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第一章 世界のはじまりと仲間たち

〈18〉魔法を活用するのです

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 休日に小麦粉と牛乳、砂糖、卵を手配して、ついでにジャム作りも、と思いついてからの行動は早かった。
 
 ジャムは瓶に入れれば長持ちするし、クッキーに付けても、紅茶に落としても良い、手軽に糖分が取れる優秀な保存食だ。
 定番はイチゴだが、王都周辺は酸味が強いものが少しだけ市場に出回るとか。これからマンゴーも旬だとかで、レモンと一緒に発注してもらう。

 この世界は、大体野菜と果物は前世と同じで、レオナにとっては違和感もなく助かっている。

 マーカムはとにかく作物が良く育ち、大抵のものは手に入りそうである。
 ただし砂糖と塩と胡椒は目玉が飛び出るほど高価。公爵家でよかった! と心の底から思っている。もちろん無駄にならないよう計画発注には気を遣っているが。
 
 そしてバターと生クリームという食材は『存在しない』ということが何よりも衝撃であった。道理でパンやお菓子はあんまり美味しくないし、種類も少なかった。
 硬い焼き菓子、マフィン的なもの、ショートブレッド的なもの、甘く焼いたパン、のような感じだ。
 幸い前世で、牧場の社会科見学で手作りバターを作った記憶があるので、うろおぼえを頼りに牛乳と魔法で作ってみることにした。

 またもや公爵家の厨房を借りているわけだが、横の料理長がしげしげとレオナの書いたメモを見て
「お嬢様の発想には驚かされます……」
 と呟いた。
 本で読んだ、とか魔法の応用で考えた、などで逃げ切ってきたが、なかなか言い訳が苦しくなってきたかもな、と思うでもない。

 牛乳を氷魔法で冷やし、風魔法で脂肪分を遠心分離させた生クリームに塩を加えて、ひたすら風魔法で攪拌かくはんしたらバターのでき上がりになった。
 脱脂乳は、パン生地に混ぜるとフワフワで美味しくなる。
 ジャムを入れるガラス瓶については、工房を紹介してもらって、こんなのが欲しいです! とわがままを伝えてある。
 なんだか趣味が高じて全部作ってみました! 的なノリになってきた。無駄に時間のある学生で、さらに公爵家の財力が使えて、理屈屋の凝り性。持って生まれたものが全部悪い方に出ていないか!? と我ながら自嘲するレオナであった。
 
「最近ずっと厨房っすね。アデリナ様が心配されていますよ」
 
 厨房はどうしても、外部業者や下男の出入りがしやすい位置にあるため、ヒューゴーの護衛がつく。もちろんマリーも一緒である。
 
「ごめんなさいね、二人とも付き合わせて。どうしても作りたいものがあって」
 
 カミロ研究室で読んでいる論文と、ごま油作りのお陰で、割と魔法制御はうまくいき始めている。食材ができれば、あとは作るだけだ。
 
「その代わり、味見してくれたら嬉しいわ!」
「とっても楽しみですわ、お嬢様」
「……甘いものは苦手っす」
 そう言わずに、騙されたと思って食べてみて欲しい! とレオナは思うが、この世界ではなかなか難しい問題もある。
 
 
 冷蔵庫が、ないのだ。
 
 
 公爵家には高価な冷蔵の魔道具があるものの、だいたいの食品は地下に保管されている。
 
 レオナがヒューゴーに、庶民の皆さんはどうしているのか? と聞くと、基本保存しないか常温保存、もしくは井戸水に浸して冷やす、と返ってきた。
 お金持ちは、氷を買って倉庫や地下室で冷やす。コンロの魔道具は安価でポピュラーらしい。オーブンは若干贅沢品、だけど割と持っている。
 
 小型冷蔵庫があれば、執務室や研究室にも置けるし、気軽にプリンとかケーキとか作れるのになあ、とレオナは思いを馳せる。


 ――カミロ先生なら作ってくれるかしら? ラザールに魔石をたっぷり取って来てってお願いしてみようかな。もちろんお誘いからは全力で逃げるけれど。


 復興祭が終わるまでは、多忙すぎて余裕もないだろうから、終わってからの話である。
 せっかく選択講義で魔道具理論も取っているのだから、課題に生かせたら、それが一番良いのでは? とレオナは考える。


 ――まさか、勉強が楽しいと思える日が来るなんて思わなかったなぁ。
 入学する前は、あんなに憂鬱だったのに。
 やりたいことがあると、意欲って自然と湧くものなんだなぁ……私は前世でやりたいことが見つけられなかった、ってことかぁ。


 今は魔力、属性、魔法という、目に見える自身の素質が、レオナの背中を押してくれている気がしている。
 あまりにも膨大で抱えきれない日もあるが、ベクトルは指し示してくれているような感覚だ。


 ――『薔薇魔女の歴史を塗り替える』なんて、大層なことは考えられないけど、せっかくのこの魔力。
 せめてクオリティ・オブ・ライフに活かしてやろうじゃないの!


 レオナは腕まくりをする動作をしたが……そういえば、袖はなかった。
 
「それはどういう仕草なんです?」
「いいの! 気持ちの問題なの!」
 専属侍従は、目をパチクリしていた。

 
 そしてマリーに『余計なことを言うな』とすねを蹴られていた。


 
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 お読み頂きありがとうございました。

 2023/1/13改稿
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