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一章 白鷹と少年は、出会う
第4話 戦闘、そして
しおりを挟む「レイッ! じゃねえ、シュカッ」
「うん。ゲンさんは、いつも通りガンガン攻めてね」
「くっそ、まじでホンモノかよ!」
ぎりっと歯ぎしりするヨルゲンは、溢れ出る喜びを隠さず、背負っていた大剣を引き抜き両手持ちで構える。
眼前には、紫の鱗を輝かせ、黄色い目で漫然と見下ろしてくる巨大な魔竜、雷竜。体表をびしびしと稲妻が駆け抜けていくので、体中が帯電しているのが分かる。
「っかー! 簡単に言うぜ、ありゃ触った瞬間痺れるぞ!」
「うん。マジックバリア」
淡々と『魔法防御』の呪文が飛んできた。
「いよっしゃ。久々に本気出す」
うおおおお、とヨルゲンの構える剣が青く輝くのを見て、シュカはにっこりする。
『蒼海の剣聖』の名の由来である武器は、その名も『蒼海』。海の魔獣リヴァイアサンを倒して手に入れたものだ。
勇者パーティの栄誉として語り継がれるはずの、そういった伝説になりうる戦闘の数々は、勇者レイヴンが魔王討伐後『世界の核』を壊したことで葬り去られている。
パーティメンバーだったヨルゲンも、身分を隠す地味な生活を余儀なくされているが、勇者のことは全く恨んでなどいなかった。
「あとで! 全部聞かせろよ!」
――かつて共に戦った彼を、心の底から信じていたから。
◇
グレーン王国騎士団長ハンス・カッセルは、王都外壁門前で文字通り頭を抱えていた。
馬上にあって、重装備。磨かれた鋼鉄の鎧や武器が太陽光に照らされて輝く彼の表情は、裏腹に陰鬱なものである。
「……これだけ、か?」
士気の高い部下だけが、王命に従って集まった。残りは家族の病気や装備の不備、果ては無視まで様々な理由だが――来ない。
所属している団員のせいぜい三分の一程度か、とざっくり目だけで数えてみる。
「はあ。情けない」
赤髪にアンバーの瞳で、情に厚いと評判の団長はがっくりと肩を落とす。
「……金貨集めなんてしてる国じゃなぁ」
王宮でそんなことを呟いた日には、即胴体と首が離れるだろう。だがここは外だ。
ハンスとて、何度も「魔竜は危険だ」「眠っているうちに、冒険者と共闘して倒すべきだ」と上奏してきた。だが国王のアンドレアスに意見が届かないばかりか、王子のマティアスや王女のシーラまでも、集めた金貨で行う舞踏会を楽しんでいるにすぎない。
賢い貴族たちは、何もせず贅沢をし続けるだけの王族を見限り、王国が滅亡しても他国へ逃れる算段をしているし、ハンス自身「お抱えの護衛隊長にならないか」と誘われたこともある。
「死に場所を探すようなもんだな」
ハンスは、記憶にある勇者の戦いを振り返る。
圧倒的武力と魔力で魔物を倒し、何も求めず去っていく。
そんな彼が世界の根幹を揺るがす『悪事』を働くとは到底思えないが――『魔導士世界教会連合』の言うことは、絶対だ。
ふーと大きく息を吐いてから、振り向いて騎士たちに言葉を投げた。
「集まったお前たちに、感謝する! すまないが、ともに死のう!」
苦笑する彼らは、それでもこの団長についていくことに決めていた。
王命に逆らえばどうなるか分からないし、国に留まったとて雷竜に滅ぼされる運命だから。
それぐらい、グレーン王国は末期状態なのである――
「っ、どういうことだ!!」
そうした決死の覚悟のもとで旅立ち、辿り着いた南部の森で、ハンスは信じられないものを見た。
森の木々を咆哮で焼き尽くし、左右に振る首や背中の翼の羽ばたきが巻き起こす風だけで、馬ごと吹き飛びそうになる。
そんな強大な雷竜を前に、たったふたりの冒険者パーティが戦っているのだ。しかも、互角以上に。
青く光る両手剣を軽々と振るう戦士と、白くきらめく剣を片手にひらりひらりと空中を舞う少年。
大剣は竜の強靭な鱗すら切り裂き、少年の手にある剣からは高度な魔法が次々放たれていく。特に土魔法の数々は、その圏内にいるだけで巻き添えを食いそうなぐらいに鋭い。
「くそ! 助けたいが足手まといか」
騎士の重装備では、あのスピードに到底対処できない。
ハンスはすぐに頭を切り替え、
「総員、竜の足止めに注力! 回復薬の用意!」
と怒号を発した。
戸惑いつつも次々布陣をしていく騎士団の面々を、シュカは横目でちらりと確認してから
「アースアロー」
無難なレベルの魔法に切り替えて雷竜を攻撃する。
土の槍は、竜の肌を貫くとは思えない。
が、要所要所で視界や素早い動きを防ぐことに成功し、ヨルゲンに攻撃の隙を与えていた。おまけに人の数が増えたことで、雷竜の気も散っている。
攻めるなら今だ、とシュカが肩に力を入れたところで
「グルアアアアアアアアアア」
顎をそらせて思い切り首をのけぞらせる雷竜は、その口角からバチバチと稲妻を漏らしつつ、目だけはシュカたちを捉えている。
「ブレスが来るぞッ!」
ヨルゲンが叫ぶより一瞬早く、シュカは「アースウォール」を唱える。
自分たちを守るように地面から土壁がドカドカと生えていくことに、ハンスは戦慄した。
魔法の難易度自体は、初心者レベル。だが目の前の壁の厚みと高さは――騎士団長として、数々の魔法使いを見てきた彼の経験が言っていた。
あの少年、ただものではない!
一方のヨルゲンは、剣先を下にし柄頭を頭上まで上げ、剣の腹を手のひらで支えるようにして体の前に立て
「頼むぜ、蒼海!」
愛剣の名を呼ぶ。
本来なら水は雷に弱い。だが主の呼ぶ声に呼応するかのように青い光が瞬き、刃の輝きが増した。
バチバチ!
ゴオオオオオオオオッ!
雷竜の吐き出すブレスが、金色に輝きながら一直線にヨルゲンへと向かっていく。
土壁に守られていたハンスが、たまらず飛び出した。
「ばっ!?」
驚くヨルゲンの横で、担いでいた大盾を即座に下ろし地面に突き立てる。
「トロルの守護よ、今こそ!」
ハンスの怒号で、大盾が覚醒したかのように光り輝くと、ふたりを守るように空中に大きな魔法陣が現れた。何もかもを焼き尽くすと言われる強烈な雷竜のドラゴンブレスが、その表面に当たるや見事に弾かれ、四方八方に稲妻となって霧散していく。
「すっげぇ!」
嬉々としてそれを見つめるヨルゲンの背後には、いつの間にかシュカがいた。ブレスが防がれているのを見た彼は、
「……来て」
ハンスの二の腕を掴むと、問答無用で魔法陣の脇から出ようとする。
「な!?」
殺す気か、と激高しかけた騎士団長に向かって
「とどめ、刺して」
淡々と告げる少年に絶句したのは、当然のことだろう。
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