62 / 75
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!
60
しおりを挟む事務官のお仕事は、いきなり暇になってしまった。
一番隊は、王太子の警護任務でバタバタ。レナートとロランは、お出迎えしてそのまま会議。ヨナターンとボジェクは、帝国の仕事は終わったから早じまいだって、帰り支度を始めるそうだ。
だから、私は団長室でオリヴェルから色々なことを教わっている。分かったことは、帝国は広くて、魔道具の技術がすごい。あと、海軍大将って滅多に会えないくらいに偉い。ヨナターンってあんなだから、あまりそう見えないねって言ったら、ヤンがゲラゲラ笑って、オリヴェルにまた拳骨を食らっていた。ごめんなさい。
「はあー! まだ八日しか経ってないよ? 二十日は居るって言ってたのに。結論も出さなくちゃだよね……」
「どうかお許しを。ああ見えて、大変にお忙しいお方なのです」
オリヴェルは、私の八つ当たりにも優しく接してくれる。
「まだ、決めかねてる感じ?」
ヤンもヤンなりに、気を遣ってくれているみたい。オリヴェルがその口調を叱ったんだけど、そのままが良いのってお願いしてある。
――まだ、怖くて言えないの。
私がブルザークに行くなら、レナートとはお別れになる。
今までだったら、仕方ないなって思えたのに。
「ふむ。どうやら、結論は出ていらっしゃるようですね」
「!」
「……決意ができていらっしゃらない。違いますか?」
「鋭いなあ、オリヴェルってばー」
思わず机に突っ伏してしまった。
「恐縮です」
「わがまま、言っちゃえばいーんでないの?」
「う……」
「こら、ヤン」
「さーせん!」
私は、怖いのだ。
「あのね……皇帝の妹が、どんな立場なのか……私には分からないの。だから、何も言えなくて。ごめんなさい」
だって、あんな王女の『気に食わないから解雇』が、まかり通るんだ(私のは通らなかったけど)。
たった一言で、誰かの人生を変えてしまえる。迂闊に『わがまま』なんか、言えないよ。
「殿下。迷われたら、いつでも何でも言ってくだされば良いのです。周りがなんとかすることも、できるのですよ」
「そっすよー!」
「……うん。ありがとうございます」
レナートと、離れたくない。
でも。
――レナートの人生を、変えたくない。
◇ ◇ ◇
「うあー、疲れたぁ」
「ロラン! おかえり」
「ただいまあ」
レナートに指摘されてから、みんなに「呼び捨てで良い?」て聞いたら、笑顔でむしろそうして! と言ってくれたロラン。
団長室に戻ってきたそんな銀狐は、化けの皮がだいぶ剥がれている。相当気疲れしているようだ。
「お茶飲む?」
「うん、おねがいぃ~」
もう副団長室にはほとんど戻っていなくて、ここに机持って来ようかな、なんて言っているぐらいに、入り浸っている。
「しっかし、キーラの机さあ、してやられたよね」
「ふふ。さすがに気づかなかったね」
ボイドが用意した私の机は、引き出しの鍵が複製されていた。悪党のくせに、知恵が回る。
「なくなった書類は、案の定クレイグのところにあったよ~。キーラのこと、王太子殿下が褒めてた」
「え? なんで?」
「提出したのを確認した時にね、記録の仕方も綴じ方もとても分かりやすい、だって。皇帝の妹じゃなかったら、嫁にしたかったって言って、ヨナターンとレナートが静かにキレてたー。見せたかった」
「えー? ヨナさんは分かるけど、レナートまで?」
俺の猫を取るなって感じかな?
「あー」
「ふふ。でしょうね」
「えぇ? あ、ヨナさんも王太子殿下と会ったの?」
「あーうん。是非挨拶したいって言われてさ」
「そっかあ。偉い人って、大変だね」
「キーラも、ドレス着てカーテシーで、ってやるんだよ」
「ぎゃー、やめてロラン。言わないで!」
「大丈夫、大丈夫。もうできてる」
「……そ、かもだけど」
私も自分で不思議だったけれど、ダンスやマナー、所作がたった十日でなんとかなったのは……皇帝が教えてくれていたなら納得だ、という結論に達した。
記憶がなくても、身体が覚えていたんだろう、とヨナターンに言われたのだ。
「なるほど、もう帝国に行こうとは思ってるんだね」
「!」
「キーラ。……変に受け取らないで欲しいんだけどさ。キーラが行こうと行くまいと、僕は帝国に行くよ」
「え!」
「ああ、受理されましたか」
「良かったっす!」
「え、え、え!」
「僕は、ビゼー伯爵家から抜けて、帝国での伯爵位を賜ります……破格の待遇だけれど、ヨナが推挙してくれていてね。伯爵なら、キーラとの謁見もできて便利なんだって。安心した?」
「すごい!」
嬉しい! 嬉しい!
「安心っていうか……ほんと、良かった……」
「そう言ってくれて、嬉しいな」
だってね。ロランもタウンハウスに泊まるってなった時に打ち明けてくれて思ったんだけど、男だろうと女だろうと、誰を好きになっても良いじゃない?
そんなことぐらいで病気とか、意味が分からないもの!
「だから、キーラが良かったら、その、僕を家族みたいに思ってくれたら嬉しいな」
――嬉しい!!
「ありがと、ロラン!」
この人は、最初から――ずっと前から、私を探し続けて。見つけてくれて。どうしたら良いのか、どう連れて行こうか、私を思ってそっと寄り添ってくれていた。
優しくて、賢い、私の自慢の。
「お兄様!」
「わあ! それってめちゃくちゃ嬉しいなあ、キーラ!」
同じ目の色同士で、笑い合って。
お茶を淹れるのも忘れてぎゅーって抱き合っていたら、オリヴェルが淹れてくれていて。
飲んでみたら、私のよりもずっとずっと美味しくて。
「んもー! オリヴェルすごい! 悔しい!」
「恐縮です」
みんなで、笑った。
0
お気に入りに追加
256
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる