさかこんなことになるとは。とりあえずルミエラ殿下の身柄移動のため、騎士団の二部隊を援護に行かせています』
「分かった。余からもヨーネットに連絡を入れておく……レレ、気を付けろ」
『僕がいなくなれば、婚約もなくなりますからねえ』
「分かっているならば良い」
『はい。ではまた』
音が途切れた後、イリダールがいるから大丈夫だ、と自分に言い聞かせるように独り言を放つ。
それから、この部屋をこんなにも広く感じたことはなかったな、と大きな溜息を吐きながら、部屋付き護衛に命じた。
「……大臣らを集めろ。緊急会議だ」
ギオルグは、まるで皇帝の鎧を身に着けるかのように、王冠をしっかりと被った。
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