【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている

卯崎瑛珠

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第二章 誤解!? 確信! 仕事!!

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 お茶屋さんのおかみさんは、なんと騎士団の食堂に勤めているロザンナさんのお姉さんだった。偶然にしてもすごい。

「メリンダだよ。よろしくね!」

 そっくり! 恰幅がよくて、明るくて、頼もしい感じ。

「お茶の淹れ方だって? もちろん教えてあげるよ。食堂に茶葉仕入れてくれるかい?」

 ちゃっかり、レナートに売り込むのもまたすごい。
 
「もちろんだ。季節ごとのおすすめにしてくれないか」
「いやあ、団長さん! 話が分かるねえ! 気に入った!」

 ばしばしと遠慮なくレナートの二の腕を叩くのもまたまた、すごい。
 王都の店に来るのも大変だろうから、と、納品の時ついでに教えてもらえることになった。
 
「裁縫も手当ても、あたしとロザンナが教えてあげるさ」
「ほんとですか!? 嬉しいです!」
「その代わり、団長さんをしっかり助けるんだよ。今度の団長さんは、まともみたいだからね!」

 さっき、アーチーを処分した話は、どうやらあっという間に広まっているみたいだ。
 街を歩いているだけで、なんとなく視線を感じるから。
 
「はい!」
「他のことでも、なんでも聞きな!」
「あ! それじゃあ、おすすめの下着のお店って、どこですか?」
「ん? ははーん! いい店知ってるよ!」

 メリンダさん、なぜか盛大なウインクをした。

「団長さん、堅そうな顔して、やるねえ!」
「ぶっ」
「え!? ちちちち違いますよ! 私、引っ越してきたばかりで!」
「まあまあ。好みの選んでもらいな!」
「ちょ!!」
「ごほごほっ!!」
 
 レナート、ものすごく真っ赤!
 私も多分そう! 顔、あっついもん!!

 若いって、いいねえ! とメリンダさんににやにや見送られて、ものすごく気まずく歩く。

「……」
「……」

 また無言に戻っちゃったよ!

「あ、あの」
「うん。すまない」
「へ?」
「……誤解されてしまった……」

 ――なんて真面目な人なんでしょうか!

「私は、気にしないですよ! ありえないですから」

 団長みたいな、爵位も地位もある人が、私なんかを相手にするわけないもんね。

「っ……そうか」
「はい!」

 レナートは、店の前で待っているのもまた気を遣うだろうと、広場のベンチで待っていると言ってくれた。
 心なしか元気がなくなったように見えたのは、気のせいだろうか。やはり誤解されたのが嫌だったとか――大変申し訳ないなと、胸がツキンと痛む。

 下着屋さんの店主のお姉さんも、とっても感じの良い人だった。
 引っ越してきたばかりなので、洗いやすくて使いやすいものを! という私の要望に沿ったものを何着かと、それから。

「騎士団に来たんなら、良い男もたくさんいるでしょうよ! これで攻めて、がっちり捕まえちゃいなさいな!」

 と可愛いものも何着か薦められ――断り切れなかったのは、内緒。
 
 買い物袋を抱えて広場に戻ると、ベンチに足を組んで腰かけているレナートの姿が、すぐに目に入った。
 
 すっと伸びた背筋。体格は良いけれど、顔は小さいし背も高いので、遠目でも洗練されていると感じる。
 眉間にしわは寄っているものの、誠実そうなのは伝わるし、女性に声を掛けられることも多いのでは、と思っていたら……やはり周りの女性たちがちろちろ様子を窺っているのが分かった。
 
「ね、あの人? 噂のちゃんとした騎士団長って」
「そうみたい。お酒代踏み倒した奴、捕まえてくれたんだって。カッコいいわね!」
「素敵ね~声、かけちゃう?」
「えっ、でも怖くないかしら?」
 
 そんな風にきゃっきゃと話しながら、私の前を歩いている女性の二人組は、ふわふわと揺れる華やかな色のワンピースを着ていて、髪の毛も綺麗に編んでいる。
 それに比べて私は、地味なワンピースだし、髪の毛だって少し櫛を通したくらいで、ぴんぴん跳ねている。
 ――今まで生きるのに必死で、見た目なんて、気にしたことなかった……

 買った服も、動きやすさと洗いやすさを重視したものばかり。
 靴も、馬がいたり、走ったりするかもしれないからって言って、丈夫で長いブーツにした。
 こうして考えたら、色気とか女性らしさ、全然ないね、私。
 こんなのが団長とどうにかなるだなんて。メリンダさんたら、勘違いにも程があるよ――急にそんなことを考えてしまって。
 
 胸がズキンとして、大きな溜息が出てしまった。
 ――レナートが私に気づいて、立ち上がるのが分かっても、動けなかった。

 前の二人組が「きゃっ」「こっち見たわ!」って騒いでいて、なんだか苦しくなる。
 私……なんでだろう。なんでこんなに苦しいの。分からないよ……

 レナートが、ゆっくりと歩いて近づいてくる。
 女の子たちが、「こっちに来るわ!」「え、どうする?」なんてはしゃぎ始めて、顔が上げられなくなってしまった。

「キーラ? どうした?」

 レナートは女性たちに気づかない様子で、私の前まで来て、優しく覗きこんでくれた。

「なんでもないです! お待たせして、すみませんでした。戻りましょっか!」
 
 なるべく明るく言うので、精いっぱいだった。

 

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お読み頂き、ありがとうございました。
レナート「やっぱり俺とはありえないかぁ(;ω;)」です。頑張れ……
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