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第二章 誤解!? 確信! 仕事!!
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しおりを挟む「そろそろ戻ろうかな。長居は良くないしね」
ロランが席を立つと、レナートが
「そうだ、ロラン。キーラの部屋に風呂がないのだそうだ。寮に風呂は……」
と聞いてくれた。
「あーそっか! そういえば、共同浴場だけだね」
「それは……危険だな」
「えっ、危険なのですか?」
「キーラが騎士たちと一緒にお風呂入りたいんなら、別だけどね」
ウインクしながら意地悪を言う銀狐。
ちょっと足踏んでやろうかな?
「ちょっとその殺気は引っ込めて欲しいな」
「だって! 嫌なこと言うんだもん!」
「キーラ、相手にするな。こいつのいつもの軽口だ」
「あ! 僕、良いこと思いついた。どうする? 聞く?」
レナートと私、顔を見合せた。
「レナートさあ、タウンハウスの通いのメイドさん、不満だって言ってたでしょ」
「……ああ」
「キーラはさ、食堂で働いてたんなら、料理できるよね?」
「……ええ、まあ」
「掃除と洗濯は?」
「一通りできますけど」
見合わせていた顔を、同時にロランに向ける。
「「まさか」」
「はい。僕のメイドを、団長に献上しまーす」
「ぶ」
「へ?」
「レナートの面倒、見てあげて。てわけで、キーラは今日からタウンハウスに住み込みね。じゃ、ご馳走様」
早口で言いたいだけ言うと、ひらひらと手を振って、ロランは部屋を出て行った。
バタン。
――しばらくの、静寂。
「キーラ」
「はい……」
「その、どうか変な風に取らないでくれ。タウンハウスには、部屋が余っている」
「そう、なんですね」
「風呂もある。もちろん自由に使ってもらって構わない。寮よりは、快適だと思う」
「……」
「だから、その、キーラさえ良ければ」
レナートって……ほんと……
「団長」
「なんだ」
「団長って、すっごく良い人ですね!」
「!?」
「命令すれば良いのに、こうやって意見を聞いてくださる。私、それがとっても嬉しいんです!」
私は思わず、自分の体の前で両手をぎゅっと握って、レナートに詰め寄ってしまった。
「そうか」
「はい! メイドとして、喜んで行かせて頂きます。今の方がご不満ということなので、またして欲しいことを教えてください」
レナートが、ホッとした顔をする。
「ありがとう。だが、事務官の仕事もこれから大変になる」
「はい」
「できる限りでいい。無理はするな。……宜しく頼む」
「はい! こちらこそ、宜しくお願い致します!」
本心は、レナートと一緒に住むのが、楽しみで。
だってだって、もっとたくさんお話したいし、できればもっと仲良くなりたい。
「ならば今日は一緒に帰った方が良いな。歩いてすぐだ。道案内しよう」
「はい!」
「急ぎの書類を終わらせたら、帰ることにしよう」
「分かりました。お夕食は、何が食べたいですか?」
「!?」
「ふふ、考えておいてくださいね! またお買い物しなくちゃ。私、寮から荷物、取ってきます」
「そう、だな」
目をパチパチと瞬かせるレナート。
私は、嬉しくて、浮ついていた――
◇ ◇ ◇
寮での荷物を引き上げて、廊下を歩いていると。
向こう側から歩いてくるのは……ボイドと、その部下と思われる二人組。
「あっれー、キーラちゃんじゃーん!」
一番会いたくない人に、会っちゃうものなんだなあ、と思いつつ笑顔で「こんにちは」を返す。
「なにその荷物? 持ってあげるよー!」
「あ、いえ、持てますので。お気遣いありがとうございます」
「まあまあ。遠慮しないでさあ」
遠慮はしていない。いちいち肩を抱かないで欲しい。
「ん? なにこれ、服? ねえねえ、なんで?」
「えっと、整頓しようかなって」
「へえ。こんな地味なのじゃなくてさあ。可愛いの買いに行こうよ! ね? なんでも買ってあげるからさあ」
どうしよう――怖い!
後頭部を、執拗に撫でてくるし、また耳に息がかかっている。
ボイドの隣の部下の人も、ニヤニヤして見ているだけ。
でも、これを一人で切り抜けられなかったら、きっとこの先もやっていけない。踏ん張らなくちゃ。
「あの! 本当に、大丈夫ですから」
「なんだよー、手伝うって言ってあげてんのにさー」
ああ、この傲慢な騎士たちの中には、私が断るっていう選択肢はないんだ。町の食堂なら、ご飯あげないよ! て強く言ってカウンターに逃げ込めば、マスターも他のお客さんも助けてくれた。でも、これは強くて一方的なものだ。
私一人で、逃げる術は、ない……
泣きたくなってきた。
「んー? なんだよ、辛気臭くなってさあ。楽しいこと、してあげるって言ってんのにさー?」
「酒でも飲もうぜ? そしたらさあ」
「気持ちいーこともー」
「しちゃったりしちゃいますか? ハハ!」
――怖い。怖い! 誰か、助けて……
「ボイド様」
すると、遠くから鋭い声がした。
「あ?」
ヤンが、廊下の先から、ニコニコと歩いてくる。
「なにしてるんすか?」
「てめえは! アーチーを捕まえた奴!」
「いやあ、あれは、団長命令ですって」
ヤンは、両手を挙げて眉尻を下げる。
それを見たボイドは、余計に苛ついた。
「んなもん聞くやつが、どうかしてんだよ!」
「へえ? もうすぐ王女様が来るってのに、問題起こして良いんすかね」
「なんでてめえがそれを」
「ボイド様、まずいすよ」
ボイドとヤンの一触即発の雰囲気を、ボイドの部下が慌てて止めた。さすがに騒ぎになるのはまずい、と思ってくれたようだ。
「ちっ! てめえ、視察終わったら覚えてろよ」
つまらなそうに部下に顎で前を差し、捨て台詞を吐いて歩いて行った――ほっと息をつく。
「やれやれ。危なかったね」
「ヤンさん……」
「たまたま通って良かった」
ぽりぽりと頭をかいている。
「とりあえず、団長室まで送るよ」
「……すみません」
うまく逃げられなかった……
さっきまでの浮ついた幸せな気持ちは、あっという間に消えてしまっていた。
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お読み頂き、ありがとうございました!
ロランの「同棲させちゃおう作戦」は、果たしてどうなるでしょうか?
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