上 下
18 / 18

17 エピローグの転生女騎士は、元殺し屋だけど殺さない!

しおりを挟む


 洪水で大きな被害を受けた穀物地帯を訪れた、王太子ヨウシアと友好国の幼き第二王子リュシアンによる慰問は、グラナート王国内で大評判となった。
 
 バルゲリー王国に伝わる『豊穣の祈り』ができるという小さな第二王子(光魔法のド派手な後光演出つき)が祈るや、泥まみれの畑が青々と芽吹きだしたからだ。
 目の前の光景は、絶望に打ちひしがれていた民衆の心に、あっという間に希望という名の灯りを点けた。
 「奇跡だ!」「救いだ!」「神よ!」「うちにも来てくれ!」と、バルゲリー王国との国交を喜ぶ王国民の世論の波に、さすがの国王も逆らえなくなったことこそ、アレクサンドラの意図したものである。
 
 だが吟遊詩人たちがこぞってこの奇跡を、バルゲリーの小王子と『怜悧な美貌の女騎士』のなせるわざである! とドラマティックに歌い出してしまい――やがてそれが本国にまで伝わってしまったのは、まったくもって想定外だった。

 それを聞いたラウリは当然、複雑な心中を持て余す。

「アレックスのことが、こんなにも知られてしまうなんて」
「はあ。まったく無責任な詩人どもめ」

 沈んだ民の心が上向くのなら、とあえて否定しなかったとはいえ、アレクサンドラもやはり複雑なのだ。
 

 王宮の中庭。
 ガゼボでお茶を楽しむそんな二人の間を、さわやかな秋風が吹き抜けていく。
 

「だがさすがだな。『殺されない価値』があれば良いなどと、俺には到底思いつかなかったよ。『奇跡』を害しようとする者なんてよっぽどだし、むしろバルゲリーの王族と縁を結びたいと、方々から縁談が舞い込んで良い抑止力になっている」

 豊穣の祈りを受け継ぐ血統があるとしたら、この世界では比類なき価値のあるものに違いない。
 
「ただの思いつきだ」
「前世の知識、か?」
「……そうかもな」

 ラウリの赤い瞳が、アレクサンドラを射抜く。

「それでも後悔は、打ち消せないか」
 

 ――私は、血みどろなのだ。
 

「救っても救っても、足りないか」

 
 ――殺しただけ、救ったところで……

 
 そんなアレクサンドラの心を見透かしているのか、腹黒宰相は、答えがなくとも、ふうわりと笑むのみだ。

「ああ、良い香りだ。貴女はまるで金木犀のようだな」

 顔を上げると、咲き乱れるは、金色の花々。華やかで儚い香りが漂っている。

「気高い人、という花言葉なんだよ」
「つくづく、よく知っているものだな。感心する。今はそんなことより、リュシアン殿下だ」
「ったく、情緒がないねえ。ま、どうするかね」

 
 ヨウシアを王太子にゴリ押しした、グラナート王国の筆頭公爵家。
 そこの令嬢(十歳)が、なんと夜会でリュシアン(七歳)に一目惚れしたのだそうだ。

 
 当のリュシアン本人は
「ええ!? 僕、あの、アレクサンドラのお婿さんになりたいし!」
 と逃げまくっている。

「まさか、第二王子が俺の恋敵とはなあ~」
「真面目に考えろ」
「大真面目だよ。どうしたらアレクサンドラが、俺と結婚してくれるのか。毎日考えている」
 
 立ち上がったラウリが歩み寄ったかと思うと、椅子に腰かけるアレクサンドラの脇で、胸に手を当てながら地面に片膝を突く。
 
「どうしたら、貴女と共に生きられるのだろうか」

 真摯な赤い目は、まるで誇らしく咲く薔薇のようだなと思った。

 
 ――既にこうして、側にいるではないか。

 
 その言葉を吐き出すことはせずに、アレクサンドラはラウリの肩越しに、無言で鋭くナイフを放つ。

「ぐあっ!」

 影が、腕を押さえながら木陰から倒れてきた。

「やれやれ。ほーんと、懲りないねえ」
「だから、無駄に己をまとにするなと言っただろう。馬鹿か!」

 
 どうやら粘着質な隣国の王は、ラウリのことだけは諦めないらしい。
 

「はっはっは。これが続くってことは、そうやってなんだかんだ、守ってもらえるのか~幸せだな?」
「ちっ、いっそ殺してやろうか」
「それでも、いいさ」

 切なそうに笑うラウリにアレクサンドラは、
 
「私は……、……殺さない」
 
 ――ようやくそれだけ、言った。

 

 -----------------------------


 最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!
 名残惜しいですが、最終回となります。
 一言でも感想を頂ければとってもとっても嬉しいですm(__)m
 
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

きらさび
2023.04.21 きらさび

アレクサンドラ最高にカッコイイ♡ ヤバい、人たらし。そして前世が殺し屋なんて暗い過去背負ってて真面目なだけに…ツンデレ。てかツンばっかり?(笑)それなりの結末があるような予感がする終わり方、そのうちに外伝とか後日談が読めたら良いなぁと思います。

卯崎瑛珠
2023.04.21 卯崎瑛珠

きらさび様
感想コメントありがとうございます‼️
アレクサンドラをカッコイイと言って頂けて、とっても嬉しいです😭🙏✨
ツンばっかりでしたね……デレさせてラウリの心臓を止めてあげたかったんですが笑

外伝や番外編を読みたいと言って頂けて幸せです🥹
大変励みになります、ありがとうございましたm(_ _)m

解除
のり
2023.04.21 のり

読ませて頂きました。

とても面白かったです!

複雑な心理模様もとても楽しかったのですが、一番好きだったのは本日の一殺でした👍

ちゃんと理由の解説も…面白すぎです( *´艸)

しかし隣国の国王…本当に抹殺したいようですね…(*`ω´*)

あ、王妃もですね(^^)d

汚物は消毒に限ります( *´艸)( *´艸)( *´艸)



卯崎瑛珠
2023.04.21 卯崎瑛珠

のり様
感想コメントありがとうございます‼️
楽しんで頂けたとのこと、とっても嬉しいです😭✨
特に一殺は、「こんなのやって大丈夫かな⁉️」と思いつつでしたので、面白かったと言って頂けて本当に良かったです♡
汚物は消毒に限りますね!きっと黒ラウリが暗躍してくれると思います( ̄▽ ̄)

ありがとうございましたm(_ _)m

解除
松平悠里
2023.04.18 松平悠里

すごく面白い!キャラも立ってるし!アレクサンドラ様素敵でした!

卯崎瑛珠
2023.04.18 卯崎瑛珠

松平様
感想コメントありがとうございます‼️m(_ _)m
すごく面白いと言って頂けて幸せです😭🙏
アレクサンドラも幸せだと思います✨✨

解除

あなたにおすすめの小説

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。