天弓のシュカ ~勇者の生まれ変わりの少年は、世界を救うために七色の魔竜を巡る旅に出る~

卯崎瑛珠

文字の大きさ
上 下
45 / 51
四章 白虹、日を貫く

第45話 天弓の翼1

しおりを挟む

 ※このお話からは、予告無く残虐なシーンがあります。
 苦手な方は、ご注意お願いいたします。


 -----------------------------
 
 
 左手に長い茶髪の女性の生首をぶら下げ、王冠を被ったジュストコール姿のグレーン国王アンドレアスが、バキボキと首を鳴らしながら近づいてくる。


「あはあ~、美味そうなのがいっぱい、いるなぁ~~~~~~~ふしゅるしゅしゅ~~~~~~~」

 
 追従しているはずの近衛騎士たちの姿はない。
 傷ついた馬はくらだけを乗せており、何があったかは推測の域を出ないが、
「男はやっぱり、不味まずいなあ~~~~~~~~」
 のセリフで、察するに余りある。

「なんと……いうことだ……」

 ハンス率いるグレーン王国騎士団には、事前にこの可能性を伝えてはあるものの、実際に目にすると衝撃で動けなくなっている。

「ハンスさん! 僕たち『天弓の翼』は、魔物と遭遇した!」
「っ」
「命の危険を感じるため、討伐に動く! ……態勢整うまで、下がっていてっ」

 ところが、サバトン鉄靴は地面に根を張っているかのように動かない。

「ハンスさん!?」
「ちっ」

 ヨルゲンが強引に腕を引こうと動くと、ウルヒが鋭い声を発した。
 
「騎士団長! 王女たちを守れっ!!」
「っ……はっ」

 命からがら走って逃げてきたグレーン王国の王女シーラ――侍女(生首)を喰われたショックで声が出なくなっているが、容貌をヨルゲンが確認した――に、ルミエラが寄り添っている。
 その側には、元の大きさに戻ったケルベロスと、アモン。

「っそ……総員! 防御線展開っ!! 殿下方を、守るっ!!」
「お、おう」
「そ、そうか」
「てん、かい……展開だっ」

 ようやく騎士たちが動き始めたところで、ヨルゲンは『蒼海』を両手持ちで構え、アンドレアスを威嚇する。
 その横でシュカはぶつぶつと強化魔法を唱えた――物理防御、魔法防御、攻撃力アップ、と複合させていくと、王国騎士団全員が目を見開く。

「こんな高度な組み合わせなど、見たことがない!」
「だろうねえ。ジャムゥは、あたしと一緒にいて魔素。集めてくれるかい?」
「ん」

 ウルヒはジャムゥを伴って、騎士団と、前衛であるシュカとヨルゲンの間に陣取った。中衛として前後の補助をすることに重きを置く体制だ。

「風の精霊カルラよ……眷属ウルラよ……我らに風の恩恵を!」
『産まれてしまったからには、倒すしかない』
「ホロッホー」
 
 ウルヒの周囲に風が集まり、ジャムゥの足元から黒い霧がモワモワと立ちのぼる。
 シュカはシュカで、まだ未熟なはずの肉体でもって、魔力を高める。
 
「キース」
「ピルッ」

 白鷹がバサリと羽ばたいたかと思うと、白刃はくじんきらめくロングソードへとその姿を変えた。

「あ~はあ! みぃつけたぁ~~~~その剣~~ほしぃ~~~~~~」
「なんだあ!?」
「キースを狙ってる?」
「それぇでぇ~~~世界をぅ~~~~喰らうのだあっ!」

 ぼぼん! と鈍い爆発音がしたかと思うと――国王だったモノはみるみるその体躯を膨らませ、豹の体に大蛇の尾、そして首が七本――顔も七つ――の化け物になった。

「きゃあああああああああああああ!!」

 実の父の異形の姿に、シーラ王女は絶叫の末失神する。
 アモンはさっと横抱きにして木陰へ横たえると、人差し指に中指を絡ませる不思議な手の印を作り、何事かをぶつぶつと唱えた。
 たちまち足元に黒い魔法陣が発生し、その中だけ視界が歪む。

「ごまかし程度ですけどねえ」

 それから丁寧な礼で、ルミエラもその中へ入るようエスコートする。

「こちらから出ないよう、お願いいたしますね」
「は、はい」
 
 魔族の執事は、冷たく低い、地を這うような声で告げた。
 
「さて皆様。あれはリヴァイアサンと違って、数多あまたの命によって作られた、最も悪しきもの。本気でかからないと死にますよ」
「ぐるるる」「わおん」「がうっ」
「アモンが言うと、まるで滅亡の宣告みたいだね」

 苦笑いするシュカの横で、ヨルゲンは全力で闘気を放った。

「倒さなきゃ、そうなるだろ!」
「だね!」
「手加減なしだ」
「うん。――緑竜の加護の、あらんことを!」

 ウルヒの風の守りと合わさり、シュカたちそれぞれの体にシールドができたのが視認できた。

「っしゃ。いくぞ!」

 大きな刃から、水が絶え間なくほとばしる。
 伝説の武器を構え、ヨルゲンは走った――
 
 
 
 ◇



 大帝国コルセア、帝城にある皇帝の私室。
 大きな樫の机の上で、レアンドレ直通の音石がぴかぴかと光っていた。
 
「終末の獣、だと!?」
『はい。北西国境付近の帝国民には、既に騎士団長から避難命令を出しました。騎士団が迅速に動き、誘導を開始しています』
「そうか……ヨーネットはどうだ」
『は。ヘッグ伯ヴァルデマルも、ルミエラ殿下の件を踏まえ我が国への協力を支持、グレーンとの同盟破棄を進言するとのこと』
「ならば政治は良いが問題は」
魔教連魔導士世界教会連合です。街道の大動脈を押さえられていますからね』

 地理上の要所に存在する独立都市ウェリタスは、北東のグレーン王国、精霊国アネモス、南東から南西にまたがる大帝国コルセア、北西のヨーネット王国のちょうど中心にあり、貿易上避けることのできない主要街道が、全て通る位置づけだ。回り道はあるにはあるが、魔物も多く非常に危険で時間がかかる。

「今となっては、やりよったな無窮むきゅうの賢者め、という気持ちだな」
『ええ。中立を気取ってきょを構えたその実は、ですね。まあ言っても仕方のないことです』
「今のところ、潜らせている間諜かんちょうからは何もない」
『静観しているかもしれないですね』
「天弓の翼次第、か」
『まさかこんなことになるとは。とりあえずルミエラ殿下の身柄移動のため、騎士団の二部隊を援護に行かせています』
「分かった。余からもヨーネットに連絡を入れておく……レレ、気を付けろ」
『僕がいなくなれば、婚約もなくなりますからねえ』
「分かっているならば良い」
『はい。ではまた』

 音が途切れた後、イリダールがいるから大丈夫だ、と自分に言い聞かせるように独り言を放つ。
 それから、この部屋をこんなにも広く感じたことはなかったな、と大きな溜息を吐きながら、部屋付き護衛に命じた。


「……大臣らを集めろ。緊急会議だ」


 ギオルグは、まるで皇帝の鎧を身に着けるかのように、王冠をしっかりと被った。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...