【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている

卯崎瑛珠

文字の大きさ
上 下
52 / 75
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

閑話 ヨナターンの謀略(リマニでの裏側)

しおりを挟む


 私は、ヨナターン・バザロフ、ブルザーク帝国海軍大将である。
 
 ……いやもう名前からして、やべぇよな。うん、自覚してる。イケおじ素敵~なんて寄って来ても、一夜のなんとかだもんなあ……という俺の愚痴は置いといてだな。

 皇帝陛下の生き別れの妹君を探せっていう、砂漠に落とした指輪を探すぐらいややこしい任務を、請け負っちまったい。
 というのも俺は元々州軍総大将でな。帝国のあらゆる州軍を統括してたから、地理には明るい。前海軍大将が色々やらかして解任、ついでに帝国内も落ち着いたから、州軍解体して陸軍と海軍体制に組織再編したわけよ。

 手がかりは、名前と髪と目の色、ほんで腕輪。

「そんだけえーーーーー!?」

 皇城の玉座の間で、叫んだよね、俺。

「そうだ。見つけろ」
「陛下ぁ」
「なんだ。見つけられたその時は、褒美はいくらでも取らすぞ」
「……分かりましたよ」

 ぶっちゃけ独身で海軍大将って、忙しすぎて金使う暇ねえのよ? 褒美て言われてもなあ。

「あ」

 分かった、寂しいんだな!
 隣国の公爵令嬢に振られたばっかりだもんなー、陛下。

「おいヨナターン。今ろくでもないこと、考えているだろう?」
「うえ!」
「……その首、胴体から離してやろうか?」
「御免こうむります! 探してきます!」

 この人、マジでやるからな。
 逃げよ、逃げよー。

 で、探すならやっぱ原点回帰じゃね? と思ってやって来ましたメレランド。

 船旅しんど!

 ほんで、ちっさ!

 この小さな王国は心底どうでも良いが、その奥の兄国であるアルソスからは、希少な大きさの魔石が取れる。それを融通してもらうためにも、メレランドのきな臭い動きをどうにかして欲しい、という依頼にも応えるべく、上陸した。
 妹君の母親が、この国のビゼー伯爵家出身だからだ。
 側妃って言っても名ばかりだけどな。帝国皇帝のもとには、各国各地域から女どもが大量に送り込まれるわけで。
 その中で、皇帝の寝所に呼ばれて、さらに子が出来たら側妃って扱いなだけ。そういう意味では、美人だったんだろうなあ。
 
 ちなみに現皇帝陛下は、女性全員、顔も見ずに送り返す。
 女性はダメなのかって噂は、隣国の公爵令嬢に失恋したって噂でかき消された(本人は不服そう)。
 
「赤髪の年頃の女の子? そりゃ目立つねえ。おいらは知らないなあ」
「そっかあ~」
「人探しなら、騎士団の屯所とんしょ行ってみなよ」
「おう。ありがとな、おっちゃん」

 善良な漁師たちは親切で助かった。
 だが、そんなビゼー領に入る前に、念のため隣のセバーグ領を訪れたら……活気がなくて驚いた。
 港を行きかう船は皆無。
 しかも、時々出港したり帰港したりしている船は、漁船ではない。

「何が起きている?」

 これは本腰を入れて、部下に調査を指示しなければなるまい、と思った。

 ビゼー領は、セバーグ領よりまだだった。多少は活気があり、漁も行われている。だが、
「負けっちまったよ」
「最近だめだなあ」
 という愚痴が、時折耳に入る。
「そうか? 俺は、コレだぜ」
 ある漁師が、人差し指の腹と親指の腹を何度かたんたん、とくっつける仕草をすると
「羨ましいねえ」
「っかー! 次こそ!」
 と反応があるのを見て、何か実入りの良いことがあるのか? と推測した。

 屯所に行く前に、うろうろと聞き込みをしていると――港町にそぐわない、やたら身なりの良い男が目に入った。
 銀髪は丁寧に整えられていて、淡く光を発するようだし、何よりその顔立ちは、女性と見まがうような美麗さだった。
 翠がかった碧眼に憂う表情。だが所作に隙がない。
 武をたしなむ者だ、ということはすぐに分かった。しかも、良い腕に違いない。

 ――何者だ?

 相手も同じ考えだったようで、疑いの眼差しでこちらに寄って来た。

「ぶしつけだが、貴殿はこの国の者ではないな。どなただろうか」
「はは、本当にぶしつけだな」
「失礼した。ここは目立つ、あちらで話をしたい」
「良いよ」

 案内されたのは、小さな休み処。
 今は漁師たちの利用時間とずれているようで、人影がない。
 
「主人、すまないが」
「はいはい。買い物にでも行きますよ。ご自由にどうぞ」
「……ありがとう」

 なるほど、人払いもできる身分。となると。

「ふむ。ビゼーの家の誰か、か?」
「!」
「あ、思い出した。ロランとか言う、やたら顔の綺麗な男がいると聞いていたが」

 殺気が溢れた。
 
「あー、あたっちまったか! まてまて。危害を加えるつもりはない」
「何者か」
「うん。俺はヨナターンという」
「っ! 帝国の海軍大将と同じ名だ」
「おお。話が早いな」
「なにを……」
「人探し、って言ったら分かるか?」
「!! キーラか!」
「っ知っているのか!?」
「……僕も探しているんだ……」
「そうか」

