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最終章 薔薇魔女のキセキ
〈191〉奈落の真実
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※残酷な表現があります。
※ ※ ※
――終末の獣がやってくる。地上を喰らう。湖はその後だ。地に飢えた血しぶきを与うることなかれ。湖に膿んだ過去を与うることなかれ。――
「はあ。やるしかないか……アウの魔力で、たりるかなあ」
オスカーは、舌なめずりをした。
「おのれえ魔獣が! 邪魔をするなあ!」
ぶおん、と拳を振り回すゲルルフに
「まじゅうはしゃべれないよー」
ふわり、と避けるオスカー。
「団長、補助します」
セリノも剣を構え、
「……ブラインド」
ボニーがデバフを唱える。
「ひええ、ぶがわるいなあ」
オスカーは、上空に向けて、ガオオオオン! と咆哮した。
三人が、それだけでたじろぐ。
オスカーの、魔力の漲るしなやかな身体が動くたびに、キラキラと朝日をはじく。
「キレイ……」
ユリエは、呆然とそれを眺めた。
エメラルドグリーンの瞳が、それを聞いて瞬いて、笑ったように見える。
「オイラは守護獣だからね。だれかをまもるためなら……」
限界まで拳を振り上げ、ゲルルフが襲ってくる。
「フランソワーズうううううう!」
「つよく、なれるよ」
黒い獣が、躍動した。――
「は!」
その少し前。汗をぐっしょりとかいたジンライが、ベッドから飛び起きた。
学生寮のゼルの部屋。
卒業したので、退室期限までに荷造りをしているところだ。
背筋がぞくぞくする。悪寒と、嫌な予感が止まらない。
二段ベッドの上に寝ているはずのテオは、夜通しの任務で不在。
昨日のプロムの疲れで、ゼルとディートヘルムはまだ寝ているようだ。
「オスカー?」
いつもなら、枕元に潜り込んでいる、愛しい黒猫の姿がない。
「いやだ、だめだ、だめだ、いやな感じだ!」
ジンライは急いで着替える。
「ゼルさん! ディートさん!」
部屋を出て、ダイニングで叫んだ。
「オスカーが! オスカーが、あぶない!」
バン! とそれぞれの扉から同時に飛び出てきてくれた二人。
「どうした!」
とゼルはもう着替えに腕を通している。
「馬ならあるぞ! なにせ今日帰ろうと思ってたんだからな!」
とディートヘルムは言いながら、通信魔道具を起動して、マクシムを呼び始めた。
「ああ……ありがとうございま……」
ジンライは、涙を流した。一人だったなら、へこたれていただろう。だが、こんなにも心強い仲間がいる。
「泣くな!」
ゼルが、ジンライの背中をたたく。
「いくぞ!」
ディートヘルムが、ズボンに足を突っ込みながら、器用に鞄を背負う。
ジンライは、天井を見上げた。誰かと会話をしているようだ。
「わかりました。トール湖に……います!」
三人は、走り出した。
※ ※ ※
マクシムは、ディートヘルムから受け取った通信を、すぐさま王国騎士団本部へと伝えた。
そして決断する。
「急いで帰国します。これはきっと、次の予兆です。備えなければならない」
ジョエルは
「マクシム殿。ご尽力に感謝する」
と深く騎士礼をした。帯剣の鞘が床をこする。マーカム式最大限の謝辞だ。
「私たちとて、世界を終わらせたくはないですから。ディート様の『ご帰国支援』を頼みます」
それを最敬礼で受け止めるマクシムは、暗にディートヘルムの命を、マーカムに託した。
それが以前からの本人の要望であるし、また信頼の証でもある。
「承知つかまつった」
ジョエルはしっかりと受け取った。
そして、がっちりと握手を交わす。
「ご武運を」
