【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです

卯崎瑛珠

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第一章 世界のはじまりと仲間たち

【なろう累計30000pv達成記念話】ラザール副師団長の一日

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 このお話に目を止めて下さり、本当にありがとうございます。
 とっても嬉しいことに、小説家になろう様にて公開から1ヶ月と少しで累計30000pvを達成致しました!
 このお話はその記念に書き下ろしたものですので、もちろん読み飛ばして頂いても全く本編に影響ございません。
 (累計10000pv記念に書き下ろしたジョエル副団長の、ラザール副師団長バージョンになります)
 
 引き続き『薔薇魔女』をお楽しみ頂きたく、宜しくお願い致しますm(_ _)m
 


 ※ ※ ※
 


 ラザール・アーレンツ。
 アーレンツ伯爵家の一人息子で、王国魔術師団副師団長。
 現在師団長は空位のため、実質王国内魔術師のトップに君臨している。魔力量は最高評価で、稀代の二属性持ち、かつドラゴンスレイヤー。怜悧冷徹、合理主義、実力主義のため誤解されがちだが、ジョエル副団長と仲が良いことから、実は面倒見が良いことはバレつつある。

「おはようございます、副師団長」
「おはよう、ブリジット」
 魔術師団は師団長室以外、個室はない。
 幹部五人がコの字に机を並べて、同じ部屋にいる。
 そのコの字の真ん中がラザール。
 北側に第一魔術師団(攻撃魔法主体)の第一師団長と、第一副長。
 南側に第二魔術師団(補助魔法主体)の第二師団長と、第二副長が座っている。ブリジットは、第二副長だ。
「お早いですね」
「ブリジットもな。ちょっと朝議の前に野暮用だ。行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
 何も指示をせずとも、ブリジットは早速ラザールの机の上の仕分けた後の書類をまとめて、関係部署に持って行ってくれるようだ。
「……助かる」
 扉を出ながら声をかけると、ブリジットは破顔した。
 ――以前に、最近ちゃんと声を掛けて下さるようになりましたね、何かあったのですか? と彼女に尋ねられたが、理由が思い当たらなかった。

 廊下をスタスタ歩いていると、早朝のせいかほぼ人とは会わず、騎士団副団長室まで来られた。特に騎士団連中は粗暴なくせにラザールの顔を見るなりビクっとする者が多いので(飲み会であまりにうるさかったのではりつけにしてやろうか? と凄んだのに尾ヒレが付きまくって、噂になっている。小心者どもめ)、煩わしくなくてホッとする。
 
 王国騎士団副団長のジョエルとは、魔術師団に入ってからの付き合いだ。
 年齢も近く同じ伯爵家ということもあり、学院はもちろん夜会などでも顔を合わすことは多かったが、直接話すようになったのは意外にも入団後だった。
 当初は最強弓士の名声を轟かせ、常に周囲を女性に囲まれた胡散臭い奴、と思っていたが、軽い口調と裏腹に正義感と激情を秘めた男だと分かってから、ようやく踏み込めるようになった。

 その副団長室から、間抜けな鼻歌、というにはやや大きすぎる歌声が聴こえてくる。
 

 ♪仕事は地味~ぢみぢみ~
 ♪レオナのお茶~が飲みたいなぁ~ん
 ♪クッキークッキー、食べたぁーいなー


 またゲルゴリラにやらかされでもしたか、と溜息を一つ吐いて、ノックなしに勝手に扉を開ける。
「なんだその間の抜けた歌は」
 苦笑しながら問うと『麗しの蒼弓』の名はどこへやら、頬にぐしゃりと書類を貼り付けて、机にうつ伏せになっていたボサボサ頭の男が、ゆるゆると顔を上げて言う。

「どしたのラジ」
「……朝議の前に少し話したくてな」
「ほぉーん?」
「レオナ嬢から、誕生日パーティの招待状が届いたのだが」
「うん。僕もー」
「……この、ドレスコードとやらは、なんだ?」
 

 ぶふっ!
 

 いきなり吹かれた。心外である。

 
「なんだよー、何かあったのかと思ったよー」

 
 何かとはなんだ。

 
「いやその、気になってな」

 
 ジョエルはあの説明できちんと把握できたのか? 流行りものは、良く分からないのだ。

 
「書いてある通りだよー?」
 とあっさり返された。
「むう……」

 
 腑に落ちない。一体何を用意すれば良いのだ?

 
「僕はタイとハンカチでするつもりー」
「……なるほど」
 その色を使用した何かを、なんでも良いから身につけて来い、ということか。
「真似しても良いから、これ手伝ってよー」
 バサバサと書類の束を振るが、端から貼り付けられたメモが、床に落ちて来ている。
「はー、またか」
 それが崩れると、ますます分類できなくなるぞ? と思うが、実は粗雑な男だ、言っても無駄だろう。
「みんなさー、好き勝手しすぎじゃなーい?」
「お前がちゃんと指示しないからだろう」
「ブリジットさんを、僕にくださいっ!」
「やらん」
 優秀な部下を手放す上司は、いないと思うのだが。
「それはいつもの僕のやつー」
「ふっ」
「レオナもやらんからねー?」
 最近すっかり決まったやり取りになってしまったことを、ラザール自身もおかしく思っている。もう本心では無理だと分かっているのだが、楽しんでいるので止めるつもりはない。――本当に来てくれれば、もちろん嬉しいのだが。
「分かった分かった。朝議が終わったらな、少し手伝ってやる」
「やったあ!」


