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甘い呪縛
同じ手は食わないよ?
しおりを挟む「わあ~! クルクル回るドレスって、綺麗だね~」
「ディーデ様、もう少し下がりましょう」
「えー」
白狼はレイヨという名前で騎士団長。とても礼儀を重んじる人だ。
一方の白熊はテームという名前で副団長。実は甘いものに目がないらしく、警備よりテーブルの上のスイーツを見ている時間の方が長い。
「ねえ。ディーデって何歳なの?」
私は今更なことを聞いてみる。
「十五歳だよー。あ、でももうすぐ十六歳でね、成人なんだよ!」
これでじゅうろく、だと? 幼すぎやしないかい! 君!
「ソウデスカ」
「誕生日パーティー、セラちゃんも来てね!」
「イケタラネ」
「やったー!」
「……ディーデ様、ご都合というものがございますから。お誘いはまた別の機会に」
「えー」
私、一気にレイヨのファンになりましたよね。当然ですよね。
「レイヨさん素敵」
思わず言ったら
「えっ、あ、恐縮、です……」
ぽっと赤くなった。
凛としている白い狼が、照れた、だと? なんだこれ。なんか、たぎるね……
「あ?」
あ、やべ。調子に乗りすぎました。隣がゴゴゴゴしてる。
「あああの、ユリシーズ殿。私が緊張しておりましたので、心をほぐすためのご冗談ではと。奥方様のお心遣い、感謝申し上げます」
レイヨさーーーーん! ジェントルーーーーー!
「ふん……予期せぬところから出やがったか」
「え? なにが?」
「ちっ。なんでもねえ……狼って弱点なんだ……火か?」
なんかメラメラしはじめたぞ。これは……ほっとこう。うん。
私たちの思惑では、ディーデたちがこの夜会に出席したという事実だけでも、成功といえた。
だが体裁を整えるなら、エイナルとヒルダへの挨拶を無事に済ませなければならない。
ダンス後、一通り顔合わせが終わったところで、ユリシーズは獣人三人を会場前方へと誘った。
私ももちろんユリシーズのエスコートに従い、ディーデはレイヨとテームに護衛されている。
獣人騎士ふたりはもちろん帯剣が許されていないし、こちらの騎士団長であるウォルトが直々に王子の側に立っているのを見ると、警戒体制は解かれていない。
周辺の貴族たちも歓談をやめて様子を窺っているが、予想通り好意的な雰囲気ではないと感じた。
「エイナル殿下。この度はご婚約、おめでとうございます」
「ありがとう、ユリシーズ。今日は来てくれて嬉しいよ」
このパーティの前、ユリシーズにエイナルをどう思うか聞いたら、良くも悪くもまっさらだ、と言っていた。
人の悪意や嫉妬、誹謗中傷とは無縁で生きてきたため、とてもまっすぐで素直な性分らしい。
だから、お茶会でヒルダが私を強欲呼ばわりした時にも、素直に話を聞いて対処しようとしたのだ、と。
今も、獣人への嫌悪より興味の方が勝っている様子なのが分かる。まだ希望がある、と感じた。
「本日のようなおめでたい日にお目通りが叶い、光栄に存じます、殿下」
私が最大限のカーテシー(片膝をほぼ直角に曲げ、腰を限界まで落とす)で挨拶をすると
「セレーナ嬢……ではないな、エーデルブラート夫人。素敵な贈り物をありがとう。とても良い品で気に入ったよ」
と笑顔を向けてくれた。
エイナルへは事前に、細かく砕いた青晶石を入れた、青いアロマキャンドル(ラベンダーの香り)を贈ってあった。
暗がりで淡くロマンチックに光る贅沢な一品で、これから最高級品として売り出そうとしている。
「お気に召して頂けたのですね! とっても嬉しいですわ」
「うん。あの幻想的な光を見ると心が休まるし、良い香りでよく眠れたよ」
「もったいなきお褒めのお言葉」
「……さあ、後ろが詰まっています。我が友人を紹介させて頂きたい」
ユリシーズが、柔らかな笑顔で次への流れを作ってくれた。
さすが我が夫、ファシリテートもお上手で。
「はは、そうだな!」
なお、この間ヒルダは一言も発さず、冷ややかな目で口元を扇で隠している。
王子の婚約者でしかない伯爵令嬢が、侯爵夫妻だけでなく他国の親善大使に対して、かなりの不遜な態度だ。
ずいぶん強気に攻めているなぁ、と私はそれを横目で観察していたのだが、なんとなくエイナルの頬も強張っている気がする。
「えっと、こんにちは、エイナル殿下! ぼく、ディーデ。呼びづらかったら、ディーでいいよ!」
白い虎が差し出す大きな手に、エイナルは少し面食らったがすぐに
「ディー! よろしく」
ぎゅ、と笑顔でその手を握り返した。
ディーデはそれが相当嬉しかったようで、耳がぴるぴる揺れている。
「会えてすっごく嬉しい! エイナル。ぼくたちもう友達だね!」
「あっはっは! そうか、そうだね。字は書けるかい?」
「うん、書けるよ! いっぱい勉強したもんね」
「なら、手紙のやり取りをしないか?」
「わあ! エイナルがぼくの手紙を読んでくれるの? わくわくする!」
エイナルが純粋な気持ちで申し出てくれたのが分かり、私も嬉しくなった。
「楽しみにしているよ。さあ、友達に私の妻になる人を紹介させてくれ」
「うん!」
「ヒルダというんだ」
「ヒルダ。綺麗な人だね! よろしく!」
ところが、ディーデがまた握手をしようと手を差し出すと、ヒルダの肩がワナワナと震えはじめる。
「ヒルダ?」
エイナルが促すと、彼女はようやく、渋々といった様子で扇を畳んだ。
その間、ディーデはにこにこと辛抱強く、握手を待っている。周辺の貴族たちも固唾を呑んで見守る中、険しい顔で右手をそろりと出して、ディーデの指先に触れた瞬間――
「きゃあ! 痛いっ!」
「ヒル!?」
悲鳴に戸惑うエイナルの腕にしがみつきながら、ヒルダは叫ぶ。
「このっ! 卑しい獣め!」
――あーあ。やっちまったなー(めちゃくちゃデジャブ~~~!)。
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