「そちらこそ」
「オリヴェル、ヤン、休みなしで飛ばすぞ!」
「「はっ!!」」
通信だけでは、伝わらないものがある。
マクシムたちの速度が、世界の命運を分けるかもしれない。
三人は、強い使命感を胸に、馬を全速力で走らせた。
「ジンたちが!?」
一方、本部からの緊急通信を受け取った、ヒューゴーとテオ。
王都南郊外の、かつてのサーディスとサービアの隠れ家を捜索していた二人は、歯噛みする。
トール湖は、ここから馬を飛ばしても少し遠い。戦いには間に合わない可能性がある。
「ヒューさん、僕いきます」
「……わかった」
テオが全速力で走れば、間に合うかもしれない。
間に合っても、魔力や体力が残っているかどうかは賭けだ。が、それでも、走らずにはいられないだろう。
「預かってた。もってけ」
ヒューゴーが投げてよこしたのは、ナジャ愛用の闇の里の宝剣『黒蝶』だ。
なんでも切れるそれは、ブルードラゴン戦でも活躍した、ナジャのとっておきの短剣である。
「……!」
ば、とお辞儀をして走っていくテオの背を、
「はー、もうあれ、一人前でいいんじゃねーかなー」
ヒューゴーは見送り、馬首を公爵邸へと向ける。
「こっちはこっちで、備えねーとな!」
仮に、トール湖で儀式が成ってしまったなら。
公爵邸にいる最後の終末の獣を、なんとしてでも抑えなければならない。
「頼むぞ、テオ……死ぬなよ……」
焦る気持ちを言葉に変えて、ヒューゴーも馬を全速力で走らせた。
※ ※ ※
「へええ、雷神トールの守護獣かあ、すごいなー」
サービアは、その戦いを木の上からのんびりと眺めていた。
肉体を突き破ろうとする衝動と力に翻弄されて、黙って地面に座っていることができなくなり、木々の枝から枝へ飛び移ってはその退屈を消費している。
サービアが乗った枝は朽ちて腐りはて、雷神の森の悲鳴が大気を震わせるようだ。それがまた楽しくて、サービアはその遊びを繰り返す。
「宿主さん……ボニーっていうんだ。やるねえ。あの近衛騎士、もう自我手放してるじゃん。正気ならもっと強かっただろうに。同志を殺した絶望ってやつ、すごくおいしいからいいけどね」
んん! と伸びをするその両腕は、すでに黒い鱗に覆われていた。
「あともう一息だよ、ディス」
その、あともう一息の絶望をもたらすのは、はたして誰だろうか?
サービアは、にたぁと嗤いながら、戦いを見続ける。
と……
『やれやれ、懐かしいのぉ。また手の込んだことをしおってからに』
脳内に、突然野太い声が鳴り響く。
「? だれ?」
『忘れたんか。まあそうか。おぬしら、記憶は引き継がんもんなあ』
「だから、だれ?」
『我が名は、雷神トール』
「へえ! んー。あ、でもこの世界に干渉はできないみたいだね?」
『悔しいが、その通りだ』
「じゃ、口出しするだけ?」
『そうじゃなあ』
「なあんだ」
『前にも散々説教したんだがなあ』
「はあ?」
『滅ぼして、なんとする』
「べつに?」
『冥界の輪廻から逃れたいがために、全てを滅ぼすとする、か』
「そこまでお見通しとは、さすが神様だねー」
『またか。呆れるのお。とっくに外れておるのに。しがみついているのは、貴様らだ』
「あ?」
『冥界神バアルとは吾輩が話をしたんだぞ。やつめ、子のゼブブを奪われたと思い込んどったからなあ。元気にしておるって言ったらキョトンじゃぞい。まあそれもまたヒトの業よな。バアルとゼブブを巻き込んでまで滅ぼしたいと願ったのは、神ではない。ヒトの方よ』
サービアは、その動きを止めた。足元で、ぐずぐずと枝が腐っていく。
「は? どういう……」
結局ばきりと折れて、地面にすとんと落ちた。そのまま、空を睨んで佇む。
