【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている

卯崎瑛珠

文字の大きさ
上 下
8 / 75
第一章 逮捕!? 釈放!! 新天地!!

8

しおりを挟む



「おはようございます」
「おはよう」
「おお」

 明朝。
 宿屋の食堂に降りると、既にロランとヨナがテーブルに座っていた。

「うわ、可愛い」
「……」
「あの、あんまり見ないでください」

 用意されたワンピースは、膝丈の長さ。腰の部分がきゅっとしまっていて、胸元に白いリボンがある、ピンク色のものだ。
 ヨナが、固まっている。

「ヨナさん?」
「あ、ああ、いや……ちょっとその服、可愛すぎるなあ。なにか羽織るものがあれば……」
「じゃあ僕の、じゃなかった、私のひざ掛けを貸そう」
 黒と青の糸で織られた、薄手のきれいな布だ。確かに羽織れば服は隠せるし、おかしくもない。


 ――朝から化けの皮被るの大変だね……


「ありがとうございます」
「いえいえ。さ、座って。何か食べる?」
「え! あの」

 メイドが主人と同じテーブルに座っても、良いのだろうか。
 そういう風に考えて、思わず足が止まってしまった。

 
「気にしないで。ヨナも同席しているんだから」
「は、はい」
「……」
「? ヨナさん?」
「ああいや、なんでもない。パンのミルク煮、うまそうだぞ」
「ほんとだ! 私、それがいいです!」
「食え食え。育たないぞ」
「あっ! さては子ども扱いしましたね!」
「ははは」

 ロランが微笑んでそのやり取りを見た後、
「キーラ。残念だけど、ヨナとはこの町でお別れなんだ」
 と言った。
 
「え」
「あー。すまんな。俺はしがない船乗りだからさ。また船に乗らなきゃならん」
「そ、ですか……」
「私と二人ではご不満かもしれないが」
「いえ! そんなことないです!」
「一応これでも副団長だからね。礼儀礼節はきちんと守って連れて行くよ。そういう面でも、すっごくうるさい団長だから。安心してね」
「ふふ。わかりました。……ヨナさん」
「ん?」
「一日だけでしたけれど、とってもお世話になりました。色々ありがとうございました」
「いやいや。きっとまた会えるさ」
「そうですね! 銀狐さんとお友達ですもんねー!」
「うわっ、もうそこまで打ち解けちゃう!?」
「「剝がれてる」」
「ううう」

 唇を真一文字にしてぷるぷる震えているロランを見て、ヨナと二人で思いっきり笑った。

 

 ◇ ◇ ◇
 
 
 
 そうして宿屋でヨナと別れ、馬車を停めてあるという場所に、ロランと二人で歩いて向かう。

「あの、聞いていいのか分からないのですが」
「なんだい?」
「たまたまと仰っていましたけど、その、リマニには、何をしに?」
「友達に会うためだよ」
「ヨナさんに?」
「そう」
「王都で会うのではなく?」
「私だって、たまには親に顔も見せないとだしね」
「なるほど……事務官を探しに来たわけでもなく?」
「いや、すごく探してたよ。でもどこにも、なかなか適した人材がいなくてね。キーラを見て、この子だ! って思ったんだ。読み書き計算はもちろんだけど、頭の回転は早いし、私にも物怖じせずに考えが言えるし、ワックスタブレットの使い方もね」

 朝のさわやかな海風を受けて、ロランの長い銀髪が揺れている。
 朝日をキラキラと反射して、とても綺麗。
 
「……褒めてくださって、嬉しいです。生きるのに必死で、身につけたり工夫したりしたから……」
「そっか……」

 しんみりしてしまった。――空気変えなくちゃ。
 
「あ! ここから王都って、どのくらいでしょう?」
「馬車だと、五日ぐらいかな」
「げ」
「長旅だけど、よろしくね」
「げげげ」
「ちょっと! 正直過ぎない!?」
「ふふふ」
「そやって笑うけどさ、、これでも王都じゃ結構さあ」

 あ、また少し剥がれてる。
 
「はいはい」
「わー。もうそんな感じになる? なんでかな!?」
「だって、全部剝がれてますもん」
「だよね。知ってた! ふふ」
「ふふふ」

 そうして向かった先で。
 髪を振り乱して、走ってきたのが――

「キーラアアアアアアアアアア!!」
「へ!?」
「うわーなんか来たね」

 ゆるふわ、ボンキュボンのグラマラス娼婦はどこへやら、のソフィだ。

「あそっか、ここ、屯所への道でもあったか」


 ――まさか、わざと?
 
 
 ロランがすぐに、背中へかばってくれる。
「……それ以上近寄るな。斬るぞ」
 帯剣の柄に手を添えて、凛々しく通る声を出す彼は、さっきまでとは別人だ。

 びくう! とソフィは止まった。
 
「な、んで。なんでよっ、なんであんたなんかが、王都にいくのよおおおおおお!!」
「はあ?」

 噂か何かで聞いたのか。
 ここは小さな町だ。そういう目新しいことは、あっという間に広まる。
 
「あたしが! ねえ、あたしが代わりに!! こんなお子様じゃなくって、あたしの方があ!」

 ぐしゃぐしゃの髪の毛と、涙と鼻水でどろどろの顔が――悪いけど、魔獣みたい。見たことないけど。
 
「汚い娼婦に、これっぽっちも興味はないんでね」
 冷たく言うロランの言葉にソフィはショックを受け、後ろからやってきた警備隊に、ずりずりと引きずられていった。

 ロランは剣から手を放し、
「可哀そうに。私に害をなそうとした罪が加わってしまった。極刑だな」
 冷えた声で言う。そこには、何の感情も乗っていない。
「ロラン……様」
 

 この人は、本当に副団長なんだ、と実感してしまった。
 


-----------------------------


お読み頂き、ありがとうございました。
ソフィはソフィなりにこの町から出たかったのかもしれません。
やり方を、間違えました。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

処理中です...