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第一章 世界のはじまりと仲間たち

〈24〉免疫がないのです

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「ふああぁ~」
 
 ゼルが大きな欠伸をする。屋外演習場はポカポカ陽気だ。
 
「あら? 魔法理論でたっぷり寝たのではなくって?」
 
 レオナがクスクス笑いながら問うと。
 
「それとこれとは別だ。文字は眠い。満腹も眠い」
「まあ!」


 
 ――そんな、別腹みたいに!

 

「ゼルさんて、自由だよね」
 テオが言うと
「……心ぐらいは自由でないとな」
 意味深なコメントが返ってきた。
 
 どういうこと? と二人は聞きたかったが
「ごきげんよう、皆さん」
 ちょうどジャンルーカがやって来てしまった。
 今日も近衛の制服をぴしりと着こなし、女子学生達にキャーキャー言われながら、学舎内を歩いていた。もちろん御本人は涼しい顔のまま。流石としか言いようがない。

「申し訳ないですが、本日も私が代理講師をさせて頂きます」

「「「宜しくお願い致します」」」

「体調に問題はないですか? レオナ嬢とテオ君は、午前に攻撃魔法実習があったでしょう。疲れを感じたら無理をしないで下さいね」

「「はい! ありがとうございます!」」

「おー? 俺も体術があったぞ?」
「ゼル君はたっぷり寝たでしょう?」
 
 イタズラっぽく笑うジャンルーカは、エドガーの護衛で魔法理論のクラスルームも見ている。当然ながらゼルの居眠りも把握しているわけだ。
 ゼルは、ガシガシ頭をかいてイタズラっぽく笑っている。まさに見られてたかあ! である。
 
「では、準備運動をして前回の復習からやっていきましょう」
 ストレッチを始めると――
 

「うおら! てめぇらなめてんのか! さっさと走れ!」
 ハゲ筋肉の怒号が、演習場全体に響き渡ってきた。
「最後のやつは十周追加だ! 走れ走れ! そんなんじゃすぐ死ぬぞ!」

 レオナはゾッとする。
 騎士団だからタフさと根性、身体の強さを求められるのは理解できるが……
 
「レオナ嬢」
 ストレッチの手を止めないままに、ジャンルーカが言う。
 
「ああいうやり方に眉をしかめる気持ちも分かります。ですが、戦場は想像以上に辛く厳しい環境なのです。いくら貴族出身の騎士候補とはいえ、ああいった通過儀礼は、ある程度必要なのです」
 
 ハッとする。
 
 その通りだと思った。
 騎士になるということは、イコール『死線に向かう』ということなのだ。
 これぐらいの理不尽さに耐えられなければ、現場では到底使いものにならないだろう。
 
「……考えが至らず……」
 
 途端に、浅慮を恥ずかしく思ったレオナである。
 
「いえいえ! さすがレオナ嬢は聡明でいらっしゃる。普通のご令嬢には、このような説明などしませんよ」
 
 ジャンルーカが優しく微笑んでくれる。
 この方も紳士然としているが、地獄のような訓練をくぐり抜けてこその地位なのだろう。考えが甘かったと、改めてレオナは反省した。
 
「まあ、剣術をやろうという時点で『普通のご令嬢』ではないがな」
 ゼルがニヤリ。
「確かにそうかも」
 テオまで。
 
「……むしろ普通のご令嬢ってどんな感じなのかしら……?」
 
 残念ながら今のところ女友達といったら、シャルリーヌしかいないレオナは、他の令嬢と交流する機会がほとんどなかった。
 お茶会もなるべく断っているからだ。
 どうしてもの会は、アデリナについて行くだけ。
 そういえば、他の女子とまともに会話したこともないかもしれない、と今更ながら気付いてしまった。
 まあそれは、ないことないこと扇の向こうでひそひそされるのに疲れたからなのだが。

「うるさくてワガママだな」
 とゼルが腕を組んでむすり、と言う。


 ――えっ、何があった?


「うーん、ご機嫌取らないとめんどくさいかな?」


 ――テオも、何があった?


「あとあれこれ買わされる」


 ――ちょ、ゼルったら、誰のことなの!? 聞かないけど!


 などと内心慌てていると、ジャンルーカが肩を震わせて笑いを堪えている。


 ――……ジャン様ともなれば買わされない?


「ははっ。いえ、買わされますよ?」


 ――声に出ちゃってた! 失態!


「女性はいつでもきらびやかで、一番でいたいものなのですよ。可愛いではないですか。男はひたすらそれを守りでるのみです」
 
 完全にモテ男の台詞だと思う。ドギマギしてしまうのは仕方がないだろう。
 
「刺激が強いです……」
 
 顔が熱くなってきて、レオナは思わず両手で顔を押さえて天を仰いだ。

 

 ――鼻血出そう。
 イケメンが過ぎます、ジャンルーカ様!
 ごめんなさい、ちょっと時間を下さい。立て直すから!

  

「おやおや」
「……おい、副団長にどやされるぞ」
「それはいけませんね。失礼しました。レオナ嬢は落ち着いてからにしましょうね」
「レオナさんでもそんな顔するんだね……」
「ちっ」
 

 
 ――私だってこれでも女の子なのよ!
 たまには真っ赤になったっていいじゃない!
 舌打ちはさすがに傷つく!

 

 一方で、真っ赤な顔のレオナを見ながら、ゼルとテオはひそひそと小声で話す。
 
「ジャンルーカみたいなのが、レオナの好みなのか?」
「うーん……レオナさんて、周りが凄すぎてよく分からないよね」
 
 そのジャンルーカ本人は、涼しい顔で二人に向き直った。
 
「はい、私語はそこまで。まずは基本の動きからやっていきましょう…………」



 
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 お読み頂きありがとうございました。

 2023/1/13改稿
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