『おぬしらが、望んでおるのだ。また闇に産まれたいとな』
「うそ」
『神は、嘘つかんぞ』
「うそだ……」
『嘘ではないて。また三人で憎きヒトを葬らんと望んだ結果じゃ。奈落よ。だが次からは二人になるであろう。一人は、新たな愛する者を見つけたんじゃな。ほう、闘神か。なるほどのお。……ほんで、おぬしはいつまで縛られるんじゃ?』
ヒルバーアは、ゼルを弟として愛することができた。そのことにサービアは気づいて、動揺する。
「うそだー!」
『前にも話たろうて。忘れたのはそちらのほうじゃ。忘れたかったのかもしれんがな。結局おぬしらは、闇の力に魅入られておる、ただの小童にすぎないのじゃよ。ヒトが死ぬのを見て、世界が滅ぶのを見て、愉しみたいだけじゃ。下衆よのお』
「この! 苦しみは!」
『なーにが苦しみじゃ。ヒトを苦しめて楽しんどったのはおぬしらぞ。抜け出ようとあがいたか? 違うじゃろ。滅ぼす、それはただの闇じゃ。今までと変わらん。気づかんかったんか?』
ぶんぶん、とサービアが頭を振ると、黒いねっとりとした粘液がそこらじゅうに飛び散って、草花を枯らした。
「うそだ、しんじない。じゃあサーディスは!」
『あやつは知っとった。じゃから、嬉々として焼かれた』
「!」
『ベヒモスが、ヴリトラを破れんわけがないじゃろ』
「そ、んな……」
『今ならまだギリギリ引き返せるぞ』
「!」
『吾輩の加護を持つ者がおる。ミョルニルを託す。儀式が成る前に、神の雷を受けよ。さすれば』
頷きかけたサービアはだが、突如頭を抱えて苦しみだした。
「ぐ、あ……あ……」
『!?』
やがて、顔を上げるとその表情がまるで違っていた。
「はあ~。神のくせに、誘惑するなよなア」
『……なんと』
「ビアは、心が弱いんだよ。やめてくれよな」
『残心とはのお。手が込んでおる』
「念のため、残っといてよかったよ。ほーんと油断も隙もない。焼かれるの、痛かったんだからあ。報われないと。ね? クケケケ」
『せめてそこの者だけは、解放してやれ』
「いーやーだーよー! 一緒に楽しもうよ。すごいよー、逃げまどって、血まみれで倒れる時の顔とか! ヒトの絶望最高! クケケケ」
『……』
「何度でも見たいの。何度でも。楽しい! 終末!」
『生があるからこその死ぞ。慈しむべきその命を、むやみに娯楽とするか』
「説教飽きた。そろそろ消えなよ」
その時、血まみれのオスカーが、地面にどさりと横倒れになった。
「いやああああ!!」
ユリエの叫びが、上空に轟く。
サービアがほくそ笑むと、
『はあ。肝が冷える。なんとか時間稼ぎはできたかのお。間一髪じゃなあ』
トールが溜息をついた。
「は?」
という、まぬけなサービアの声を打ち消すのは。
「オスカーーーーー!」
馬上から泣き叫ぶ、ジンライの声だった。
『おぬしは説教など聞くタマではなかろうて』
顔は見えずとも、そのしたり顔はなんとなく想像できた。
『吾輩など、単なる足止めよ』
「くっそおおおおおお!!」
※ ※ ※
「うおらあ!」
ゲルルフの拳は素手でも十分恐ろしい武器だが、いつの間にかナックルを着けている。――かつて、ハゲ筋肉ことイーヴォが復興祭交流試合で装備していた『オーパーツ』と呼ばれる、失われた神器のうちの一つ、ドレインナックルだ。
腐っても騎士団長。英雄こと辺境伯ヴァジームの右腕として副団長に就いていた経験がある上に、神器までとなると、その戦闘力は他に類を見ないだろう。
それでもオスカーは、最初の内はひらり、ひらりと躱すことができていた。セリノの鋭い剣戟を避けつつ、ボニーのデバフを食らいつつ、とかなり不利な戦いであったとしても。
魔力消費を最小限に抑え、その体躯だけで逃げ切るのがオスカーの考えたことである。
