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第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!
43 ヤンside
しおりを挟むどうも~、ヤンです!
って、めちゃくちゃ怪しい人間っすよね。自分でもそう思います。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、自分、ブルザークの軍人です。
(踵鳴らす騎士礼は、ブルザークの特徴だ! って後ですげえ怒られました。癖なんすもん……)
ええ、ええ、分かってますよ! 潜入任務は苦手なんですって!
鬼上司(陸軍大将)に「陸軍にばっかり居ても、視界が狭まっていかん。海軍行ってこい」って文字通り放り投げ出されましてね。
んでいざ海軍来たら「ちょうどよかった。貿易相手がきな臭い。あと、大事な任務が発生したから、潜入して来い」ですって! 泣きそう!
「帰ってきたら少尉にしてやるから」って口約束だけど、守ってくれますよね? ね? ね?
まあ、新しい海軍大将はものすごいやり手だから、いいけどね……あの人、陽気な漁師を気取ってるけど、戦場では魔王だからね……これほんと。見ただけで泣く。てか、死ぬ。
そんな自分こと、ヤン曹長。失恋したてってこともあって(すんごい可愛い子だったんだけど、告白したらまさかの既婚だった! 切なすぎる!)、半ば自棄になって来ましたよ、メレランド王国。
ちっさ!
あ、ごめん。自分、正直なのが取り柄です。
いやあ小さいよ。すごい小さい国なんだなあ。漁と、少しの農産物が主な収入源。やっていけんの!? て勝手に心配してたら、隣のアルソスの後ろ盾があるのだとか。なるほど。
――けれど、きな臭い。
なんだろう、この空気感。
普通、漁師ってこう、活気があって元気な感じだよね? でもここの人たちは、なんか、だらだら生きているっていうか。
王都に行ったら多少は違うかな? と思って、潜入先の騎士団に行ったら……なんていうかまあ、騎士ってなに?
怠けてるっていうのとは違う。そう、諦めているんだ。しっくりきた。
活き活きしているのは、ごく一部の人間だけに見える。
早速騎士団の練習に参加してみたけど、なんだこれー。手加減が難しいよ!
まともなの二、三人いればいい方かな。ブルザークの田舎町の用心棒の方が強いよ? あ、正直なのが取り柄です。
団長は別格。手は出したくない、と思ったらアルソスの元師団長だって。納得!
「レナート・ジュスタだ。フレッド様……アルソスの騎士団長から聞いている。よろしく頼む」
ものすごい堅物だけど、誠実な人だ。
この人なりに、立て直そうという気概がある。他国のことなのに、すごいなあ。単純に良い人なんだな。
あ、そうそう。アルソス王国にはちゃんとお伺い立ててるからね。
その辺うちの皇帝陛下と書記官、すんごいから。
「気に食わんかったら潰す」て言ったらしいけど。こわ!
ちなみに陛下いわく「めんどくさいからやらん」だそうです。ヨカッタネ。
アルソス国王も、弟のメレランド国王が全然言うこと聞かなくなってきて、お荷物気味なんだって。
むしろつぶしてくれた方が、なんて笑顔で王太子が言ったらしいよ。黒いねー。
で。潜入して三日目に、すごい元気で可愛い子が来た。それが、キーラ。
一緒にいた『銀狐』で有名な副団長、自分のことは耳に入っているはずなのに『完璧な初対面』だったね。この人にも手は出したくない。
キーラを案内して戻ってきたら、
「どうか、守ってやって欲しい」
と頭を下げられたよ。冷酷かと思ったらすごい良い人だった!
「めちゃくちゃ良い子ですね! お任せください!」
て返したら笑ってて、男でもドキッとする綺麗な顔だった。
――不穏なことは多々あるけれど、充実した日々。
けれどもそれには『終わり』があるんだ。
「レナート様。報告へ戻ります」
長期休暇を告げた時、堅物騎士団長の眉間のしわが一層深くなった。
「そうか。よろしく頼む」
「はっ」
カツッ! て踵を鳴らしたら、
「それは……そうか、いいのか」
と今度は叱られなかった。
万事整えて戻ってきて。
キーラが真面目に任務と向かい合って、証拠を集めて、皆を動かしていたことに感動した。
何よりも、自分自身の力で考えて行動しているのがすごいよね。
「俺が持っている情報と合わせると、見えてきそうだな。この際全部吐き出して整理して、対策を練ろう」
団長の覚悟が、垣間見えた。
ああ、いよいよ、終わらせる時が来たんだなあ。
「キーラ、『賭け事』の仕草って言ったね」
「はい。ヤンさん、何かご存じなのですか?」
「うん。『賭け事』に誘われた」
「やっぱり!」
キーラの目に、強い光が宿った。
「おかしいなって思ったんです! アーチーが、俺は『ハグレ』だって言ったんです。でも、元騎士団員で準男爵なら、国から生活保障があるはずですよね。なのに、お金がないって変です。それに、団員たちの細々とした経費申請だって、お給料で賄えるぐらいのもの。つまり」
「まさか……給料が、ないのか!」
レナートも、鋭い。
「そうです!」
「給料全て、賭けに使っている……?」
ロランが、瞠目する。
「自分も、そう思うっす」
この小さな国にまん延している、諦観。
恐らくみんな、負けているんだ。
-----------------------------
ヤンside、いかがでしたでしょうか。
騎士の生活保障やアーチーのハグレ発言、賭け事の仕草など、少しずつ散りばめていましたが、気づかれなくても全然問題ないように書いております。
(ヤンが踵を鳴らしたのは、22話です。細かい設定ですみません!)
これから、物語は佳境を迎えます。
ハッピーエンドへ向けてひた走りますので、どうぞ最後まで応援を宜しくお願いいたします。
ヤンが活躍する?『公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです』も読んで頂ければ嬉しいです。
※ヤンの登場は、「〈126〉いざ、登校開始です」からです。ながっ! 笑
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