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第一章 世界のはじまりと仲間たち

〈31〉お誕生日パーティです 4

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「皆様。本日は、私のお誕生日パーティにようこそお越し下さいました」

 ロングテーブルには所々に、料理を邪魔しないよう香りの弱い品種の薔薇を生けてある。銀の燭台には、深紅のロウソク。おどろおどろしくなりそうだが、それを金色と瑠璃色のリボンでカバーする、ルーカスのセンスに脱帽。

「お陰様で今年から学院に入学し、このように素敵なお友達にも恵まれ、大変充実した日々を送っております」
 
 レオナはゆっくりと、ゲストそれぞれに目線を合わせる。
 
「とにかく勉強の毎日ですわ! そして」
 料理長を横に招く。
「我が家の誇る料理長の協力で、私の魔法の練習と、お料理を組み合わせることに成功いたしましたの」
 
 おお……とゲストから声が漏れる。
 
「本日は是非そちらもお楽しみ頂きたく存じますわ」
 礼をすると拍手が鳴り響いた。
 
 今度はベルナルドが席を立ち、レオナの肩を抱いて続ける。
「愛する私の娘、レオナのためにお集まり頂きありがとう。何か言いたいところだがもう、お腹がぺこぺこだ!」
 
 皆一斉にどっと笑う。
 
「挨拶はこれぐらいにして、グラスを持とう! 乾杯!」

 
 公爵家の料理長を勤めるだけあり、彼の実直さと発想の豊かさは皿の上にも現れている。
 
 風野菜のテリーヌは彩りも豊か。ビシソワーズは、例のバターと生クリームが大活躍! エビとブロッコリーのマヨ和えは、グレープフルーツとともにローゼン伝統の銀スプーンに飾り盛り。マヨは料理長と試行錯誤して作ったものだ。
 パンには、例の脱脂乳が練り込んであって、ふわふわ。お好みでジャムもどうぞ。
 メインの蒸し鶏とローストビーフの盛り合わせも、ソースは魔法で作ったマーマレードが入っている。そしてデザートは、いちごのソルベ! これも魔法を駆使した力作である。
 風魔法でいちごをミキサーにかけたように潰し、レモン汁とお砂糖を加えて氷魔法で凍らせたものだ。ちなみに、レオナが凍らせると、バキバキの氷になってしまったので、フィリベルトに手伝ってもらった。なかなか魔法制御が難しい一品だ。

 新しい皿が給仕される時に合わせて、レオナは料理長と並んでゲストに料理の説明をしてまわる。テーブルを一周しながら、質問を受けたり感想を聞いたりで、ほとんど料理が食べられないが、皆から美味しいという声が聞ければ大満足! であった。

「本当に驚いている」
 ラザールは特に、魔法を料理に落とし込む発想自体が無かったらしい。
「なんというか、平和な世の中でもこれだけ魔法の使い道があるというのは、嬉しいものだな……」
 
 なるほど、とレオナは切なくなる。ラザールにとって、これまで魔法は戦うものでしかなかったのだ。
 
「私は、これらの魔法を魔道具でも再現できたら、なんて思っておりますの」
 
 カミロがすかさず反応する。
「なるほど、魔力がなくてもこれらを作ることができれば、レストランでも提供可能になりますね」
「えー、僕絶対食べに行くー。このスープほんと美味しい。鍋ごと飲みたーい」
 ジョエルが本当に何度もおかわりをしてくれている。
「ふふ、まだ学生の身ですから、たくさんの可能性を考えたいと存じます」
「フィリベルトと共同制作、という形にすればいい。彼が魔道具研究を専攻しているのは周知の事実だからね」
 ウインクするカミロ。なるほどそれなら邪魔されないかもしれない! とレオナの目が輝いた。
「はい、まだまだ未熟な身です。お兄様と相談いたしますわ!」
 