隙を見てユリエの襟首を咥えて全速力で離脱する――
だが、そう簡単にはいかなかった。
近衛騎士のセリノは、近衛筆頭ジャンルーカが、平民であるにも関わらず近衛に抜擢したほどの腕前だ。
さらに、ボニーの闇魔法は強力ではないが、いやらしい。目くらましや、混乱、速さを奪うものなど、オスカーの機動力を奪うような、賢い選択ばかりしてくる。
「まじゅつしだんに、はいればよかったのに」
オスカーが思わず言うと、ボニーが激高した。
「うるさい! 入れない!」
「なんで?」
「入れないって言われた!」
「だれに?」
「学院長よ!」
「それ、しんじたの?」
「……うるさい!」
なるほど、とオスカーは思う。
悪意でもって、摘み取られてしまったのか、と。
どんなにもがいたところで、そこから逃れられなくて。そのうちに、あきらめてしまったのか。
ジンライも、もしも親方の誘いを断って、鍛治ギルドへ入らなかったら。または途中で諦めたなら。雷神の加護を得ることも、ブルザーク帝国に留学することも、ましてや最愛の婚約者と出会うことも、なかっただろう。
「ざんこく、だね」
「るっさいのよ!」
「シッ」
セリノの鋭い剣が、ついにオスカーの頬を切った。舞った血しぶきが、オスカーの視界を塞ぐ。
「ぅらあっ!」
ゲルルフの拳が、その隙を逃すはずもない。
切られたのと反対の頬を、横殴りにされた。
さらにセリノの返す剣が、オスカーの胴体に切り傷を作る。残念ながら、深い。
――いたいなあ。
これを食らうのが、泣き虫な雷神の愛し子でなくてよかった、とオスカーは思う。
あの心地よい、土と草の匂いをもう一度、胸いっぱい吸い込んでから眠りたい。
ユリエを背に庇いながら戦うのにも、限界がある。
やっぱり魔法を使わないとダメかな、と対峙する三人を観察するオスカーは、ユリエを覆う魔法に気づいた。
「おやあ? きみは、きみじゃないんだねえ?」
「そうよ! フランソワーズじゃない! ユリエよ!」
「はあん、なるほど」
しゅたん、と両足を広げて地面にしっかりと四本足で立つと、オスカーは風を呼んだ。
「かみかぜよ、やみのちからをふきとばせ!」
しゅるるるる、と音がして、そこかしこに小さな竜巻ができる。
ゲルルフもセリノも、警戒して足を止めた。
「ひ!」
背後で怖がるユリエに、前を向いたまま
「うごかないでね」
とその尻尾をゆらゆらとさせて諭すオスカーはまた、逃げる隙をも狙っている。
いくつかの竜巻が、ユリエの周囲を囲い、ぐるぐると回ってから去っていくと――もとの姿に戻った。
「な!」
驚いたのはゲルルフだ。
「化け物め! くだらん魔法をかけよって!」
「ちがうよー、といたんだよー」
「だまされるかあああ! フランソワーズ! 今助けるぞおおおおおらあああああ」
爆発するゲルルフの魔力と、硬い拳が無数に降ってきた。
さすがにすべては避けきれず、避けたらユリエが巻き込まれる。
風の盾で耐えようとするが、だんだん魔力が切れてきた。
「あー、やっぱ、足りないかあ」
もっと、撫でられておけばよかった……
ちりり、と胸を焦がす後悔とともにオスカーは
「ごめんね。にげて」
と告げると、どたん、と横倒しになったのだった。
「いやああああ!!」
ユリエの叫びが、上空に轟く。
「今、助けるぞ、フランソワーズ!」
「ちがう! あたし、ちがう!」
「何を言うか!」
せまるゲルルフに泣き叫ぶユリエ。
それらを打ち消すのは、
「オスカーーーーー!」
馬上から泣き叫ぶ、ジンライの声だった。
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お読み頂き、ありがとうございました。
辛い展開が続きます。
すみません……でも絶望の向こうにある光を、書きたいのです。
※ ※ ※
――終末の獣がやってくる。地上を喰らう。湖はその後だ。地に飢えた血しぶきを与うることなかれ。湖に膿んだ過去を与うることなかれ。――
「はあ。やるしかないか……アウの魔力で、たりるかなあ」
オスカーは、舌なめずりをした。
「おのれえ魔獣が! 邪魔をするなあ!」
ぶおん、と拳を振り回すゲルルフに
「まじゅうはしゃべれないよー」
ふわり、と避けるオスカー。
「団長、補助します」
セリノも剣を構え、
「……ブラインド」
ボニーがデバフを唱える。
「ひええ、ぶがわるいなあ」
オスカーは、上空に向けて、ガオオオオン! と咆哮した。
三人が、それだけでたじろぐ。
オスカーの、魔力の漲るしなやかな身体が動くたびに、キラキラと朝日をはじく。
「キレイ……」
ユリエは、呆然とそれを眺めた。
エメラルドグリーンの瞳が、それを聞いて瞬いて、笑ったように見える。
「オイラは守護獣だからね。だれかをまもるためなら……」
限界まで拳を振り上げ、ゲルルフが襲ってくる。
「フランソワーズうううううう!」
「つよく、なれるよ」
黒い獣が、躍動した。――
「は!」
その少し前。汗をぐっしょりとかいたジンライが、ベッドから飛び起きた。
学生寮のゼルの部屋。
卒業したので、退室期限までに荷造りをしているところだ。
背筋がぞくぞくする。悪寒と、嫌な予感が止まらない。
二段ベッドの上に寝ているはずのテオは、夜通しの任務で不在。
昨日のプロムの疲れで、ゼルとディートヘルムはまだ寝ているようだ。
「オスカー?」
いつもなら、枕元に潜り込んでいる、愛しい黒猫の姿がない。
「いやだ、だめだ、だめだ、いやな感じだ!」
ジンライは急いで着替える。
「ゼルさん! ディートさん!」
部屋を出て、ダイニングで叫んだ。
「オスカーが! オスカーが、あぶない!」
バン! とそれぞれの扉から同時に飛び出てきてくれた二人。
「どうした!」
とゼルはもう着替えに腕を通している。
「馬ならあるぞ! なにせ今日帰ろうと思ってたんだからな!」
とディートヘルムは言いながら、通信魔道具を起動して、マクシムを呼び始めた。
「ああ……ありがとうございま……」
ジンライは、涙を流した。一人だったなら、へこたれていただろう。だが、こんなにも心強い仲間がいる。
「泣くな!」
ゼルが、ジンライの背中をたたく。
「いくぞ!」
ディートヘルムが、ズボンに足を突っ込みながら、器用に鞄を背負う。
ジンライは、天井を見上げた。誰かと会話をしているようだ。
「わかりました。トール湖に……います!」
三人は、走り出した。
※ ※ ※
マクシムは、ディートヘルムから受け取った通信を、すぐさま王国騎士団本部へと伝えた。
そして決断する。
「急いで帰国します。これはきっと、次の予兆です。備えなければならない」
ジョエルは
「マクシム殿。ご尽力に感謝する」
と深く騎士礼をした。帯剣の鞘が床をこする。マーカム式最大限の謝辞だ。
「私たちとて、世界を終わらせたくはないですから。ディート様の『ご帰国支援』を頼みます」
それを最敬礼で受け止めるマクシムは、暗にディートヘルムの命を、マーカムに託した。
それが以前からの本人の要望であるし、また信頼の証でもある。
「承知つかまつった」
ジョエルはしっかりと受け取った。
そして、がっちりと握手を交わす。
「ご武運を」
「そちらこそ」
「オリヴェル、ヤン、休みなしで飛ばすぞ!」
「「はっ!!」」
通信だけでは、伝わらないものがある。
マクシムたちの速度が、世界の命運を分けるかもしれない。
三人は、強い使命感を胸に、馬を全速力で走らせた。
「ジンたちが!?」
一方、本部からの緊急通信を受け取った、ヒューゴーとテオ。
王都南郊外の、かつてのサーディスとサービアの隠れ家を捜索していた二人は、歯噛みする。
トール湖は、ここから馬を飛ばしても少し遠い。戦いには間に合わない可能性がある。
「ヒューさん、僕いきます」
「……わかった」
テオが全速力で走れば、間に合うかもしれない。
間に合っても、魔力や体力が残っているかどうかは賭けだ。が、それでも、走らずにはいられないだろう。
「預かってた。もってけ」
ヒューゴーが投げてよこしたのは、ナジャ愛用の闇の里の宝剣『黒蝶』だ。
なんでも切れるそれは、ブルードラゴン戦でも活躍した、ナジャのとっておきの短剣である。
「……!」
ば、とお辞儀をして走っていくテオの背を、
「はー、もうあれ、一人前でいいんじゃねーかなー」
ヒューゴーは見送り、馬首を公爵邸へと向ける。
「こっちはこっちで、備えねーとな!」
仮に、トール湖で儀式が成ってしまったなら。
公爵邸にいる最後の終末の獣を、なんとしてでも抑えなければならない。
「頼むぞ、テオ……死ぬなよ……」
焦る気持ちを言葉に変えて、ヒューゴーも馬を全速力で走らせた。
※ ※ ※
「へええ、雷神トールの守護獣かあ、すごいなー」
サービアは、その戦いを木の上からのんびりと眺めていた。
肉体を突き破ろうとする衝動と力に翻弄されて、黙って地面に座っていることができなくなり、木々の枝から枝へ飛び移ってはその退屈を消費している。
サービアが乗った枝は朽ちて腐りはて、雷神の森の悲鳴が大気を震わせるようだ。それがまた楽しくて、サービアはその遊びを繰り返す。
「宿主さん……ボニーっていうんだ。やるねえ。あの近衛騎士、もう自我手放してるじゃん。正気ならもっと強かっただろうに。同志を殺した絶望ってやつ、すごくおいしいからいいけどね」
んん! と伸びをするその両腕は、すでに黒い鱗に覆われていた。
「あともう一息だよ、ディス」
その、あともう一息の絶望をもたらすのは、はたして誰だろうか?
サービアは、にたぁと嗤いながら、戦いを見続ける。
と……
『やれやれ、懐かしいのぉ。また手の込んだことをしおってからに』
脳内に、突然野太い声が鳴り響く。
「? だれ?」
『忘れたんか。まあそうか。おぬしら、記憶は引き継がんもんなあ』
「だから、だれ?」
『我が名は、雷神トール』
「へえ! んー。あ、でもこの世界に干渉はできないみたいだね?」
『悔しいが、その通りだ』
「じゃ、口出しするだけ?」
『そうじゃなあ』
「なあんだ」
『前にも散々説教したんだがなあ』
「はあ?」
『滅ぼして、なんとする』
「べつに?」
『冥界の輪廻から逃れたいがために、全てを滅ぼすとする、か』
「そこまでお見通しとは、さすが神様だねー」
『またか。呆れるのお。とっくに外れておるのに。しがみついているのは、貴様らだ』
「あ?」
『冥界神バアルとは吾輩が話をしたんだぞ。やつめ、子のゼブブを奪われたと思い込んどったからなあ。元気にしておるって言ったらキョトンじゃぞい。まあそれもまたヒトの業よな。バアルとゼブブを巻き込んでまで滅ぼしたいと願ったのは、神ではない。ヒトの方よ』
サービアは、その動きを止めた。足元で、ぐずぐずと枝が腐っていく。
「は? どういう……」
結局ばきりと折れて、地面にすとんと落ちた。そのまま、空を睨んで佇む。
『おぬしらが、望んでおるのだ。また闇に産まれたいとな』
「うそ」
『神は、嘘つかんぞ』
「うそだ……」
『嘘ではないて。また三人で憎きヒトを葬らんと望んだ結果じゃ。奈落よ。だが次からは二人になるであろう。一人は、新たな愛する者を見つけたんじゃな。ほう、闘神か。なるほどのお。……ほんで、おぬしはいつまで縛られるんじゃ?』
ヒルバーアは、ゼルを弟として愛することができた。そのことにサービアは気づいて、動揺する。
「うそだー!」
『前にも話たろうて。忘れたのはそちらのほうじゃ。忘れたかったのかもしれんがな。結局おぬしらは、闇の力に魅入られておる、ただの小童にすぎないのじゃよ。ヒトが死ぬのを見て、世界が滅ぶのを見て、愉しみたいだけじゃ。下衆よのお』
「この! 苦しみは!」
『なーにが苦しみじゃ。ヒトを苦しめて楽しんどったのはおぬしらぞ。抜け出ようとあがいたか? 違うじゃろ。滅ぼす、それはただの闇じゃ。今までと変わらん。気づかんかったんか?』
ぶんぶん、とサービアが頭を振ると、黒いねっとりとした粘液がそこらじゅうに飛び散って、草花を枯らした。
「うそだ、しんじない。じゃあサーディスは!」
『あやつは知っとった。じゃから、嬉々として焼かれた』
「!」
『ベヒモスが、ヴリトラを破れんわけがないじゃろ』
「そ、んな……」
『今ならまだギリギリ引き返せるぞ』
「!」
『吾輩の加護を持つ者がおる。ミョルニルを託す。儀式が成る前に、神の雷を受けよ。さすれば』
頷きかけたサービアはだが、突如頭を抱えて苦しみだした。
「ぐ、あ……あ……」
『!?』
やがて、顔を上げるとその表情がまるで違っていた。
「はあ~。神のくせに、誘惑するなよなア」
『……なんと』
「ビアは、心が弱いんだよ。やめてくれよな」
『残心とはのお。手が込んでおる』
「念のため、残っといてよかったよ。ほーんと油断も隙もない。焼かれるの、痛かったんだからあ。報われないと。ね? クケケケ」
『せめてそこの者だけは、解放してやれ』
「いーやーだーよー! 一緒に楽しもうよ。すごいよー、逃げまどって、血まみれで倒れる時の顔とか! ヒトの絶望最高! クケケケ」
『……』
「何度でも見たいの。何度でも。楽しい! 終末!」
『生があるからこその死ぞ。慈しむべきその命を、むやみに娯楽とするか』
「説教飽きた。そろそろ消えなよ」
その時、血まみれのオスカーが、地面にどさりと横倒れになった。
「いやああああ!!」
ユリエの叫びが、上空に轟く。
サービアがほくそ笑むと、
『はあ。肝が冷える。なんとか時間稼ぎはできたかのお。間一髪じゃなあ』
トールが溜息をついた。
「は?」
という、まぬけなサービアの声を打ち消すのは。
「オスカーーーーー!」
馬上から泣き叫ぶ、ジンライの声だった。
『おぬしは説教など聞くタマではなかろうて』
顔は見えずとも、そのしたり顔はなんとなく想像できた。
『吾輩など、単なる足止めよ』
「くっそおおおおおお!!」
※ ※ ※
「うおらあ!」
ゲルルフの拳は素手でも十分恐ろしい武器だが、いつの間にかナックルを着けている。――かつて、ハゲ筋肉ことイーヴォが復興祭交流試合で装備していた『オーパーツ』と呼ばれる、失われた神器のうちの一つ、ドレインナックルだ。
腐っても騎士団長。英雄こと辺境伯ヴァジームの右腕として副団長に就いていた経験がある上に、神器までとなると、その戦闘力は他に類を見ないだろう。
それでもオスカーは、最初の内はひらり、ひらりと躱すことができていた。セリノの鋭い剣戟を避けつつ、ボニーのデバフを食らいつつ、とかなり不利な戦いであったとしても。
魔力消費を最小限に抑え、その体躯だけで逃げ切るのがオスカーの考えたことである。
隙を見てユリエの襟首を咥えて全速力で離脱する――
だが、そう簡単にはいかなかった。
近衛騎士のセリノは、近衛筆頭ジャンルーカが、平民であるにも関わらず近衛に抜擢したほどの腕前だ。
さらに、ボニーの闇魔法は強力ではないが、いやらしい。目くらましや、混乱、速さを奪うものなど、オスカーの機動力を奪うような、賢い選択ばかりしてくる。
「まじゅつしだんに、はいればよかったのに」
オスカーが思わず言うと、ボニーが激高した。
「うるさい! 入れない!」
「なんで?」
「入れないって言われた!」
「だれに?」
「学院長よ!」
「それ、しんじたの?」
「……うるさい!」
なるほど、とオスカーは思う。
悪意でもって、摘み取られてしまったのか、と。
どんなにもがいたところで、そこから逃れられなくて。そのうちに、あきらめてしまったのか。
ジンライも、もしも親方の誘いを断って、鍛治ギルドへ入らなかったら。または途中で諦めたなら。雷神の加護を得ることも、ブルザーク帝国に留学することも、ましてや最愛の婚約者と出会うことも、なかっただろう。
「ざんこく、だね」
「るっさいのよ!」
「シッ」
セリノの鋭い剣が、ついにオスカーの頬を切った。舞った血しぶきが、オスカーの視界を塞ぐ。
「ぅらあっ!」
ゲルルフの拳が、その隙を逃すはずもない。
切られたのと反対の頬を、横殴りにされた。
さらにセリノの返す剣が、オスカーの胴体に切り傷を作る。残念ながら、深い。
――いたいなあ。
これを食らうのが、泣き虫な雷神の愛し子でなくてよかった、とオスカーは思う。
あの心地よい、土と草の匂いをもう一度、胸いっぱい吸い込んでから眠りたい。
ユリエを背に庇いながら戦うのにも、限界がある。
やっぱり魔法を使わないとダメかな、と対峙する三人を観察するオスカーは、ユリエを覆う魔法に気づいた。
「おやあ? きみは、きみじゃないんだねえ?」
「そうよ! フランソワーズじゃない! ユリエよ!」
「はあん、なるほど」
しゅたん、と両足を広げて地面にしっかりと四本足で立つと、オスカーは風を呼んだ。
「かみかぜよ、やみのちからをふきとばせ!」
しゅるるるる、と音がして、そこかしこに小さな竜巻ができる。
ゲルルフもセリノも、警戒して足を止めた。
「ひ!」
背後で怖がるユリエに、前を向いたまま
「うごかないでね」
とその尻尾をゆらゆらとさせて諭すオスカーはまた、逃げる隙をも狙っている。
いくつかの竜巻が、ユリエの周囲を囲い、ぐるぐると回ってから去っていくと――もとの姿に戻った。
「な!」
驚いたのはゲルルフだ。
「化け物め! くだらん魔法をかけよって!」
「ちがうよー、といたんだよー」
「だまされるかあああ! フランソワーズ! 今助けるぞおおおおおらあああああ」
爆発するゲルルフの魔力と、硬い拳が無数に降ってきた。
さすがにすべては避けきれず、避けたらユリエが巻き込まれる。
風の盾で耐えようとするが、だんだん魔力が切れてきた。
「あー、やっぱ、足りないかあ」
もっと、撫でられておけばよかった……
ちりり、と胸を焦がす後悔とともにオスカーは
「ごめんね。にげて」
と告げると、どたん、と横倒しになったのだった。
「いやああああ!!」
ユリエの叫びが、上空に轟く。
「今、助けるぞ、フランソワーズ!」
「ちがう! あたし、ちがう!」
「何を言うか!」
せまるゲルルフに泣き叫ぶユリエ。
それらを打ち消すのは、
「オスカーーーーー!」
馬上から泣き叫ぶ、ジンライの声だった。
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お読み頂き、ありがとうございました。
辛い展開が続きます。
すみません……でも絶望の向こうにある光を、書きたいのです。
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