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第三章 帝国留学と闇の里
〈閑話2〉 オスカーの秘密
しおりを挟む入り切らなかったエピソードを、閑話としました。
是非、お楽しみください!
後半は、122話『新天地へ 後』の舞台裏?です。
※ ※ ※
――皇都のタウンハウスにて、ある夜。
「なー、そこのかわい子ちゃんは、なんなんやろか? ジン」
「へ!?」
「ただの猫ちゃうやろ……?」
「あ」
「そういえば、聞くのを忘れていましたね」
「そうでした。んん、あのですね」
ぴく、と耳が動くと、なあん、とオスカーはジンライの膝に乗った。けしけし、と後ろ足で耳の裏をかいて、くあ、と一度あくび。
「レオナさん、マリーさん、ナジャさん」
ジンライが、オスカーの背を撫でながら
「雷神トールの加護をもらうずっと前から、俺、オスカーとは友達で。んで、最初は知らなかったんすけど、その……」
どう説明すべきか、ジンライが言いあぐねていると――
「うん。おいら、ただのねこじゃないよ」
と、本人が、言った。
「「「!!」」」
黒猫が! しゃ、しゃ、しゃべったあーーーーー!
えっ、ジ○!? ○ジなの!?
「えー、おっほん。というわけで、こちら、トールの守護神獣様、です」
ジンライが頭をかきながら言うと
「ただのオスカーだよ」
エメラルドグリーンの瞳が、イタズラっぽく瞬いた。
「守護神獣って」
レオナが衝撃を受けると、マリーも同様で。
「まさか、本当に実在するとは……」
「あー、せやったら、納得やわ」
そう聞くと途端に、彼の姿が神々しく見えるのはなぜだろうか。
「いまは、そんなにちからはないんだ。アウのまりょくもらって生きてるくらいだから」
「えっと……その」
レオナが躊躇いながら、でも絶対に確認したいことを、聞く。
「なあに?」
「これからも、撫でて良いのかしら?」
「いーよ! りぇおにゃ? のまりょくもおいしーから」
りぇおにゃって、私の名前よね!? くっ、悶えるっ!
「やっぱりよびにくいにゃー……まりーはだいじょぶ……」
くっ! とそこで最強メイドも悶えている。
「なんでもよいわよ?」
「じゃ、ニィで」
「はあーい!」
っくー! かーわーいーいー!
「わいのことは……?」
「なーにゃ」
「くうっ! 最高や……!」
「ナーニャッて!」
「ふ、最高ですね」
「まりょくつかうから、あんまりしゃべんないけど、なにいってるかはわかるよ」
もう一度くわわ、とあくびをして、ジンライの膝の上で丸まった。
「あ、ちなみに俺は『アウ』って呼ばれてます」
「分かりました」
「アウアウ泣いてたからやろ?」
「……ナジャさん……」
「え! そうなの?」
「たくましくなったのー」
「……オスカーのお陰です。ずっと、寄り添ってくれて」
そんなオスカーは、ジンライの膝の上で、ぷすーぷすー、と寝息を立て始めた。
全員が、一瞬で、デレデレになったのは、言うまでもない。
※ ※ ※
――ふんふんふーん。
ん? なんかアウが、ゴソゴソしてるな?
「もー。ゼルさん、いつまで拗ねてるんすか」
「ぐ」
「テオに迷惑かけたら、だめですよ。せめて食べ終わったら、食器は運ぶこと」
「ぐぐ」
「朝は、もう起こせませんからね」
「うう」
「分かりました!?」
「……分かった……」
「くく、寂しいんだよ、ゼルさん」
テオが、ジンライの荷造りを手伝いながら笑う。
「いつ出発するんだ!」
「だーから、レオナさんに頼まれた通り、秘密なんですって」
「なんで秘密なんだ!」
「そりゃー、寂しくて行きたくなくなっちゃうからって、言ってましたよ」
「ジンは、寂しくないのか!」
闘神とか言われてたのに、ただの駄々っ子だな、とジンライは思わず苦笑してしまう。
「……寂しくないわけ、ないでしょう?」
「寂しい時は、寂しいと言わねばだめだ!」
「ゼルさん……」
「強がっているうちに、会えなく、なるのだぞ!」
「ゼルさん、また会えます。約束します」
「約束だからな! いつ出発するんだ!」
「えーと……ええっ、あっぶな!」
「ちっ」
「(言っちゃうのも、時間の問題だなあ)」
――その二日後。
「で、いつ出発するんだ?」
「あ、もう明日っすねー……あ!」
「明日だな! テオ!」
「はいはい。カチッ」
「ちょ、テオそれ通信魔道具、いつの間に!」
「あ、シャルさん? 明日だって」
「ちょおー、もー、俺絶対怒られる!」
――明日から、アウどっか行くのにゃ?
んー! おいらの、まりょくのみなもとが! よし、あの大きい鞄に入ったら気づかれない……
※ ※ ※
――ある朝、ローゼン公爵邸、馬車止めにて。
「もう! 秘密にするなんて!」
「シャルさん、怒ったら眉間にすっごいシワ」
「テオ、なんて言ったの!?」
「だから、怒ったら眉間にすっごい……」
「あーあー、まだ出てこないっすねー?」
「ぐぬぬ、何て言って送れば、こう、ぎゅんとなるのか……なあ、どうすれば」
「ええ……!? 砂漠の王子が、ぎゅんとか言うんすか……?」
「うう、レオナったらもー……うう……」
「もー、シャルさん、鼻水ふこう?」
「なんでテオはそう、いつも冷静なのよっ」
「八つ当たりされるからだよ。ふふ」
「もー! 密かにモテ始めてるわよ、テオ!」
「えぇ? 僕が?」
「そうよ! お陰で私までヒソヒソされるんだから!」
「えぇ……理不尽……」
「そういう、冷静なところが良いんですって!」
「冷静っていうか、ただのオカンですよね」
「うん、オカンだ」
「なによ、オカンって!」
「ヒー兄が言ってた」
「あはは、言ってたねー」
「だからなによ、オカンって!」
「あっ、ほら、出て来ましたよ!」
「もう! 黙って行くなんて、許さないんだから!」
※ ※ ※
よいしょと、今の隙に、アウの鞄に潜り込んで、と。
意外とおまぬけさんなんだよね、いつも閉め忘れてて。
どこに行くのかなー? ま、アウと一緒なら、どこでも良いけどね。ほんっとトールって、心配性なんだから。
アウの魔力が覚醒しちゃったら、暴走して危ないからって、先に加護するなんてさ。おいらが側にいるから大丈夫って、言ったのになぁ。慰めるの大変だったんだよ。まだ修行ちゃんと終わってないとか、ぐすぐすして。
あ、でも親方が「教えられることは全部叩き込んである!」て背中ばちいん、て叩いたのは、すっごい痛そうだったなー。
自信持てば大丈夫だよ、アウ。
おいらが、ついてくから。ね。
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