 それからロランは、色々教えてくれた。
 帝国にそんな話していいのか? と言ったら
「僕はこの国に未練がないんだ」
 と寂しそうに笑う。
 なぜ? と聞いたら
「僕が男しか愛せないと言ったら、勘当されたんだ。キーラを探したら、どこか流浪の旅でもしようかと」
 などとさらに寂しそうに言うから、助けたくなった。
 
「そんなことでか。なら、帝国に来るといい」
「は?」
「最近陛下がな、とある部下のために、同性同士でも結婚できるように、法を変えようとしていてだな」
「はあ!?」
「あ! そういやロランの顔っての……ま、いいや。考えとけ。な」

 銀狐が、狐につままれたような顔をしていたのがおかしくて、ゲラゲラ笑ったら、すんげえ怒られた。

 そうして二人で行動しているうちに、ロランが顔に似合わず激情家で、一本気で男らしく、賢く腕も立つ良い奴だと分かった。
 本気で部下にしようと思った。まだ言わないけど。
 

 そうして、最後の希望とばかりに、ビゼー領でも最も小さな港町であるリマニにやってきた。

「赤い髪の女の子って、キーラかい? 良い子だよ!」
「「!!」」

 食堂で働いていると聞き、逸る気持ちを抑えて向かったら――

 元気で快活。鮮やかな赤い髪は陛下と同じ色。しかも瞳の色はロランと同じ色。名前はキーラ。

「ロランッ」
「僕も、間違いないと思うよ、ヨナ」

 さてどうする、どう説明する? と食堂のうまい飯を食いながら思っていたら。

「泥棒!」
「……は?」
「あんたのことよ! 泥棒」

 
 ――はああああああああ!? おま、しかもその腕輪は!!

 
 ロランと顔を見合わせた。
 これは本当に想定外の出来事で、どう対処すべきか、迷っているうちに警備隊が来てしまった。
 ロランが
「僕が」
 と頷くので、こちらの『王国騎士団副団長権限』に託すことにし、俺は。

「んふ! この腕輪はぁ~」

 キーラが連れていかれて、勝利に酔いしれるバカ娼婦を殺したい気持ちを、必死で抑える。
 ロランが席を立って、近づいた。
 
「渡してもらおう」
「は!?」
「私は王国騎士団副団長、ロラン・ビゼーです。たまたまこちらの現場に居合わせましたが、そちらの言い分。検証するためにも証拠としてその腕輪、預かります」
「ちょ、副団長がここに!? そんなわけない! あなたが本物っていう証拠は!」

 イラッとするロラン、かなりおもしれえ。

「ほう? 領主でもあるビゼー家の嫡男を疑うとでも?」
「そそそソフィちゃん、ほほほ本物だよ!」
「えっ」
「おいら見たことある! 屯所で!」

 食堂に騎士団員も来ていたのか。話が早い。つまらんな。
 
「さあ。渡せ。渡さぬなら、貴様も泥棒、だな?」
「ちちち、ちが!」
 
 心底悔しそうに唇をかみしめる女に、嫌悪感しかわかない。
 自分の物にしようとしたのに、計算が狂った、などと思っているのだろう。

「マスター。しっかり取り調べさせて頂く」
 ロランが言うと、食堂の店主が泣きそうな顔で、
「良い子なんです。なにかの、間違いですから。お願いします」
 深々と頭を下げた。
「私も、そう思いますよ」
 
 ロランと、屯所へと向かう。

「会えたなあ」
「……助けなくちゃ」
「焦るな。しっかり手順を踏んでやらにゃ」
「そうだ、ね」
「腕輪を本国へ送らにゃならん」
「そうだったね」
「どうするかなあ」
「僕に、任せてもらえないか?」
「ふむ。この国のことだもんな」
「僕のせいで八年も辛い思いをさせたんだ。少しでも」
「お前のせいじゃない。責めるな」
 
 俺は、この、情の深い男を助けてやりたいなあ。
 
 ――やっぱり、強引に連れて帰るしかねえな。こいつも、陛下の妹君も。そのためには……


 
 ◇ ◇ ◇

 
 
「陛下、見つかりましたよ。本物かどうか、お確かめください」

 玉座の間で腕輪を渡すと、赤髪の『血塗られた皇帝』が珍しく息を呑んだ。

「……ご苦労だった。確かに、本物である。この銘は、余が特別に彫らせたものだ」
「ふう。なら、また行って連れて帰ってきます。ま、本人が良いと言ったらですけど」
「そうだな。無事と分かっただけでも良い。だが、一目でも会いたいのだ」
「御意。ではその腕輪は、直接お渡しになられたら良いかと」
「うむ。任せる」
「あ、あと褒美ですが」
「……なんだ」
「連れ帰りたい人間がいましてね」
「褒美だ。お前の好きにしろ」
「はっ」

 さっすが陛下。男前! だから崇拝されるんだなあ。

 うっし、あとは俺が頑張るだけってことだな。待ってろよ、銀狐!
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

処理中です...