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第二章 誤解!? 確信! 仕事!!
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しおりを挟む「こんなにたくさん買って頂いて……嬉しいんですが、良いのでしょうか」
レナートの両手は、買い物した後の紙袋でふさがっている。
中身は仕事で使う文房具の他、普段の服、生活雑貨などだ。なにせほぼ手ぶらで来たのだから仕方がないとは言え、騎士団長に持たせるのも気が引けて仕方がない。
「良い」
簡潔な返事の後、いったん馬車に荷物を置きに戻ってきた二人。
「……何か食べるか」
馬車止めから歩いて街へ戻る間、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「はい! おなかすきました! ……って団長、戻らなくても良いのですか? ヤンさんは、大丈夫でしょうか」
「良い。大丈夫だ」
「……それならよかったです。何食べます?」
キョロキョロ周りを見てみるけれど、お店が多すぎてよく分からない。
「食べたいものはあるか」
「んー。あ! 王都のおすすめってなんでしょう? 私、初めて来たので!」
ふ、とレナートが笑う。
「私変なこと言いました? あ! 調子に乗りました!?」
「ああいや、かわ……んんん! いやその、はっきり言ってくれて助かる」
あ、まただ。
「はあ。その『かわ』て何回か言いかけてますけど、なんです?」
「!」
「あ! まさか!」
「!!」
「悪口ですか!」
「!?」
「んもーーーーーー! どうせ、雑だし女っぽさの欠片もないですよっ!」
レナートの目が、またまんまるになった。
「雑などと思ったことはないぞ。あと悪口じゃない」
「ほんとですか?」
「……頬が膨れている。顔がまんまるだ」
あ、ごまかしたな! いいもんね!
「団長の目もまんまるですけどね!」
「!?」
「あははは!」
今度は赤くなったぞ!
「んん……確か、この近くに鳥のうまい店があったな」
「鳥!」
「焼いて食べる」
「食べる! 食べます! 食べたことないです!」
「っははは」
うわあ、大きな口で、笑ったよ!
「目がキラキラしている。すごい食い意地だな」
「あー! 今のは!」
「悪口だな」
「団長っ」
「?」
「鳥食べたら、し・た・ぎ、買いたいです」
「っっ……わざとだな?」
「バレました?」
「……バレたぞ」
どうしよう、すごく楽しい……!
ゴーレム男? 堅物? 全然そんなことない!
私、人といてこんなに楽しいの、初めてだ……
レナートのお薦めのお店は、小さな食堂だった。リマニのマスターのお店を思い出して、なんだか落ち着かない。
スープ、鳥とパンを注文して、テーブルに向かい合わせに座る。
レナートが、団長室とは違って穏やかな顔をしているのが、嬉しくて、こそばゆい。
「キーラは、変わっているな」
「あ、それも悪口ですか?」
「そうかもしれん」
「むっ」
「たいていの女性は、俺はつまらないと言って怒り出す」
「へえ? なぜです?」
「なぜだろう」
レナートは、真剣に首をひねっている。
「貴族の女性のことは、私にもわからないです」
「……そう、だな」
「私は、楽しいですよ」
「っ」
今度は目が……細くなった。
「……ありがとう」
「こちらこそです」
「はいよ、おまちー」
どん! と店主がお皿をテーブルに置いたので、しばらく会話はおしまいにして。
二人で食べることに集中した。
鳥は、噛むと肉汁がじゅわっと出て、熱くて弾力があった。上にかかっている香草も好きな味。
「んー! おいしい! 私、港町だったから、ほとんど魚介類で」
「そうか。今度は豚を食べるか」
「ぶた! 聞いたことあります! ぶーぶーて鳴く?」
「! っっ……っっ」
レナートの肩の震えが止まらない。
「はいはい、どうせ食い意地張ってますよ」
「くくく……なら、甘いのはどうだ」
「甘い? 甘いの? ってどんな?」
レナートが、今度はぴしっと固まった。
もしかして、良くないことだったのかな、と不安になる。
「ダメ……でした……?」
「ああいや。そうすると、お茶も飲まないか」
「飲まないです」
「ふむ……」
最後のパンのかけらを口に入れて、レナートは考え込んでいる。
「団長室には、魔道コンロと茶器が置いてあるのだ。できれば、お茶を淹れてくれたらと思ったのだが」
「なるほど! お茶屋さんで、淹れ方を習うことはできますかね?」
「習う?」
「はい。私は両親がいないので、マスターや市場の人に習って色々なことを覚えました」
「それは良い考えだ。聞いてみよう」
レナートって、なんでこんなに良くしてくれるのかな。
「他に習いたいことは、あるか? せっかくだ」
「それなのですが、あの、なんでも言ってよいですか?」
「なんでも言ってくれ」
「裁縫と、手当ての仕方、です」
「? なぜだ」
「裁縫は、ほら騎士服って、ボタンとか階級章とか、色々ついているでしょう? 万が一取れた時とかに、ぱぱっと直せたらいいなって。手当ても、訓練で怪我とかしたときに、出来た方が」
少しでも役に立つためと思って話しているだけなのに、レナートの眉尻が下がる。
「キーラは、すごいな」
「へ?」
「そうやって、誰かのためにと行動ができる」
「そ……でしょうか」
きゅ、急に褒められると、恥ずかしい!!
「手配しよう」
向かいで微笑む濃い青色の目が、とても優しくて。
「ありがとう。とても助かる」
「……はい……」
心臓が、ギュンギュンしてしまった――
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お読み頂き、ありがとうございましたm(_ _)m
女性にキレられるレナート。
想像したらちょっと面白いですね。
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