【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです

卯崎瑛珠

文字の大きさ
上 下
17 / 229
第一章 世界のはじまりと仲間たち

〈14〉令嬢だって相棒を応援するのです 前

しおりを挟む
 

「僕は、貧乏子爵家の三男です。家は継げないし、二番目の兄さんみたいな商才もないので、騎士団か魔術師団に入るしかないかなと思っています。でも身体が小さくて、魔力も少なくて……体術も取っていたんですが、あのイーヴォという講師に向いてないから、という理由で攻撃魔法へ振り替えさせられました」
 
 ジョエルは、途端に苦々しい顔をする。
 テオは気にせずに淡々と続けた。
 
「レオナさんとは、攻撃魔法実習でペアを組んでいます。卒業実習では、一緒に魔獣討伐へ行くことになると思うので、剣術でもペアで訓練するのは良い機会だと思いました」
「騎士団に入れなくても、かい?」
「……討伐で結果を出します」
「分かった」
 ジョエルは、毎回自分が講師として来られるわけではないが、代理の講師にもきちんと申し送りをする、と約束してくれた。
「こう見えて副団長だからね。ちゃんと人選するよ」


 
 暗に団長とイーヴォをディスってませんか?
 笑顔が黒いわあ~

 

「さて、じゃあこちらはこちらのペースでやっていこう。テオ君はある程度基礎が身についているようだね。レオナは……」
「ご存知の通り、ですわ」
「はは、了解」
 
 前世では、身体を動かすのは嫌いではなかった。
 趣味でフルマラソンに出ていたくらいだ(一人でできるスポーツをこなしていただけだが)。
 しかし、今世のレオナの身体は魔力が膨大な分、なかなかうまく操縦ができないでいた。
 なんというか、馬力のありすぎる車を公道で運転するにも、アクセルの具合が分からない、ような感じである。魔力制御でも、同じ感覚だ。
 
「よし、じゃあ軽く柔軟からやっていこう。テオ君は実力を知りたいから、後で軽く手合わせしようね」
「え……副団長自らですか?」
「うん」
「……」
「はは、緊張しなくていいよー。僕はラザールほど怖くないでしょ?」
「「確かに」」


 
 あ、ハモっちゃった。


 
 しかし、レオナは知っている。
 この人は、戦場で性格が変わるタイプである。
 『麗しの蒼弓|《そうきゅう》』と呼ばれている副団長は、弓の達人で魔眼使い。
 前髪で左眼を隠すことで制約をつけ、右眼に魔力を集中させ、魔眼の能力をブーストする。
 百発百中の矢は、中級クラスの魔獣なら即死するらしい。今は優しい近所のお兄さん風だが。
 
「あはは、あいつが聞いたら落ち込むだろうなあ」
「落ち込む姿が想像できませんわ!」
「あれで結構繊細だよ?」
「「…………」」
 思わず顔を見合わせるレオナとテオからは、なんの言葉も出てこなかった。

 

 繊細……? だと……?


 
「じゃあまず、背伸びをして、全身を伸ばそう~怪我をしたら大変だからねー」
 華麗にスルーしたジョエルの指示で、柔軟を始めていく。ラジオ体操みたいでなんだかほのぼのだ。
 向こう側では、何人かの学生がへばって座ってしまったところを、木刀で叩かれていた。向こうはガチ勢、こちらはカルチャースクール、という温度差である。
 
「よーしじゃあ、レオナは休憩してて。テオ君、手合わせしよう。武器はそのままで良いよー」
 ジョエルは手ぶらだ。
「え!? これ、切れますよ?」
 テオの武器は刃を潰していない、実戦用だ。
 通常、訓練では怪我を防ぐため、刃を潰したものを用いることになっているが、本日は初日。各々普段使いのものを持参していた。
 
「ふふ。気にしないで、思いっ切りかかっておいでー」
 にこやかなままの副団長に、少しカチンと来た様子のテオ。


 ――わざと煽っている?
 

 テオは、静かに構えたかと思うと、躊躇いなくナイフを横一閃。
 素早い動作に見えたが、ジョエルは数歩下がってなんなくかわした。
 ひらり、ひらり、と舞いつつ切りつけるテオに対し、背中に両手を組んだまま、歩くだけで全てを避けるジョエル。
 徐々にテオの息が切れ、肩を大きく動かして呼吸をしている一方、ジョエルは一糸も乱れていない。
 
「はい。それまで」
 
 テオが大きく振りかぶったところで、無情に告げられた。
 
「ハァ、ハァ、ハァ……ま、まいりました……」
「うん。武器を変えて間もない割に、良く動けていたと思うよ。筋は悪くないし、ナイフは武器自体の間合いが近くて、殺傷能力も刃が短い分劣るから、身のこなしで確実に急所を狙いに行かないといけない。そういう観点で、これから訓練していこうねー」
「……なぜ、武器を変えたと……」
「時々握りが甘いのと、太刀筋が片手剣のままの癖があるからね。それも修正していこうねー」
 うんうん、とニコニコしているが、言っていることとの落差が激しい。
 
「ありがとうございます……僕、副団長に見て貰えて、すごい良かったです……」
「えー、嬉しいなあ! 最近誰も、僕と稽古したがらないんだよねー、なんでか」
 
 多分、欠点の指摘の仕方がえげつないからじゃないかなあ~、とレオナは思わず遠い目になってしまった。
 
「さて……え、レオナもナイフにするの? あーなるほど、護身術ならその方が良いね、隠し持てるしー。じゃあ今日はナイフの基礎を教えるから、普段から走って基礎体力つけて、素振りしといてねー」
 すっかりゆるんで、語尾が伸びきっている副団長は、楽しげだ。素になっている。
 だがしかし、ゆるふわな雰囲気に騙されてはいけない、危険な戦闘狂である。

 すると突然。
 
「おーい! 俺もやっぱりこっちにするわ~」
「ゼル様?」
「ゼルさん?」
「副団長さんと、手合わせ願いたい」
 近付くやいなや、ズバッと言うゼルは、態度がデカい!
 ジョエルが苦笑する。
「君は?」
「ゼル」
 シンプルに名乗りながら、首をポキポキ、手首をぷるぷる。
 
「ゼル君。なぜこちらに?」
「騎士団興味ないし、あいつ弱いし、考えたらこっちの組でいいかなと思っ……いまして」
 慌てて敬語を使う。
 自分で気付けて良かったなーとレオナは苦笑する。
「はー、なるほど。ちょっと待っててねー。一応断りを入れてくるから」
「わかりました」
 ゼルが頷くと、ジョエルは早速イーヴォのもとへと向かった。

 その背中を見送りつつ、
「ゼルさん、もしかして走るの嫌でした?」
 テオがナイフを鞘にしまいながら聞く。
 ベルトと一体型のケースは黒革で、シンプルだがセンスが良かった。
 
「うぐぅ、そ、そんなわけないだろうっ!」
 明らかに目が泳いでいる。
 
「……まあでも、ゼル様が来て下さるのは良いかもしれないわ」
「レオナ嬢!」
 パァッと顔が明るくなるが
「私では、テオの相手にならないもの。テオに迷惑ではと思っていたの」
 途端にガクーッと肩を落とす野獣。
 感情表現がいちいち激しい。
 
「レオナさんて、ほんと真面目だよね。僕のことは別に気にしなくていいのに」
「でもテオ……」
「うおい! 頼むから、仲間に入れてくれ!」
 
 思わずレオナは、テオと顔を見合わせて笑ってしまった。
「フフ、フフフ」
「うくくくく」


 
 -----------------------------

 お読み頂きありがとうございました。

 2023/1/13改稿
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...