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第一章 世界のはじまりと仲間たち
〈27〉こう見えて主役なのです
しおりを挟む「今日は、可愛いお友達が来ていたそうね?」
ディナーで、アデリナに問われたレオナ。
復興祭に備えて王宮に出向き、毎日王妃のサポートをしていて多忙な母が、変わらず自分の様子も気にしてくれていることを嬉しく思った。
「ええ! 前にシャルが話していた、テオですの。攻撃魔法実習でペアを組んでいるのです。その課題の打ち合わせで」
「まぁ! お会いしたかったわ~」
ベルナルドもフィリベルトも、多忙でろくに会えてすらいない。が、アデリナだけは欠かさず、毎日顔を合わせてディナーを一緒に食べてくれていた。
「ヒューゴーも気に入ってくれたみたいですの」
「あら、それは良いわね」
ちょうどメインディッシュの皿を持ってきてくれた彼が、微笑んで同意する。
「ねえ! せっかくだから、レオナのお誕生日パーティにお誘いするのはどうかしら? 私もお話してみたいわ」
アデリナの提案に
「……ご迷惑ではないかしら」
少し及び腰のレオナ。
「どうして? 学院で仲良くしているのでしょう?」
「実は……」
レオナは、テオが子爵家の三男であり、公爵家との家格の差を気にするタイプであること、またきっと礼儀や衣装のことで、辞退する可能性が高いことを掻い摘んで説明をした。
「気にせず気楽に誘えば良い」
いつの間にか帰宅したフィリベルトが、席に着きながら言う。
「お兄様! お帰りなさいませ!」
「ただいま。レオナは、テオ君に来て欲しいんだろう?」
「ええ……」
「衣装のことは大丈夫。私の小さくなった物を直してあげるよ。ルーカス」
「はい。かしこまりました」
「もー、帰ったばかりでバタバタねえ」
アデリナが苦笑する。
「母上、すみません。食べたらまた戻ります」
「あらあら」
「お兄様、ありがたく存じます。お忙しいのにお気遣い頂いて……私、早速招待状を用意致しますわね!」
「うん」
「ねえレオナ! せっかくだから、もう一人の方も誘ってみたらどうかしら?」
「もう一人?」
シャルリーヌが名前を出していたのは、誰だったかしら? とレオナは記憶を辿る。
「ゼル様? あ、カミロ先生かしら?」
「ふふ、じゃあ二人追加ね」
「……ジョエルが、ラザールもどうかと言っていたよ」
「まぁ、光栄ですわ! では三人ですわね」
今年は復興祭もあって皆多忙なことから、夕方から身内だけでディナーを囲むだけの、簡素なものにしようとしている。学院に入学してから仲良くなれた人達を誘えるなら、とても嬉しいことだなと、レオナは心が弾んだ。
――だって前世では家族以外にお祝いしてもらったこと、ないもんね!
そして今年は、ちょっとしたアイデアがあるんだもんね!
「明日学院で誘う時、私も同席しよう」
「助かりますわ、お兄様。ではランチの時に、お願い致します」
「分かった。……ふう、やはり家は落ち着くな」
「お忙しいのですね。お母様もお兄様も、お父様も」
「毎年のことよ~」
「まぁ、今年は来賓が来賓なだけに、いつもより少し大変かな」
そうでした、とレオナは思い当たる。
ガルアダ王太子は、ご近所付き合いも長いのでそれほどでもだが、ブルザーク皇帝はちょっと大変だろう、と。
王位継承権争いで前王と五人の王子を屠ったとされる、血塗られた皇帝。肩書きだけで恐ろしい。十年前のスタンピードで、ベルナルドとともに同盟関係を築いて以来、良好な国交を維持してはいる。が、王国行事に主賓として招かれるのは、実は初めてらしい。それほどまでに、帝国内の秩序回復に時間がかかったと言える。
「魔道具作り、大変ですのね」
こくり、と水を飲んでフィリベルトは苦笑する。
「まあね、王国の魔道具師はカミロしかいないから、仕方がない」
生来の魔力を重視するマーカムでは、魔道具師への理解が少ない。だが人的資源には限界がある、と未来を見据えたフィリベルトは、その技術を帝国留学で学び、専門家であるカミロと協業しているのだ。
我が兄ながら、切れ者だよなぁ、とレオナはいつも感心している。実際マーカムでも、魔力の素質を持つものは徐々に少なくなってきているのだ。だからこそ貴族達は、血を濃く保とうと、お互い婚活に躍起な訳だが。
「じゃあ着替えて戻るよ。お休み」
「無理は禁物よ、フィリ。あと明後日、あなたの新しいタキシードが届くわ」
「母上、ありがとうございます。では明後日は必ず戻ります」
「お休みなさいませ」
「お休み」
翌日、約束通りランチタイムに食堂へ来てくれたフィリベルト、そしてシャルリーヌとともに、レオナはゼルとテオと同じテーブルについた。和やかにランチタイムは進み、
「あの……」
大体皆が食べ終わったタイミングで、レオナは切り出す。
「ん? どうしたレオナ嬢」
とゼル。
「ご飯足らなかった?」
とテオ。
――いや足りとるわ!
