【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです

卯崎瑛珠

文字の大きさ
上 下
47 / 229
第一章 世界のはじまりと仲間たち

〈42〉ついに復興祭当日です

しおりを挟む

 
 いよいよ迎えた復興祭当日。
 大変お天気がよく、からりとした風が心地よい。
 
 北都復興十周年祭は、正確には明日だが、今夜、オープンセレモニーとして夜会が開かれる。
 国賓と呼ばれるゲスト達と王族、宰相を始めとする要職達との晩餐会があり、その後の舞踏会こそが、今回特別に選ばれた未成年貴族のデビューの場も兼ねている。
 国王陛下に挨拶をし、王族とファーストダンスをすることで、この国の貴族として一人前と認められるから『デビュー』だ。特にデビューをする女性は『デビュタント』と呼ばれている。

 宰相たるベルナルドは、アデリナを伴って晩餐会から出席なので、レオナはフィリベルトのエスコートで、舞踏会から参加する。
 コルセットでぎゅうぎゅうに腰を締めるとはいえ、ご飯はちゃんと食べて行かないと最後までもたない。
 飲み物と軽食は出るが、食べる余裕はないであろう。
 ハイヒールで最後まで立てるかなあ、とそれだけが不安だ。ダンスの練習はしてきてはいるが、何しろ舞踏会は、初めての経験なのだ。

 というわけで、レオナは朝からお風呂、マッサージ、髪と爪の手入れ、と全身磨かれていた。今日はマリーの独壇場だ。
「お兄様はどちらに? 今日はまだお見かけしていないわ」
 朝食はもちろんのこと、昼食でも見かけなかった。
「お時間までやることがあるからと、お部屋に」
「大丈夫かしら」
「間に合わないようでしたら、ヒューが押入りますので」


 物騒!


 ヘアセットをされながら、手元の招待客リストのおさらいをする。
 本当にブルザーク帝国皇帝の名前があって、ドキリとしたレオナである。
 大陸中に響く高名で、拝謁できるのはごく一部の限られた人間のみ。いくつもの属州を従え、豊かな海からの恩恵があり、漁業と海洋貿易、塩で潤う大帝国。
 帝国軍も頑強で大軍と聞く。ただし魔素が少なく、マーカムは魔獣蠢く北の森の管理と、魔力量豊富な人材の斡旋、農作物の輸出でもって、対等な同盟を保てている。塩害で作物が育ちにくい土地柄で、食料事情があるのだ。
 帝国ではその代わり、少ない魔力でも動作可能な魔道具開発が盛んで、その技術力は非常に高く、フィリベルトも一年の留学では全然足りないと零すほど。

 皇帝は未婚だが、前皇帝と五人の王子をその手で屠った『血塗られた皇帝』と呼ばれており、皆恐ろしくて近寄れないらしい。
 帝国内ではそれでも、やれ正妃に、後宮に、と大量の女性達が皇城に送り込まれては、邪魔だと追い返されているそうな。
 レオナは、そのコストを想像しただけで身震いがした。
 広い帝国を行き来するのに、馭者も馬車もタダではない。
 着飾る女性の服飾費、持たせる手土産、旅費、同行する護衛とメイドの給金。そんな暇があるなら他のことせえよ! と割と本気で思っている。でもそうしてまでも魅力的な、皇帝の寵愛なのだろう。全く理解ができないが。

 一方で、未婚のガルアダ王太子も来訪ということで、別の意味でも緊張感がある。
 うちの王国はなにかとガルアダと縁があるため、貴族令嬢達が躍起になるのが目に見えている。
 
 個人的には、やはり北の英雄ヴァジーム伯に会ってみたいと思う。
 雷槍の悪魔ってどんな方なんだろう! の怖いもの見たさというやつだ。ただし明日開催予定の、王国騎士団と辺境騎士団の交流試合観戦は、シャルリーヌに誘われてはいるものの保留中のレオナである。

 

 ――だって。汗みどろの男の闘いだよ? 見たいの? ゲルゴリラだよ?
 シャルリーヌは見たがっているけど……カッコイイ人いるかもしれないし! て、そうかあ。
 でもなあ、身近にいる騎士ってジョエル兄様とかジャンルーカ様とかだよ? 基準おかしくなってる自覚持ってね? ――
 


 と物思いにふけっていると、

 コンコン……

 遠慮がちなノックが聞こえた。
「はい?」
 返事をすると
「今、入っても大丈夫かい?」
 フィリベルトの声に腰が浮きかけるが、マリーに優しく制された。
「もちろんですわ!」
 答えるとマリーが扉を開けてくれる。
「やあレオナ」
 若干やつれているフィリベルトは、珍しく部屋着のままだった。
「やっとできたよ……」
 見せてくれた手のひらには、ラピスラズリのような石が乗っていた。

 フェルメールが愛した鮮やかな青。日本では十二月だが海外では九月の誕生石。今日のデビュードレスの色とも同じ。
 石言葉は成功と健康、だったか。レオナの前世も九月生まれだったから、覚えていた。
 
