【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている

卯崎瑛珠

文字の大きさ
上 下
49 / 75
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

48

しおりを挟む


 王宮内の、外部との接見によく使われるという部屋に通された。
 メイドや侍従たちが、ぎょっとした顔をして迎えたのを、ロランが笑顔で
「密談である。決して近寄らぬように」
 と人払いしてくれた。

 ソファに座るヨナターンの向かいに促されて、レナートと私が並んで腰かける。
 ロランは、ヨナターンの脇に立ったまま。
 
「さて、改めて。ブルザーク帝国海軍大将、ヨナターン・バサロフ。レナート殿に心から感謝申し上げたい」
「レナート・ジュスタ、メレランド王国騎士団長にございます。当然のことをしたまでで、礼には及びません」
「貴殿とロランがいなかったら、到底殿下は、無事ではおられなかっただろう」
「もったいなきお言葉です」

 ――レナートが優しかったのは、私が……皇帝の妹だったから?

「ね、いつ? いつから知ってたのですか?」

 あ、だめだ。
 泣いちゃいそう。
 
「……」
 言葉に詰まるレナートの代わりに、ロランが静かに言った。
「キーラ殿下。機密文書のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「ロラン様、その口調やめてください! 前と同じにして!」
「そりゃあそうだよな。レナート殿もロランも、無礼は問わんから、力を抜いてくれ」
「「は」」

 そういえば、あの機密文書を見た時のレナートは、とても悲しそうだった。

「あれは、なに?」
「僕が説明するよ。キーラの腕輪、預かっていたでしょう? 実は、帝国に送って照会したんだ。あれは、その回答書だった」
「え!」
「勝手にごめんね。でも」
 ロランがちらり、とヨナターンを見下ろすと、肩をすくめながら教えてくれた。
 
「赤い大きな宝石が入っていただろう? あれは『皇帝の赤』と呼ばれる、大変希少なルビーなのだ。しかも、腕輪は陛下の銘入り」
「陛下の……銘入り?」
「ああ。キーラ、とは『ラドスラフの大事なもの』という意味で名付けられた」
「ラドスラフ?」
「我が皇帝陛下のお名前だ。幼い妹君を、大層可愛がっておられた」
 
 ――それからヨナターンが語ったことは。

 年の離れた妹が、母親違いで生まれた。
 跡継ぎになる皇子を希望していたのに女だったから、母親は見事に育児放棄。
 当時皇子で、たまたま同じ場所に住んでいた現皇帝が不憫に思い、乳母の協力を得ながら、勝手に名付けて面倒を見ていたのだそうだ。
 前皇帝が亡くなると、後継争いで激しい内戦が起き、母親は殺された。十歳になったばかりの私ですら暗殺の憂き目に遭い、混乱の最中で行方不明になってしまった。
 
 手掛かりは、髪と目の色と、皇帝が贈った腕輪だけ。

 現皇帝が即位してようやく内政が落ち着いて、帝国内はもちろん貿易相手の各国へも商人を送り込み、同じ色の同じ年頃の娘がいると聞けば、確かめさせていたということだった。
 
「奇跡的に見つかったんだよ……無事で本当に良かった。八年も探せずに申し訳なかった」
「はち、ねん」

 年齢、合ってたんだね。良かった。
 
「僕のせいなんだ。辛い思いをさせて、本当にごめん」
「ロラン?」
「僕の……せいで……」

 ヨナターンがソファから手を伸ばして、ロランの背中を優しく撫でる。
 
「キーラの母親は、ロランの叔母にあたるのだ」
「おば?」
「そう。僕の母親の妹が、帝国皇帝の側妃として無理矢理嫁がされた、キーラの母親。つまり、僕らはだね。ほら、目の色一緒でしょ?」

 ――翠がかった、碧眼。言われてみれば、同じ色!

「僕とビゼー伯爵家との仲がこじれにこじれて、家の中が荒れ狂っていた。ちょうどその時に帝国から届いた捜索願が、見過ごされてしまったんだ」

 しゅんとするロランを、責める気は全く起こらない。
 伯爵家にはたくさんの書類が届くだろうし、心が別のことに囚われていたなら、見過ごされることもある。
 
 ヨナターンが、
「母親と縁のある土地を、もう一度くまなく探そうとしていたところに、今回の戦争の話だ。ついでに乗り込んでやろうと思って、何度か下見で訪れていたら、ロランが探し回ってくれていて、知り合ったんだ。で、小さな港町に目立つ赤い髪の子がいると聞いて、キーラを見に二人であの食堂へ行った。まさかその場で泥棒扱いされるとは思わなくて、驚いたけどな」
 と補足して笑う。

 そりゃそうだ! 私だって驚いたし!
 
「僕たちは間違いないって確信していたんだけど、なにせ皇帝の妹だからね。腕輪を本国に送って照会しないといけないし、安全なところに連れていきたくてさ」

 うわ! 全部ロランの作戦だったのね!
 
「策士! 詐欺師! 銀狐!」
「えっと、褒めてる?」
「褒めてない! 返して!」
「ん?」
「腕輪!」

 ソファから立ち上がってロランに詰め寄ると、
「あーそれがな……」
 なぜかヨナターンが言いづらそうに、頭をかいた。
「陛下が持ってる」
「は?」
「陛下。キーラに会って、直接渡したいってさ」

 ――うっそ!
 
「うっそおおおおお!」
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

処理中です...