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第一章 世界のはじまりと仲間たち
〈35〉強面男子はピュアすぎるのです
しおりを挟む声のトーンを落として、とりあえず
「私はレオナと言うの」
「私は、シャルリーヌよ」
「あ、じ、ジンライ、です」
お互いに自己紹介をした。
「ジンライ様。お待たせしても、よろしくて?」
とひそひそ声でレオナが聞くと、またコクコク、と頷く。
――見た目の迫力とのギャップが、激しすぎる!
レオナは密かに、彼の見た目に圧倒されていた。
ジンライと名乗った彼は、鮮やかな青い髪に金メッシュのツーブロックで、首にタトゥー入りの長身。
前世ならガクブルな存在で間違いない。
しかもよくよく見ると、眉ピアスに口ピアス、耳の軟骨上部から外側にかけて太い針が刺さっている。
完全にライダースとダメージデニムに、ウォレットチェーン、編み上げブーツに咥えタバコ、といった感じの輩である(偏見)。
失礼ながら、勝手に怖い人では? と疑っていたわけだが、あまりにも小心者なその態度に、逆に興味がわいてしまったのだった。
「その、あの、でも俺、平民で……それでもいいですか」
なんかデジャブだな? と思ったら、テオとの出会いかぁ、とレオナは気づき、思わず微笑んで
「気にしませんわ」
と答えた。
「私も」
とシャルリーヌ。
「う」
「「う?」」
「嬉しい……」
ぽっと頬を染める強面男子に、逆にタジタジな令嬢二人である。
「あの」
ジンライは、きゅっと唇を引き締める。
「貴族のマナーとか、分かんなくて。だから……」
とまで言ったものの、彼は『は! すんません』と泣きそうな顔になって、言葉を止めた。
レオナとシャルリーヌは顔を見合わせて、クスリと笑った。考えは同じようだ。
「大丈夫よ」
とシャルリーヌ。
「まず、課題を終わらせてから。ね?」
とレオナ。
ジンライは、ずずず、と鼻を盛大にすすってから、黙って頭を下げた。
「食堂も結構目立つから」
シャルリーヌの提案で、中庭の奥まったところにあるテーブルセットにやって来た三人。課題はもちろん終わらせた。
手には食堂で作ってもらった、軽いテイクアウトのおやつセット。調理人ハリーが、試しに仕入れた新作茶葉です! と淹れたての紅茶ポットも入れてくれた。
学院内の庭には、学生達の憩いの場として、簡易テーブルセットがいくつか設置してあるが、幸いにも課題追い込みの時期のせいか人目は全くなかった。
レオナがポットとティーカップを並べると、ジンライは椅子の座面を持っていたクロスで、丁寧に拭いてくれた。
「まぁ、ありがとう」
「いえっ!」
細やかな気遣いに感心する。
「ジンライ様は、お菓子は平気ですの?」
シャルリーヌが、お皿に焼き菓子を並べながら問うと
「あ、好き、です。あの様とか呼ばれるのは……」
「ふふ。じゃあ無しね。私のことは、シャルで良いわよ」
「!」
なんかおっきい人がブルブルしている。大丈夫だろうか。
「さ、座りましょう」
レオナが促して、強面男子のティーパーティーが始まった。
「ね、ジンライは、どういった事情で入学したの?」
シャルリーヌが会話の突破口を開いてくれるのは、いつものことである。
「あの、俺普段は鍛治見習いなんです……五歳で両親を亡くして、鍛治ギルドの親方が引き取ってくれて」
「まぁ……それは踏み込んだことを聞いちゃった。ごめんね」
「いや! 俺が聞いて欲しくて!」
慌てて否定するジンライに、シャルリーヌは、なら良かった、と微笑んだ。
「んで去年、冗談半分で教会に魔力測定しに行ったら、すぐ学院に入った方が良いって言われて」
一応市井にもそういった簡易測定の機会があり、貴族でなくとも、魔力を持った人間を騎士団や魔術師団へ勧誘できるようになっているのだ。
「金かかるし、行かないって言ったんだけど、親方が神様からもらった才能だからって無理して……だから」
ジンライは、テーブルの上で拳を握りしめた。
「ちゃんと勉強して、親方に恩返ししたいのに、こんなんで、情けなくて……」
ズビズビし始める彼の話に、レオナは危機感を持った。
人材は国の宝だと、ベルナルドもフィリベルトも常に言っているし、レオナもそう思っている。
実際宰相の補佐官は、身分よりも能力が重視されている。だからこそ王宮内の血統重視派とは、大変に仲が悪い。
王立学院の目的は、若い人材の育成ではなかったか? とレオナは唇を噛み締める。
ここで一人、理不尽に潰されようとしているのを、目の当たりにして。
「……苦しかったわね」
レオナはまず、彼の心情に寄り添った。
「うん。でも、あの時のレオナさんに救われたんだ。身分よりも、謝るのはどちらかだけって言ってくれたから。貴族の中にも、そういう人もいるんだって。ずっとちゃんと話してみたくて」
へへへ、と彼は照れて笑う。
笑顔は意外と人懐っこい。
「それは嬉しいわ!」
「シャルさんとも、話せて嬉しい。俺、人と話したの久しぶりだ……」
――ぐうっ、なんて切ない事実!
だってもう前期終わりかけてるよ?
半年の孤独は、なかなかに重い!
私もぼっちだったから、良く分かる。
そのうち猫とか植物とかに、話しかけるようになっちゃうんだよ!
「なう」
――ん?
「お、オスカーだ」
ひょい、とジンライが抱き上げたのは、エメラルドグリーンの目を持つ黒猫。
「俺の親友」
ニパッと笑いながら、彼はオスカーと呼ばれた黒猫を、かかげて見せる。オスだった。
――ぐはっ。時すでに遅し……
でも猫は可愛い。可愛いは正義だよね!
すると
「あれ? レオナさんだ。シャルさんまで」
テオがやって来て、同じテーブルに座っているジンライを見て、ギョッとした。
「あらテオ、魔法の練習はもう良いの?」
レオナが聞く。
「う? うん。終わったよ。猫にエサあげようと思って……」
「! 君だったのか!」
ガタッ! と急に立ち上がったジンライに驚いて、オスカーはぴゅんっと跳ねて、走り去ってしまった。
「僕が何? ていうか、レオナさん達に何してたの?」
さっとテオはジンライと、レオナ達の間に立ちはだかる。
――すごい!
テオがちゃんと警戒してる!
「えっ、あの、えっと」
「君、確か僕と同じクラスだよね。なんで公爵令嬢や侯爵令嬢と一緒にいるの? 何が目的?」
「えっ!」
途端にジンライが固まった。
「テオ、大丈夫よ」
レオナが微笑んで言うと
「すごい、テオ。すっかり立派になってー」
シャルリーヌが、近所のおばちゃんみたいなコメントをしたので、思わずレオナは吹きそうになってしまった。
「大丈夫って?」
「「お茶してたの」」
「へ、へえ……?」
テオはそれでも、顔いっぱいの謎マークだったので、とりあえずシャルリーヌが座るように促した。が、ジンライが棒立ちのまま動かない。
「ジンライ?」
シャルリーヌが背伸びをして彼の目の前で手を振るが、反応がない。
「おーい?」
「……こ」
「「「こ?」」」
「こうしゃく、て」
「あ、私がローゼン公爵家で」
レオナが軽く右手を挙げ
「私はバルテ侯爵家」
とシャルリーヌも右手を挙げた。
「いやいやいや! ろ、ローゼンって宰相? バルテってあの第一騎士団師団長の、奥さんのお家っすよね!?」
さすが鍛治ギルド見習、顧客情報は頭に入っていたようだ。
「えっ、知らなかったの?」
テオが脱力した。
「やべぇ……は、吐きそう」
「「「えっ!」」」
どしゃっ、と突然芝生に両膝を突いたジンライに、ぷちパニックになる三人だった。
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お読み頂きありがとうございました。
2023/1/16改稿
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