 ちょっとその薔薇のペンダントを借りるね、と外され、花開いた金色の薔薇の下に、ゴールドの土台に嵌め込まれた青いティアドロップが付けられた。
 今日の『皇帝の赤』と呼ばれるルビーと色合うかな、と思って合わせてみたら、これがまた意外としっくりきた。さすがである。
 赤とゴールドと青のコントラスト、それもまた今日のドレスと同じ。
 
「これが、破邪の魔石だよ」
 付けたレオナを満足げに眺め
「レオナを護ってくれる。どうしてもの危機に陥った時は」
 頬を撫ぜながら切なげに言う。
「魔力をこめて強く握って」
「……お兄様」
 メイクが崩れるのも厭わず、抱きついた。
 何日もかけて休まず作ってくれた魔道具だ、きっと幾重にも難しい魔法がこめられていて、その調整は大変だったに違いない。
「ありがたく存じますわ。絶対に、肌身離さず身につけます」
「うん。ジョエルとラザールにもお礼を言ってね」
「もちろんですわ!」
「ふふ、ほらいつだったか、カミロの研究室で、ジョエルがラザールに魔石を強請ねだっていたのを覚えている?」



 はいはい、はいはい。
 魔石の代わりに私をくれ、とかなんとか言われた時ですね。
 覚えてます!

 

「ラザール、レオナに振られたのを気にしていてね。休みの日にわざわざブルードラゴンを倒しに行くなんて、意地になりすぎだよね」


 
 はいー!?



「ジョエルまで張り切っちゃって。伝説作っちゃったよね」


 
 うわーいーーー……

 

「国王陛下にも、もちろん魔石のこと内緒ね」


 
 はあーい! 絶対に言いません!


 
「ふふふ。じゃあ私は少しだけ仮眠を取って準備するから、また後でね。ドレス楽しみにしているよ」
「はい、お兄様! また後ほど」
 フィリベルトが部屋から出ると、マリーが微笑んで、そっとペンダントの位置を直して
「では少しお化粧を直さないといけませんが……先にコルセットの準備をして参りますね。お茶はいかがですか?」
「ふう、お願い。厨房にクッキーの残りがあったはずよ」
「お持ちいたします」
 出て行った。

 きっと一人で気持ちをリセットする時間を作ってくれたマリー。長い付き合いなだけあって、全部悟ってくれるのだ。
 
 レオナは、ふーっと大きく息を吐き、鏡に映る石を眺める。
 確かに魔石と言う通り、強い力を感じる。でも嫌な気持ちはしない。温かくて、寄り添ってくれるような。金の薔薇の輝きが増したような。
 
 周りの皆は、いつもかけがえのないものをくれる。
 物だけではなく心も。
 
「ドラゴンを倒してまで、なんて!」
 突拍子もなくて、思わず笑ってしまった。皮肉屋ラザールに、たっぷりお礼をしなくては!

 

※ ※ ※


 
 騎士服でいいだろ? と適当にしていたら
「辺境伯として招かれていると言うただろう。せめてタキシードにしておけ。ただでさえ顔が怖いんだ、そのぐらい気を遣え」


 
 ……めんどくせえ。


 
「びしーっとしとったら、どこかの娘が見初めてくれるやもしれんぞ」

 

 ……んなわけねーだろ、めんどくせえ。

 

「独り身は寂しいぞおー! わしももう長くないからなー」
「嘘つけ、毎日ぴんぴん魔獣倒してるじゃねーか」
「じゃあなんで参加する? 去年までわざと任務行っとったろ」


 
 バレてたんか。


 
「フィリベルトに頼まれた」
「おー、ベルナルドの倅だな。あれほどわしが王都に戻れ、言うとったのに、あやつの言うことなら聞くんだなーわし悲しい」

 

 ……めんっどくっせーな! 親父の言うことは聞こうと思ってた。タイミングがなかっただけだ。魔獣討伐ばっかりしていても、領地経営は難しい。王都で情報を握れる人脈を持って、初めて成り立つのだ。
 そのために野獣討伐任務の第二騎士団から、花形である近衛に異動することに決めた。たまたまフィリベルトが誘ってくれただけだ。第二の方が性に合ってるけどな、仕方ねえ。


 
『一年半ぶりだろう? 王都の勘を取り戻し、顔を覚えてもらうためにも、舞踏会は出た方が良い』


 
 正論に従うだけだ。めんどくせえけどな。

 

 髪を適当に撫で付け、ジャケットを羽織る。
「ただでさえ黒いんだから違う色にすりゃえーのに。オシャレじゃないのう。だから辺境は田舎者扱いされるんだぞい。悲しいのう」

 

 ……ああもう舞踏会なんて憂鬱でしかない。貴族の令嬢どもにまた怖いだの、黒いだの、あれが悪魔の息子だの、ヒソヒソされんのめんどくせえ! 影でピーピーピーピーうるせーんだよな。


 
「ちゃんと、誰かとダンスするんだぞ!」

 

 ……うるせえよ、俺の誘いに乗る女が奇跡的に居たらな!
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...