「ではやはりゼル君はアザリーから」
 一方では、フィリベルトとゼルが話している。
「ええ。母は踊り子でした。高級宿を巡る中で、まあその、俺を産んだわけですが、苦労していまして。たまたまアザリーを訪れていたコンラート伯に魔力の素質を認められ、引き取られました。コンラート伯には大変感謝しております」
 
 シャルリーヌが横からおずおずと
「お母様は……」
 と聞くと
「残念だが、マーカムへ来る前に亡くなった」
 眉を下げるゼル。
「そうだったの……不躾なことを聞いてしまって……」
「はは、シャル嬢、俺が話したのだから気にするな」
「僕、よく家の愚痴をゼルさんに言っちゃってたね、ごめんなさい」
「テオは気にしすぎだな。仲良いが失う、仲悪いが生きている、人それぞれだ」
 ところで、肉のお代わりはないのか? と、ゼルはおちゃらけて場を和ませてくれた。
 
「テオ君は、ラザールの課題に悩んでるんだってー? ほんと意地悪だよねーこいつー」
 ジョエルがワイングラスを片手に、絡む。
「いえ! おかげでレオナさんとたくさん話せましたし、ヒューさんとも仲良くなれましたし!」
「ヒューと? 仲良く?」
「? はい……」
「僕とは仲良くしてくれないのにー!」

 
 ――はーい、めんどジョエル出ました。
 弟弟子にだけこの仕様です。

 
 流れ弾を喰らいそうなヒューゴーを探すと、しれっとワゴンを押して退出していっている。
 さては逃げたな? とレオナは思わず半目になった。

「あ、あの、課題は! うまくできそうです!」
 すかさず話題をそらすテオ。
「なに? 興味深いな」
 キラーンと光る副師団長の半眼鏡に、
「発表までのお楽しみですわ!」
 もったいつけて、レオナが言う。
 テオは本当に成長したんだから! となぜか代わりに胸を張って。
「ほーう? 今見せてくれたら、更なる改善点を見出せるんだがな」


 ――高みを目指せって?
 今すぐ見たいだけでしょ!

 
 どう断ろうかとレオナとテオが逡巡していると、すかさずベルナルドが
「ほう! 皆さんそろそろお食事はお済みかな? ホールでアデリナとフィリベルトが音楽を披露する予定だったのだが、どうだろう、レオナとテオ君の課題発表もしてもらうというのは」
 と提案した。さすが宰相、突然のアジェンダ変更にもお強いですわね! と再び半目になるレオナ。
 
「え、この格好で? ですか?」
 タキシードでは十分に動けないが、そのことも宰相閣下は想定内だったようだ。
「ルーカス」
「はい。テオ様、こちらへ」

 
 ――強制だわー、逃げられないわー。
 ごめんテオ!


 不安げなテオに、レオナはとりあえず両手の拳を握って応援のポーズを送った。
「は、はい」
 それを見て、苦笑いなのか諦め笑いなのか、テオは素直に頷いてルーカスに従った。
「さあ、他の皆は移動してアデリナとフィリベルトの演奏を堪能しようじゃないか」
 
 
 公爵家にはダンスホールがある。
 初めて見た時、レオナはまるでホテルの披露宴会場だなと、軽く現実逃避した。百名ほどのキャパはあるだろう。さすが公爵家と言うべきか。
 
「はは、閣下は強引だなあ」
「ああでないと、宰相にはなれないのかもしれないわ」
 ゼルが、さりげなくシャルリーヌをエスコートしている。
 意外にも、彼の所作は大振りであるものの綺麗であり、マナーも身についている。
「レオナ嬢はドレスのままで大丈夫なのか?」
 ラザールが聞いてきたので
「ええ。テオが主役ですわ」
 と答えた。
「なるほどねー……いいねー!」
 ジョエルはニコニコだ。


 ――さては予想がついてるのね。ふふ。
 でもきっと、それ以上よ!



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 お読み頂きありがとうございました。

 2023/1/16改稿
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