天弓のシュカ ~勇者の生まれ変わりの少年は、世界を救うために七色の魔竜を巡る旅に出る~

卯崎瑛珠

文字の大きさ
上 下
7 / 51
二章 緑風、吹き抜ける

第7話 七色、六体

しおりを挟む



何時間眠ったんだろう。




目を醒まして窓に目をやると外が暗く、夕方以降であることは間違いないなと思った。



ふと俺のベッドに誰か肘をついて眠っている人影が見えた。



あれ?姉貴帰ったんじゃ…



いや、違う…



「えっ…」




あ、哀沢くん!?




待って待って待って待って…



なんで…なんでここにいるの!?



いつから?
いま何時?



時計を見ると18時だった。



起こした方がいいのかなぁ…



久しぶりに見る哀沢くんはやっぱりかっこよくて、ずっと見ていたいと思った。



そういや部屋乾燥してるんだよね。



飲み物買ってきてあげようかな。




ちょうど夕食の時間だし、部屋で食べないで食堂で食べてからついでに夜の検温をして部屋に戻ろう。



せっかく寝てるのに起こしたら悪いもんね。



てか哀沢くん寝起き悪いし。



俺は哀沢くんを起こさないように、哀沢くんが寝てる反対側からベッドを降りて部屋を出た。



面会名簿を確認すると、哀沢くんは13時頃ここに来ていたらしい。



え?5時間も俺を起こさずいたの?



申し訳ないなぁ。


姉貴が連絡したのかな?




俺は食堂に夕食を運んでもらって、夜の検温報告して、ジュースを買って部屋に戻った。



部屋のドアを開けると、哀沢くんが起きたばかりだった。




「あ!哀沢くん起こしちゃった?」




振り返った哀沢くんは俺を見て驚いていた。




「起きたら哀沢くんが寝ててびっくりしたよ。面会名簿見てきたら13時ぐらいに来てたんだね。俺その前までは起きてたんだけど寝ちゃったんだ」



いつも通りの俺みたいに、明るく話した。



ちょっと気まずくて、俺は哀沢くんに近づかずドアの傍で会話を続けた。



すると哀沢くんはこっちに駆け寄り、近づいてきた。



「起こしてくれてよかったのに。哀沢くんの好きなコーラ売り切れてたからココアでもい…」




俺の言葉を遮り、大きな腕で抱きしめる。




力が抜けて床にジュースが落ち、部屋にその音が響いた。





「哀沢くん…?」




沈黙が続いた。




哀沢くんが俺を抱き締める力は変わらない。



どうしたんだろう。



落ち着くなぁ哀沢くんの胸の中。





でもさ、




「俺ね、別に死んでもよかったんだ…」




俺は諦めなきゃいけないんだよね。




「死ぬ前に哀沢くんに抱いてもらえたから。それだけで満足だったから後悔してない」




俺の発言に少し驚いたのか、哀沢くんの力が緩んだ。




昔から死んでもいいって思ってた。



人生退屈だって。



でも…


「でも…今日哀沢くん見ちゃったら、やっぱりダメだぁ。まだ好きだから苦しい」




今は生きて哀沢くんの傍にいたい。




あーあ、




せっかく忘れられそうだと思ったのに。



全然ダメじゃん、涙止まんない。



めんどくさいやつだって嫌われちゃうよ。



「だから放して。頑張って諦めるから。哀沢くんのこと。これ以上好きにさせないで」




俺は哀沢くんの腕から無理やり抜けようと抵抗したけど、哀沢くんは放してくれなかった。







「放したくねぇんだよ」





俺が予想してなかった言葉が返ってきた。






「山田…そのまま黙って俺の話を聞いてくれ」





そして哀沢くんは自分の過去を全て話し始めた。






















「雅彦って…あの有名なモデルの三科雅彦?射殺された?」



「そうだ」






俺と出会った頃にはもう三科雅彦のことが好きだったんだ。




「俺はあいつが死んでからもう誰も好きにならないって誓ったんだ」




そりゃ、そんな過去があったらもう恋愛なんてしたくないって思うかも。



本当に好きだったんだね…彼のこと。




俺はそんな一途な哀沢くんも好き。





「山田がいなくなるかもしれないと思ったら不安で仕方なかった。あいつを失った時の感情と似ている気がした」




そんなこと言って貰えるなんて、生きててよかった。



死ななくてよかった。



「もしまだ山田が俺のことを好きなら、俺のこの気持ちが恋なのかどうか証明するために一緒にいて欲しい」



全然大好きだよ。



これからも好きでいていいなんて、嬉しすぎる。



「俺もちゃんと向き合う。時間かけて、もしこれが恋なんだと気付いたら、その時は山田に告白する。…さすがに身勝手か?」



哀沢くんに好きになってもらえれば、告白してもらって付き合えるってこと!?



そんなの身勝手じゃなくて、むしろ光栄なんだけど…




「じゃあ、お付き合いの仮契約ってことでいい?俺は好きでいていいんだし、哀沢くんが俺を好きになってくれたら、正式に付き合おうね!」



嬉しくて哀沢くんの肩にぎゅうっと腕を回して抱きしめた。



嬉しい、嬉しすぎる。



「もう、めっちゃお金かけて惚れ薬とか開発して好きになってもらう」



「結局金かよ…」




まだ好きでいてもいいなんて。



幸せ。




「じゃあまた、学校でな」



そう言って哀沢くんは病室を出ていった。



俺はしばらくニヤニヤが止まらず、早く退院したくて荷物をまとめ始めた。



しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...