 朝議(国王、第一王子、宰相、騎士団長、騎士団副団長、魔術師団副師団長、財務大臣、外交大臣、法務大臣が揃う朝の定例会議)では騎士団長ゲルルフが、辺境騎士団との交流試合で、開幕に自身と英雄ヴァジームとの模擬戦をやって、どちらが勝つか賭けさせたら面白いと言い出して、氷の宰相ことベルナルドが『王国の記念行事に賭け事だと!』とブチ切れ、宥めるのに苦労した。
 
「……で、誰が物理障壁を強化するんです?」
 と言ったらゲルゴリラは黙った。苦手意識を持たれていると、こういう時便利である。
 
 復興祭に向けて、また追加予算を通したいと国王が言えば、財務大臣が有名劇団を招くのに接待や宿泊経費で、既に膨大な予算を使ってしまっている! と泣き出した。法務大臣が若干蔑んだ目で国王を見たら、黙ってくれた。こちらも便利だ。

 ジョエルは、うつらうつらしていた。


「おかえりなさーい」
 ジョエルの書類整理に約束通り少し付き合ってやってから、魔術師団執務室に戻ると、第一魔術師団副長のトーマスが軽やかな声で言う。
「……ただいま」
 とはいえ顔は全然軽やかではない。
 じっと見ていると、
「聞いてくださいよ~副師団長~」
 と勝手に泣きついてきた。
 室内を見回すと全員不在。
 さては逃げたな……とラザールが思っていると
「僕もう自信ないですう~~わーん!」
 本当に泣き出した。

 話を聞くと、どうやら攻撃魔法実習で一生懸命教えているが、一部男子学生から舐められていると。『本気の魔法見たいですう!』という女子学生のリクエストには『副師団長に怒られちゃうのでー!』と当たり障りなく逃げたのだが、そうすると『あいつ本当は出来ないんだぜ』『下っ端が教えにくんなよな』と聞こえよがしに言われるらしい。

 ラザールは、トーマスに申し訳ないと素直に思った。
 副師団長の自分が自ら教えることは、当初は驚かれたものの貴族の子息達だ、今やさも当然の待遇だと思っていることだろう。
 トーマスは優秀な第一魔術師団の第一副長であるが、その態度の柔らかさと若さで下に見られがちだ。いつもは騎士団との緩衝材になる貴重な人材なのだが、学生相手に見下されるのは辛いだろう。
 
「話してくれてありがとう。それはなかなか辛いな」
「!!」
 トーマスの涙がピタリと止まった。
「……なんだ、そんな顔をして」
「いやだって副師団長、前だったらめんどくさそーに溜息ついて終わりだったと……あっ」
 しまった、という顔をするが遅い。
 まあ、正直なところも彼の良いところだ。
 実際ラザールは、表面上笑っていても陰で悪口を言う者達と、これでもかと関わってきており、食傷気味なのだ。
「そうかもしれんな」
 苦笑が漏れる。
「……なにかありました? 美味しいもの食べたとか!?」
「なにもない」
 えー、と唇を尖らせるトーマスは、すっかり元気だ。
「その問題を解決するのは、お前自身だ。そうだな、そいつらに落とし穴でも掘ってやれ」
 ニヤリとしてやる。
「!! 結構いたずらっ子なんですねえ!」
「ジョエルのせいだな」
「なるほど!! いってきます!!」
 こんな時、本当に便利な存在だ。


 はたしてその日の午後すぐに、攻撃魔法実習でまんまと落とし穴に落とされた男子学生の家(伯爵家二人)から、ラザール宛に抗議が届いた。
「受講態度が悪い者は、遠慮なく叩き出すと最初に言ってある。文句があるなら直接言いに来い」
 とすぐに返事を出したが、それ以降音沙汰がない。
「来ないな。ちゃんと説明しようと思ったんだが」
 独り言を呟いたら
「そりゃ来ませんて」
 第二師団長のブランドンが笑う。
「なぜだ?」
 ブリジットが
「まあ、私のせいでもありますけどね」
 と苦笑い。
「ん?」
「ああいう輩は、かっこつけたいんです。だから、わざと女子学生の前で、落ちた子達に『えっ、かっこわる』って言いました」
「わー! えげつないっす! ブリジットさん!」
「トーマスうるさい」
「コリンさん酷いー! コリンさんもたまには講義してくださいよ!」
 第一師団長のコリンは、最年長で二児の父であるから、学生の扱いも長けていると思われているが、その実逆である。
「……めんどい」
 研究にしか興味のないこの男が結婚できたのが、王国魔術師団最大の謎と言われている。ラザール以上に人当たりが悪い、とも。まともに話せるのは、ここにいる幹部だけだ。
「ますますややこしくする気か?」
 ラザールが言うと、トーマスの目が泳いだ。分かってはいるらしい。
 
「それはそうと副師団長、レオナ嬢の杖のことなのですが」
 ブリジットが、機転を利かせて空気と話題を変えてくれた。さすが優秀な部下である。
「ああ、支給杖では無理だろうな」
「はい。確か保管庫に……」


 ラザールは、今度レオナに疲労回復クッキーをもらったら、ここにいる皆で分けよう、と思ったのだった。
 
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