41 / 75
第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!
40
しおりを挟む「侵入した事実はなくなった。キーラへの暴力も、問えなくなった」
レナートが厳しい表情のままだ。
「無罪で野放し、ということですか」
「そういうことだな」
ロランが唇を噛みしめている。
「キーラ……僕が」
「いえ。ロラン様は悪くありません。今まで団長室には鍵をかけていませんでした。今日からは」
「そうだな。完全に内部の犯行だ。ここには大事な書類がたくさんある。施錠するようにしよう」
大事な、書類……あ!
「あの……すごく嫌な予感しました今」
私は、慌てて自分の机に向かい、引き出しを開ける。
「どうした」
レナートがつられて立ち上がった。
「私、ほら、ブルザークの方々の受け入れ手配を、一人でやれっていう任務があるじゃないですか」
「は?」
「なにそれ?」
ロランとヤンが、瞬間で憤り、レナートが付け足す。
「ああ、王女の嫌がらせのやつだな」
「「はあ!?」」
「ええ。その経費をまとめた書類。あ、やっぱり。なくなってますね」
「「「なんだって!?」」」
大の大人三人が大声で立ち上がると、なかなかの迫力だ。
「まあ、それについては、そうなるかもなと思って対策を講じていたので、大丈夫です。それよりも」
私は目に力を入れて、立ち上がった三人を見た。
「私が見たことをお話しなければなりません。みなさんは……私の味方ですか?」
予想が正しければ、あのボイドの仕草は。
「団長と副団長は、アルソスからここを立て直すために来ました。ヤンさんは?」
「信用を証明する方法がなくて、どうしようって思ってるよ」
「アーチーを捕まえたの、ヤンさんですからね」
「自分が間諜なら、その時何かを仕込むよね」
レナートの眉間が、見たこともないくらいに深まった。
「腹の探り合いはそこまでだ。ヤンが裏切るなら、俺が叩き潰す」
ヤンが眉尻を下げて、黙って両手を挙げた。
「ありがとうございます。説明します。私の推測も混ざっていますが」
私は、鍵付き書庫にしまってあった、ある書類の束を出す。
「これ、騎士団名簿と、要人接待関連の書類の写しです」
テーブルに広げながら、説明する。
「見てください。最近、ある商人から買っている物が多すぎるんです」
「ほう?」
レナートが、代表するかのように反応してくれる。
「名目は、備品。金額も小さいし、出している人も別々。でもほら、筆跡を見てください」
「……似ている」
「そうなんです。もしや同じ人が、他の団員の名前を借りて? と思って、最初に出した人の出身地を確認したら、ボイド様と同じでした」
「「「!!」」」
「アーチーも同じ出身では? と思って名簿見たら……ほら、やっぱり」
レナートがテーブル上の書類を眺めながら言う。
「セバーグ伯爵領……」
「僕んとこ――ビゼーの、隣」
ロランが息を吐く。
「商売も一緒で、主に漁と、帝国との貿易。でも、やり方がまずくてね。いつも財政は赤字のはず……」
「ロラン様から見て、ボイド様とルイス様は、仲良いですか?」
「いや、悪いと思う」
「でも、出身同じです」
「うそ!! ルイスもセバーグなの!?」
「はい。名簿を作る時、階級章のためと言いましたから。ルイス隊長のことだから、うっかり正直に言ったのではと……ほら、ここ」
ロランがソファに、どっかりと腰を打ち付けるように座る。
「つまり、僕とレナートが険悪と見せかけたように」
「ええ。あの二人もではと」
レナートが、立ったまま首を傾げる。――こんな時になんだけど、可愛い。
「なるほど……表と裏、だな?」
「はい! さすが団長です!」
「「表と裏?」」
「あの、もしボイド様の部下がたくさん経費を申請したら、問答無用で却下しませんか」
全員、頷く。
「でもルイス様の部下なら? 彼はロラン様の信頼を勝ち得ています。備品や消耗品で少額なら」
「……査定もせずに承認していた」
「はい。私も少額だから、大して確認せず署名だけもらっていました。最近やっと、おかしさに気づいたところでした」
「ははあ。ボイドが表立って問題を起こす。一方でルイスが優秀な団員を演じて、良く見せて信頼させた、てわけですね」
ヤンの説明がとても分かりやすい。
「ええ。そしてその二人の関係に気づいたのが、これでした」
私は、人差し指と親指の腹を二、三回くっつけて離す、例の仕草をしてみせた。
「なんだ?」
「なにそれ?」
「うーん?」
三人の反応を見て、ようやく安心する。良かった、絶対初見だ。
「これは港町の漁師が、隠れて賭け事をした時の合図なんです。意味は『勝った』もしくは『お金』です」
レナートが唸る。
「アーチーを逃がしてやったぞ、ルイス、金寄越せ。といったところか」
「はい。私もそう推測しました」
「……キーラを武器庫に誘導したのは、ルイスだもんね。失敗するなんて思ってもみなかった、てところかなあ」
「副団長の読みの通りだと自分も思います。となると、キーラの護衛に集中したいですね」
ヤンの硬い言葉に、全員が頷いた。
「ねえレナート。そこまでしてこの騎士団には、何があるんだろう? 金だけではない気がしてきたよ」
「そうだな、ロラン……団長は――フレッド様は、それに気づいて俺たちを派遣したのかもしれんな」
――沈黙。
「あのー、差し出がましいですが。この際、これからのことをきちんと相談しませんか?」
再び、ヤンの言葉に全員で頷く。
「とするとここではなく」
レナートが私の顔を見たので、
「タウンハウスの方が良いかもしれません」
と同意した。
それぞれ任務が終わり次第集合、ということで、この場は解散となった。
0
お気に入りに追加
256
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる