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第三章 帝国留学と闇の里

【なろう累計20万pv達成記念話】一日メイド体験

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 薔薇魔女に目を止めて頂き、ありがとうございますm(_ _)m
 なんと、累計20万pv達成です!
 お読みくださって、本当にありがとうございます!
 書き進められるのは、応援してくださっている皆様のお陰です。異世界恋愛カテゴリなのに全然恋愛しないじゃん、というお叱りを我慢していただき、感謝しております。涙

 こちらのエピソードは、完全に本編とは関係のないお話です。楽しんで頂ければ幸いです。(ゆるーくキュンキュンするお話となっております)

 引き続き『薔薇魔女』を宜しくお願い致しますm(_ _)m



 ※ ※ ※



 ローゼン公爵邸、レオナの私室にて。
 
「ねえマリー」
「はい」
「メイドって、大変?」
「どうでしょう。私はレオナ様にしかついたことがありませんので、大変だと思ったことはありませんね」
「むー」
「どうしたのです?」
「やってみたいなって」
「……は?」
「いやほら、体験してみないと分からないことって、あるじゃない?」
「メイドのことをお知りになる必要は、ないと思いますが」
「……将来、その、結婚する時とかにね、旦那様のお世話をしたりはするわけだし……」
「なるほど。ヒュー」
「おう。って、まさか?」
「ええ。そのまさか」
「分かった。任せろ。着替えよろしく」
「というわけで、早速お着替え致しましょう、レオナ様」
「へ?」
「お仕着せを着るところから、メイド業は始まりますよ」
「あ、じゃあ体験させてもらえるのね!」

 キラキラと目を輝かせるレオナに、期待以上のことをさせてあげましょう、とマリーは気合いを入れた。



 ※ ※ ※



「ヒュー、何急いでんのー?」
「げ」
「げって、失礼だなー!」

 一番会ってはならない人物に、会ってしまったヒューゴーである。
 とはいえ、仕方がないとも言える。ここはマーカム王国騎士団本部なのだ。

「なんでもありません、ジョエル様」
 ち、こんな時に限って居やがる、というヒューゴーの空気がだだ漏れすぎて、イラッとしたジョエルは大人げなく
「何しようとしてるのか知らないけど、僕の権限で却下してやろっかー?」
 と凄んだ。
「くそ」
「んー? それ近衛の当番表ー? そんなの見てどうすんのー?」
 ヒューゴーが答えあぐねていると
「おや、どうしました」
 近衛筆頭ジャンルーカが通りがかった。
「良かった、ちょうど良いところに。あのですね、実は……」

 かくかく、しかじか。

「……面白い。許可しましょう」
 ジャンルーカが微笑み、
「ずるすぎる……いーなーいーなーいーなー!」
 ジョエルが駄々をこねた。
 
「俺に言われても」
「ふむ……」
 ジャンルーカが何かを思いついた顔をし、ヒューゴーに何やら耳打ちした。
「! 結構悪い大人ですね!」
「それほどでも」
「えっ、なーにー! ジャン、僕に内緒なのー!?」
「副団長は、これから会議でしょう?」
「ちぇー!」
「終わるのは……夕刻でしたか?」
「そーだよもー、長いってーのー!」
「予算審議ですからねえ。もぎ取って来てくださいね?」
「もー、分かったよー!」

 ぷりぷりしながら、去っていく副団長。

「あれで、本当に大変なんですよ。ですから……ね?」
「そっすね、ご褒美に……なりますかねぇ」
「はてさて。では」

 悪い顔をした近衛筆頭も、書類を提出して、どこかへ去っていった。

「やれやれ。急ぐとするか」
 ヒューゴーは再び、公爵邸へと戻った。



 ※ ※ ※



「どう、かしら?」
「お似合いです」
 メイド服に身を包み、瞳の色を隠す街歩き用眼鏡をかけたレオナは、メイド服でなぜか馬車に乗っていた。
「もー。レオナってば、ほんと急に変なこと言うんだから!」
 隣には、同じくメイド姿のシャルリーヌ。
 
 ヒューゴーが突然バルテ家を訪れて「レオナがメイドになりたいと言い出した。不安だから付き添って欲しい」と言い、ローゼン公爵邸に着いてすぐ「一緒に着てみない!?」と誘われ、マリーが「せっかくですから、実践に行きましょう」と割と強引に馬車に乗せられた。まさしくあれよあれよ、である。

「どこに行くの?」
 とレオナが聞くと
「メイドを研修する場所が、騎士団本部にございます」
 マリーが答え、
「へー、知らなかったわ」
 シャルリーヌも、いつの間にかやる気になっている。


 (しれっとよく言うよ……)
 ヒューゴーの溜息を、マリーは視線で殺す。
 

 騎士団本部は、レオナはハゲ筋肉にセクハラされて以来、シャルリーヌは初めて訪れる。
 ここがお義兄様の職場かあ、とメイド姿でキョロキョロするシャルリーヌを、騎士達がすれ違いざま「可愛いメイドさんがいる」「誰つきなのかな」と噂していく。

 それを見たマリーとヒューゴーは、事態が大きくならないうちに素早く移動を、とお互い無言で頷き合い――

「では、レオナ様はこちらへ」
「じゃー、シャル様はこっち」
「「へ?」」

 別々!? と面食らった二人を、マリーとヒューゴーは笑顔でそれぞれ、強引に引っ張っていく。

「さあレオナ様。メイドは、忙しいんですよ?」
「あ、うん?」
 
「シャル様。仕事めちゃくちゃあるんで、気合い入れてください」
「えっ、そ、そう……」


 ドタバタメイド体験の一日は、こうして始まった。



 ※ ※ ※



「本日、レオナ様にはある団員について頂きますね」
「えっ! いきなり本番なの!?」
「大丈夫です、私がついておりますから」
「き、緊張する!」
「伯爵家の方ですが、気さくな方ですから。ご心配無用です」
「伯爵家……」

 身分のある騎士団員。
 思わず身構えてしまうレオナに考える間を与えず、マリーが
「こちらが、その方のお部屋です」
 さくっと扉前で言う。
「多忙な方ですから、まずは簡単にお部屋の片付けとお洗濯を致します」
「はい!」

 コンコン、と念のためノックをするが、任務中でもちろん不在。
 マリーが合鍵で扉を開けると、そこには入って左手にシャワーブースとトイレ、右手にミニキッチン。正面にテーブルとソファ、その奥の扉は寝室だろう、開けっ放しの扉の向こうに、ぐしゃぐしゃのシーツが乗ったベッドが見えた。

 部屋自体はそれほど汚れていないように見えるが、キッチンにはコップや皿、ソファの上には雑に置かれたシャツや部屋着、奥のベッドは乱れたシーツ、とやることは盛りだくさんのようだ。

「さ、主人が戻るまでに、テキパキとやっていきましょう」
「主人って……もしかして……よし、分かったわ!」
 レオナは素直に、気合いを入れた。


 ――一方。

「な、な、なにこれー!」
 シャルリーヌは、開口一番叫んだ。
「ね。仕事いっぱいでしょ」

 書類の山が軽く三つはできている執務机。
 応接テーブルの上にまで書類は侵食し、お茶を淹れられるはずのミニキッチンは、うずたかく積まれたカップと皿とゴミで見えなくなっている。

「はあー、仕方ない。ここまで来たら、やるわよ!」
「うっす」
「まず掃除ね!」
「きったねーすねー」
「道具はどこ!?」
「……はは、意外っすね。もっと怒るのかと」
「ふん。私だって、役に立てるなら、やるだけよ」
「さすが」
「バカにしないで!」
「いや、尊敬してるんす。……絶対、めちゃくちゃ喜びますよ」
「そう?」
「うん」
「ふんっ、やるわよ!」



 ※ ※ ※



「ああ疲れた……」
 学院で残念王子の護衛任務が終わったと思ったら、急きょ人手不足で王都巡回の夜勤に駆り出され、不眠不休で一日を終えたルスラーン。

 制服は幸い近衛から第一へと着替えられたが、酔っ払いの喧嘩を止めたり、スリを捕まえに走ったりして、汗と土埃でドロドロだ。近衛宿舎に帰って、シャワーを浴びて着替えて、ご飯と洗濯を……と考えるだけでまた疲れた。

「独り身は辛い……」

 王国民を護る毎日は充実しているが、自分のこととなると……である。

「メイド欲しい……いや、レオナが……なんてな……」

 疲れた頭で妄想しつつ、自室の扉をガチャリと開けると――そこにはメイドが立っていた。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 眼鏡を掛けているが、どう見てもレオナにしか見えない。
 が、メイド姿だ。

「んっ!?」

 やべぇ、妄想と現実がやべぇことになった! と内心パニックになるルスラーンに、ニコニコとメイドのレオナが近寄ってきて、
「お疲れ様でございます。先にシャワーを浴びられますか? お食事のご用意が……」
 とまくし立てる。
 
「まてまてまてまて!」
「はい」
「レオナ?」
「はい、ご主人様」
「ごっ、っっっ!」
「大丈夫ですか!? どこか体調でも……」
「だっいじょう」


 ――ぶ、なわけ、ねええええええ!


 ふと、レオナの背後で、懸命に笑いをこらえているマリーにようやく気づいたルスラーンは、これが現実だと思い知った。

「な、な、なんだこれ? どうした?」
「レオナ様が、メイド体験してみたい、と」
「は? なんで?」
「やってみたくて!」
「花嫁修業だそうです」
「んもう、マリー!」
「はなよめ!?」
「あ、予定はまだございませんよ」
 ニコニコマリーは、そして無慈悲にも
「では、私はこれで」
「「えっ!?」」
「……私も忙しいのですよ? お迎えの馬車がご入用でしたら、本部からお呼びくださいませ。まあ、ルスラーン様が送ってくだされば、それでよろしいかと。では」

 スタスタ、バタン、と去って行ってしまった。
 部屋に残された、二人。

 ポカーンである。

「あーえっととりあえず、シャワーしてくる……その、汚れてるから」
 まずは冷静になろう、と先に動くのはルスラーン。
「はい、あの、お着替えをお持ちしますわ」
「ぶっ! いやいやいやいや!」
「メイドですから!」
「ちがっ、ここ狭いんだよ! 脱衣所とかねえの!」
「はうっ」
 ぼわ! と途端に真っ赤になるレオナ。

「あーだから、まあ、ベッドんとこで待って……て、変な意味じゃない!」
「わ、わ、わかり、じゃない、かしこまりまし……」
「すぐ出てくっから、待ってろ、いいな!」
「はい!」

 ルスラーンはバタバタとタオルと着替えを掴み、シャワーブースに入った。
 レオナは、心臓がバクバク波打つままに、ベッドルームに入って扉を閉めたものの――


 はう! 意識してなかったけど、この部屋、ルスの匂いがする!
 どどどどうしよう!
 ていうか、任務後の疲れた顔もかっこよ……いやいや、私はメイド、メイド!


 ぐるぐる、ぐるぐる、ベッドルームの中を歩いて、悶えて、歩いて、悶えて、汗をかいてしまった。――変態か! と自分で自分を罵る。

 すると、コンコン、と遠慮がちなノック音。

「レオナ?」
「はい!」
「終わった」
 

 はや!


「はい!」
 扉を開けるとそこには、頭をがしがし拭きながら、上半身裸で髪の毛をふくルスラーン。
「わりぃ、シャツ忘れて……」
 と照れたように笑う。


 ――シックスどころじゃなかった! エイト? テン? パックがああああ……しゅごい……!


「で、なんで急にメイド? つか、部屋綺麗になってる……掃除してくれたのか?」
 シャツを着ながら言うルスラーンがかっこよすぎて、言葉を失うレオナ。
「どした? レオナ?」
 ソファに座るよう促されて、ようやく正気になる。
 
「はー、あの、ですね」
「うん?」
「感謝、したくて!」
「へ?」
「日頃からみんな、当たり前のようにお世話してくれて、大変なんだろうなって。だから、体験してみたいってマリーに言ったら、その、連れて来られて。あの! ルスの部屋って知らなかったの! ただ、実際にやってみましょうって、その」
「なるほど」

 まくし立てたレオナの発言を、しばらく反芻したルスラーンは
「次からも、俺についてくれるか?」
 と言った。
「へ?」
「メイドがやりたくなったら。他の奴はダメだ。俺だけ。いいか?」
「はい」
「約束だぞ」
「約束します」
「ふー、良かった」
 
 髪が濡れたまま微笑むルスラーンがいつもと違う色気を発していて、レオナは直視できない。

「ありがとな。忙しくて部屋、手付かずで……恥ずかしいが、すげえ助かった」
「ほんと?」
「うん。嬉しかった」
「良かった……」
「また、来てくれるか?」
「はい!」
「メイドじゃなくて、レオナのままで」
 
 ぎゅん! とレオナの心臓が跳ねる。

「私のまま?」
「……あーそのなんだ、ここは騎士団だからな。メイドにちょっかいかける奴も多い。危ないからさ」
「そ、うですわね」
「……」
「あ、何か食べますか?」
「うん。腹ぺこ」
「ふふ、お待ちくださいね!」
「ああ」

 ギクシャクと立ち上がるレオナは、ミニキッチンへと向かう。
 仕込みは終わっていたので、焼いて、温めて、としているうちに――気づくとルスラーンは、ソファで寝転がって、寝ていた。

「お疲れ様、ですわね……」
 レオナはそっと彼の髪の毛を、魔法で乾かす。
 間近で見る寝顔は、いつもの凛々しい眉が下がっていて、どこかあどけない。身長の高いルスラーンを見下ろすのは初めてで、思わず見入ってしまった。
 あ、いけない、風邪を引くわ、と気づいてブランケットを掛けながら、すー、すー、という静かな彼の寝息に吸い寄せられて……おでこにキスを落とす。

「ふふ。こないだの、お返し」
「……ん」


 え、起き!?


「ん? ……」
 寝ぼけまなこのルスラーンが目にしたのは、眼前で震える、レオナ。咲きたての薔薇のように、鮮やかな赤い顔をしている。
 ルスラーンは、無意識にぐいっと腕を引いて抱き寄せて、レオナの髪の毛に鼻をうずめたかと思うと――また寝た。
 
「な、な、もうっ!」
 たくましい腕の中から、起こさないように逃れようとして、しばらく格闘するレオナなのであった。
 
 

 ※ ※ ※

 

「しーごとーはじみー、じーみじみー」
 鼻歌と言うには大きすぎる歌を歌いながら、副団長室に戻ってきたジョエルは、部屋に入る前から人の気配に気づいており、警戒しながらその扉を開け――

「おかえりなさいませ、ご主人様」
「はえ」

 史上最強の副団長、との呼び声高い男が、出してはいけない声を、出した。

「え? な、え? ど、え?」
「お疲れ様でございます。お茶でもお淹れいたしましょうか」
「ちょちょちょ、何してんの!?」
「メイドですが」
「うん、かっわいいね。可愛すぎてびっくりだわー」
「どうも」
「っっっ、シャル!」
「はい」
「何、なんで!」
「……気が向いたから?」
「ちょおーっと気持ちが追いつかないなあー!」
 
 はあー、とジョエルはどかりと応接ソファに腰掛けた。
 何時間にも及んだ予算審議を終えてクタクタで帰ってきたら、シャルメイドが居るとか、幻覚かな? と正直動揺している。

「……迷惑だった?」
 テーブルに、紅茶入りカップを置きながら言うシャルリーヌの眉毛が、八の字になっている。
「ん? ん!」
 そんなシャルリーヌを、ぽんぽん、と自分の座った隣を叩いて、無言で座るよう促すジョエルは、真顔だ。
「……」
「なんか、あったー?」
「ううん、何も」

 ジョエルは、シャルリーヌのことを心配している。
 自分も何かやらなければ! と焦っているのが分かるからだ。

「レオナがね、メイドやってみたいっていうから、付き合っただけ」
「ふうん?」
「ほんとよ」
「うん」
「……怒ってるの?」
「んー、騎士団の連中って、メイドさんにちょっかいかけるから、心配だっただけー。無事ならいいよん」
「さっきまで、ヒューゴーが居たのよ」
「へえ?」
「エルが戻ってくる時は、私一人が良いだろうって、出て行っただけよ」
「……そっかあ、まあそれならー、うん」
 エル、は二人の時だけの、秘密の呼び名。
 
「うれしく、なかった?」
「!」

 ジョエルは、すぐに気づいて。
 ぐい、とシャルを抱き寄せる。

「嬉しくないわけ、ないでしょー? めちゃくちゃ嬉しいし、疲れ吹っ飛んだし、――あー、襲っていい?」
「ばか!」

 腕の中のシャルリーヌの体温が、一気に上がった。

「ふふ。うそうそ。ありがとう、大変だったでしょーこんなに片付けるのー。ごめんねー」
「ううん。こんなに、大変なのね。毎日……こちらこそありがとう」
「おや、素直ー」
「たまには!」
「あー、しあわせー」

 ぎゅう、と少しだけ腕に力を入れて、ジョエルはシャルリーヌの頬に、頬を寄せる。

「お疲れ様……」
「うん」
「(ちゅ)」
「ん!?」


 え、今なんか、あれ!?


 ジョエルがあっけに取られている間に、シャルリーヌは腕の中からするりと抜け出て

「じゃ、お仕事おしまい。ごきげんよう」

 とスタスタ帰っていき。


 ジョエルの意識が戻ったのは、深夜になってから、だった。(怪訝な顔のラザールに、起こされた。)


 
-----------------------------



お読み下さり、ありがとうございます!
皆様の応援のお陰で、ファンタジー小説大賞の投票期間を駆け抜けることができました。
投票、応援頂き、本当にありがとうございましたm(_ _)m

これからも完結に向けて頑張っていきます。
明日は本編更新予定です。
引き続き、宜しくお願いいたします!

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