【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている

卯崎瑛珠

文字の大きさ
上 下
56 / 75
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

54

しおりを挟む


 気絶したルイスをとりあえずソファに寝かせ、レナートが振り返る。

「閣下、そちらは……」
「ん? ああ、俺の部下。でかい方がボジェク少将。細い方が、オリヴェル中尉」
「雑すぎっす!」
 ボジェクが額に手を当てて仰け反る。
 金髪の肩ぐらいの長さの髪の毛を、前髪ごと後ろに一括りに結んだ、日焼けしたガタイの良い人。一見して強そう。
 一方のオリヴェルは、軍人? と思うくらいに線が細くて色白で、真ん中分けの茶髪に薄茶色の瞳。先生みたいな感じだ。
「オリヴェルと申します。ヤンが大変お世話になっております」
「オリヴェルさーん!」
 とヤンが尻尾を振るのを
「……静かに」
「さーせん」
 一言で黙らせた。すごい!

「私は騎士団長のレナート・ジュスタ。こちらは副団長のロラン、お見苦しいですが、一番隊隊長のルイス。そして、事務官のキーラです。こちらこそ、ヤン殿には大変助けられております」
 レナートが丁寧な騎士礼で全員を紹介してくれた。
 ヤンが感激してビシッとなったのを、
「良かったなあ、ヤン」
 ボジェクが笑う。

「すまんな、待ちきれず来てしまった」
 眉尻を下げるヨナターンに、レナートは首を振る。
「とんでもない。来て頂けて良かった。想定より事態が深刻でした」
「いったい、何があった?」
「まずは、お掛けください」
 レナートの仕草で
「お茶、お淹れしますね」
 と私が動くと、ブルザークの全員がギョッとした。
「私、事務官なので!」
 もう、いちいち気にしていられない! と開き直ると、ヤンが笑いながら、手伝いに来てくれた。
 
 ――空いているソファにヨナターンとボジェクが座り、その背後に立つオリヴェルとヤン。
 一方で、ルイスの足元に腰掛けるレナート。私とロランは、執務椅子を運んできて座らせてもらった。
 それぞれにお茶を配り終えると
「幸い接見まで多少お時間がございます。たった今、キーラの推理で判明したことも含めて、こちらの情報をお話させて頂きます」
 とレナートが口火を切った。
 


 ◇ ◇ ◇



「どうなることやらですねえ」

 ヤンが溜息をつきながら、伸びをする。オリヴェルと三人で団長室に残った私は、机の上に乗っている書類を黙々と整理していた。
 アルソス国王との接見に臨むのは、レナートとロラン。帝国側はヨナターンとボジェクだ。
 オリヴェルが机の脇に立って、じっと私の手元を見ていて、落ち着かない。
 
「あ、の」
「ああいえすみません。非常に効率よくお仕事をされているので、感心していたところです」
「団長が、色々教えてくれたんです」
「ほう」
「すごいすよね。団長って相当強いですよ。剣も事務仕事もできるって、オリヴェルさんみたいっす」
「オリヴェルさんも、強そうですもんね」
「そうなんすよー! 尊敬してるんす」

 ぽ、と頬が染まったオリヴェルは、一見取っつきづらそうだけれど、良い人なのだろうなと感じた。
 
「ゴホン。恐縮です」
「あの、中尉って、どのぐらいの階級なのですか? 大将が一番偉いのは分かるんですが、少将?」
「なるほど。知りたいと思っていただけるのは嬉しいですね。お仕事が一段落したら、帝国のことを少しお教えしましょうか」
「ありがとうございます!」
「ちぇー、自分が頼む前に、話がまとまっちゃうんだもんなあ」
「ごめん、ヤンさん!」
「ヤン。お前は気安すぎる」
「さーせん!」
 良い先輩後輩なんだろうな、と私は少し緊張を緩めることができて、ありがたかった。

「オリヴェルさんは……私のことをどう思っていますか?」

 書類の写しを綴じながら見上げると、優しい微笑みがそこにあり、少し面食らった。

「単純に、嬉しいですよ」
「なぜ?」
「皇帝陛下は、孤独なお方。殿下さえ良ければ、側で寄り添って頂けたらと、皆願っております」
「孤独? でも部下の方々がたくさんいるでしょう?」
「……貴女様なら、お分かり頂けるかと」
「そう……ですね……」

 家族と他人とは、やはり違うのだ。
 
「血塗られた皇帝陛下と、仲良くなれるでしょうか」
「ふむ。多大なる誤解があるようですね」
「誤解?」
「はい。五人の皇子方は、帝国の財産を食い潰し、挙句の果てには大した理由もなく、気に入らないというだけで――余興がごとく民を殺しておりました」
「ひ!」
「酷い時には、見せしめで家族の前で凌辱、惨殺する。恐怖で圧政を行おうとしていたのです。陛下は、末弟ゆえ帝位に就こうとはされておりませんでしたが……キーラ殿下が行方不明になり、これではいかんと奮起された」
「わた、し……?」
「はい。家族を失う悲しみを、帝国民に味わわせている兄たちが許せない。だからこそ、民衆の恨みを晴らし、新たな時代の幕開けを宣言するための、斬首を行った。そのお陰で、我らは再び大帝国とともに歩むことができているのです」
「っ」

 その心労を想像するだけで……いや、想像を絶した。

 孤独と、血塗れの両手。
 たった一人で、巨大な帝国の頂点に君臨している、兄。

「お分かり頂けたでしょうか」
「……はい……」


 胸が、苦しくなった。
 私にできることは。すべきことは。なんなのだろう。

 そのために、私は――この初恋を諦めなくてはならないのだろうか。


 鼻の奥がツンとしたので、鼻をすすったら
「冷えましたか? 何か温かいものでもお持ちしましょうか」
 とオリヴェルが気を遣ってくれ、その物腰の柔らかさに
「あは! オリヴェルさんて、なんか執事みたい!」
 思わず言ってしまった。
「ぶっ。それ禁句だから!」
「うーん。どう頑張っても、軍人に見えないようなんですよ……」
 というオリヴェルの愚痴に、また笑った。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

処理中です...