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第一章 世界のはじまりと仲間たち
〈21〉切り出してみるのです
しおりを挟む今日は午前中に攻撃魔法実習と魔法理論、午後は剣術実習、という肉体的にハードな日だ。
学院のカリキュラムは、さすが貴族向けというか、基本的には午前二コマ、午後一コマ(実習のため時間は長め)の講義で五日間、二日休んでまた五日間、のサイクルである。
講師達は、大体が王宮の役職付きで兼務、ということもあり、講師都合の休講も割とある(その代わり講義内容の質は高い)。講義の時間はそれほど長くない。
その一方、提出課題が結構シビアである。
図書室で文献を調べたり、自分の考えをまとめたりしなければならず、尚且つ手書きなので、非常に手も時間も取られる。
フィリベルトいわく、貴族の子息は外交や事業を既に担っている者も多いので、拘束時間を短くする代わりに課題を出すのだそうだ。欠席してもそれほどペナルティがない代わりに、課題提出でバランスを取っていると言える。
実習は実習で、進級に向けて共通項目プラスアルファで、各自のレベルに応じた課題も与えられている。
レオナは特に攻撃魔法の習得に力を入れており、ラザールからは全属性の基礎魔法を学年末までに唱えられるように、とのお達しだ。
実は、魔力があれば自分の属性でなくとも、基礎魔法はある程度唱えられる。
魔力があること自体すごいことで、さらに自属性というのは言うなれば『特性』もしくは『特化』という意味であり、その魔法は身体に馴染むため、かなり高度で強力なものまで習得できるのだ。
単純に言うと属性×魔力量が魔法に反映されるわけなので、『全属性持ち』×『測定不能な魔力量』がどれだけ恐ろしいか、という話である。
いわば全魔法カンスト状態。チートすぎる話である。しかも聖属性はレア、闇属性は超絶レアらしい。
その二属性はなるべく持っていることを隠すように、というのが皆の共通のアドバイスだった。
聖属性は教会に保護という名の『監禁』をされるし、闇属性はほぼ『禁忌』魔法だぞ、とラザールに念入りに脅されているレオナだ。
今日の実習は、その副師団長は来られないらしく、その代わりナヨ金ことトーマスと、記録係だった女性の魔術師団員ブリジットが、講義を受け持ってくれていた。
トーマスは攻撃主体の第一魔術師団、ブリジットは補助主体の第二魔術師団所属、と自己紹介があった。
レオナを始め学生達は、青いローブを身につけ、支給杖を持つと魔法使いになった気分になって、ウキウキして見える。
前半は攻撃魔法の基礎訓練に割り振られており、今日は火属性魔法の練習だった。
杖の先に火を灯す、できたら的に向かってその火を飛ばし、当たれば合格、というもの。
レオナは日々のごま油作りで鍛えられていることもあり(あまりカッコよくないのは何故だろう)、難なく成功した。
後半は、ペアで課題に挑むことになっており、今の課題は二人の魔法を混ぜ合わせた攻撃の練習、というものだ。
お互いの魔力量を合わせたり、タイミングを合わせたり、アイデアを相談することで自然と仲良くもなれる。ペアの息を合わせるためにも、良くできた課題である。
前期休みの前に、この場でそれぞれお披露目することになっているので、それに向けて学生達は、ペアの相手やペア同士でワイワイ相談中だ。
レオナは、基礎訓練が終わると支給杖が折れてしまったので(なにせ魔力量が多いのでよく折れる)、予備を貸してもらいつつ、良い杖がないかブリジットに相談へ行くことにした。テオとは、火魔法の訓練が終わったら休憩しておくから後で合流しよう、とのことだったが――
「ブリジットさん。では次の講義で、いくつかご持参頂けますと助かりますわ」
どうやら支給杖では、レオナの魔力量には耐えられないようなので、魔力量の多い団員が使用している杖を、いくつか持って来てもらえることになった。ハリー●ッターじゃないが、杖にも多少相性があるらしい。
「はい。副師団長にもお伝えしておきますね」
「ありがたく存じます」
話が早くて助かるブリジットは、見た目からしてバリキャリな感じである。想像するに、あの日ラザールが引き連れてきた四人は、魔術師団幹部なのではなかろうか。
トーマスは……少し意外だったが『魔法はイメージが大事なんですよ。何も考えないとこうで、ちゃんと考えるとこうなります』と、例を交えて分かりやすく教えていた。ちなみに『本気の魔法見たいですう!』という女子学生のリクエストには『副師団長に怒られちゃうので、ごめんなさーい、えへへ』とナヨナヨ答えていた。
さて、テオはどこかな、水飲み場かな? とレオナが目線だけで探すと、屋内演習場に設置してあるベンチで、ユリエに絡まれていた。あちゃー、またかー、と苦い気持ちになりつつ近づいていくと。
「ねえ、…………。」
なんだか様子が不穏だ。会話はほとんど聞き取れないが。
「…………私…………かるでしょう?」
寒気が、する。背筋が気持ち悪い。嫌な予感と言えばいいのか。この感覚はなんなのか。
「テオ! お待たせ!」
拭い去りたくて、なるべく明るい声で呼んだ。
じとり、とユリエが見てくるが、それよりもテオが心配でそちらを優先するレオナ。
「テオ?」
反応が鈍い。目の焦点が合わない。彼の目線は、今どこに? とレオナが違和感を感じていると、フンと鼻を鳴らしてユリエは去って行った。なんだったのだろう?
「? ……あ、ごめんレオナさん」
――あ、戻って来た。
ん? 戻って来たって、なんだ?
「なんか嫌な気持ちで……意識飛ばしてた」
――なるほど。シャットアウトね。気持ちは分かる。
「あ、そうだ。僕も火魔法、的に当てられたよ」
「まあ、すごいわ! テオ」
「はは、大袈裟。レオナさんなんて一瞬だったじゃん」
全属性チートのレオナは、もちろん人一倍制御を訓練しており、苦労もしている。ヒューゴーにも『魔力もじゃじゃ馬』と揶揄されているくらいだ(も、ってなんだ、『も』って)。
「……私は、特別に色々教えてもらっているもの」
「お昼ご飯の代わりに?」
「うふふ、そうそう」
研究室に差し入れするついでに、ラザールとカミロにもご飯を作るようになり、対価で色々教わっている、とテオには言い訳している。
「レオナさんのご飯美味しいもんね」
「また食べにいらしてね?」
「……僕、もうラザール先生に睨まれたくないな」
ぷっと二人で吹き出してしまった。
「その時はちゃんと作るわ」
「うくく。それより課題だけど……」
テオの様子には変わりがないが、ユリエは何を話していたのだろう? テオが言わないのなら、大したことはないのだろうが、とレオナは勝手に心配をする。
「ねえテオ」
「なに? レオナさん」
「この課題は、ペアの親睦を深めるためだと思うの」
切り出してみる。
「……うん」
「テオは、どうして私とペアを?」
「……」
「まだ、言いたくない?」
テオは、青いローブの胸の部分をキュッと掴んだ。
「ううん。ちゃんと言わなくちゃって、思ってたよ」
唇を噛み締めて、彼は語り始める。
「僕はね、もう後がないんだ」
と自嘲しながら。
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お読み頂きありがとうございました。
2023/1/13改稿
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