緊張してるだけだわ!
「んん。復興祭も控えて、みんな忙しいかもしれないのだけど、九月一日にね……私の、その、お誕生日パーティを開くの」
「おお」
「へ」
「……それでね、良かったら、お二人に来て欲しいなって」
――い、言えたぞー!
「俺にか」
「ぼ、僕に?」
二人同時に、同じ反応をされた。
――えっ、ダメ?
ダメだった?
仲良くしていると思っていたのは、私だけ!?
途端にぼっち思考に陥ってしまうレオナ。
固く握られたその拳を、隣のフィリベルトが優しく手で包みながら言う。
「大丈夫だよ、レオナ」
「……」
「はは! 俺で良ければ喜んで」
二カリ、と笑ってすぐに返事をしてくれたのは、ゼル。
「ただ、服がな。今手持ちが一つしかないんだが、それでも良いか?」
――露出控えめで! おなしゃす!!
「もちろんですわ!」
「あの……僕……嬉しいんだけど、その……」
「テオ君、衣装のことは気にしなくても良い。良ければ私の小さくなってしまったものがあるから、直して用意するよ」
「えっ!」
テオの目がまん丸だ。
「あの、それに内輪だけの小さなパーティなの。礼儀作法とかも、気にしなくて大丈夫よ。もちろん無理にお誘いするつもりはないわ。気軽に来て欲しいなって、思っているのよ」
テオが気にしそうなことは伝えたつもりだが、どうだろうか? と彼を見ると、頬を赤く染めていた。
「う」
「う?」
「嬉しい、です。だって僕、レオナさんにかなり打算的なことを言ったし、迷惑かけてるし、なのにこんなに良くしてもらって……」
「気にしすぎ」とシャルリーヌ。
「気にしすぎね」とレオナ。
「気にしすぎだな」とフィリベルト。
「そんな気にしなくて良いと思うぞ」とゼル。
それぞれ同じ言葉を返す。
「……じゃああの……喜んで」
「ふふ! とっても楽しみ! これ、招待状よ」
「ありがたく」
「ありがと。……僕、初めて招待状もらった」
――ぐう! 可愛い!
「ねえレオナ」
「ん? なあに、シャル」
「フィリ様も。当たり前すぎて、言うの忘れてるんだと思うんですけど」
――ん? 何かあったかな?
「当日は、手ぶらで大丈夫よ」
――は! そうだ!
「その通りよ! 贈り物とか気になさらないでね。来てくれるだけで贈り物です!」
思わず熱弁してしまったレオナに、
「ぶは! 俺が贈り物ってことか! 喜んで!」
「レオナさんたら……」
テンションアゲアゲなゼルと、真っ赤になるテオ。
「もー、相変わらずなんだから……」
「ははは。レオナらしい」
うおっほん、と仰々しい咳払いをして、シャルリーヌが付け足す。
「もし手ぶらが気になるなら、薔薇を持ってきてね。花言葉は自分で調べて」
「なるほど」
「一緒に買いに行く? ゼルさん」
「おお、そうしよう、テオ」
――男子二人でお花屋さんでお買い物なんて、なんか滾るなぁ~
見たいわぁ~
「じゃあ、テオ君はすまないが、一度家に来てくれるかな。執事には手配を指示してあるから。明日なら私も家にいるよ」
「はい! 明日大丈夫です! ありがとうございます、フィリ様!」
「ふふふ。お役に立てて何より」
そうして終始和やかに、ランチタイムは終わったわけだが――レオナ達のテーブルの後ろで、残念王子が聞き耳を立てていることには、誰も気づいていなかった。
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お読み頂きありがとうございました。
2023/1/16改稿
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