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魔王降臨
第22話 集結した模様
しおりを挟む【アズハッ】
慌ててその身体を支えるガウル。だが杏葉の身体はまた熱を持っている。
【熱い……!】
【覚醒しつつあるということか。とにかく急いで客室へ】
シュナの言葉に頷き、横抱きにするガウル。
【じゃあ、オイラはこいつら収容してくるねー】
気絶したブーイを仲間のエルフに背負わせ、ランヴァイリーはウネグを促す。
一方ダンやジャスパーは事態が呑み込めずにオロオロするだけだ。
「父さん、ジャス。この子を部屋に連れてくみたい」
「エリン!?」
「え? 話せる!?」
「あんまり話せないけど、分かる!」
ダンとジャスパーは顔を見合わせた。
それから三人は、ガウルたちの背を追いかける。
「ああそうか、バザンのお陰か!」
ダンは、半郷で言葉を教わったと解釈した。
「なるほどっす」
納得するジャスパー、驚くのはエリンだ。
「え、ちょ、バザンに会ったの!?」
「ああ。ったく、勝手に飛び出した挙句、勝手に結婚して、勝手に孫を産むとはな! しかもまた勝手に!!」
「相変わらずだよほんと」
「あ~はは~」
ジャスパーは、じろりとエリンを睨む。
「ダンさんは、エリンを死んだと思ってたんだ」
「っ、だって、書き置き残したでしょう!?」
「獣人の国に行って、生きてるわけないだろうさ!」
「そっ……」
エリンはどうやら、ジャスパーに言われるまで、そのことに思い至っていなかったらしい。
ダンは、それもまたエリンらしいと溜息をつきつつ、許してしまう自分に呆れる。
「……病気はもういいのか」
「え、うん……薬草のお陰で、だいぶいいよ」
「そうか」
「ねえ父さん。獣人騎士団長は噂で知っているけど、あの子はいったい?」
「俺の娘だ」
「は!?」
リリが心配そうに振り返るので、ジャスパーがまた【大丈夫】のハンドサインを出す。
納得していない顔で【了解】が返ってくる。
きっと気持ちを嗅いでいるに違いない、とダンは苦笑した――
「また、拾ったのね?」
「そうだな」
「んもー。父さんらしい。ま、妹できたの嬉しいけど!」
「残念、同い年だな」
「えー。でも後からだから。妹!」
「姉になったら、少しは落ち着くか? あー無理か。母親になっても変わらないもんな」
「うっ」
ダンがからかう目線の先には、エリンの背中で、すやすや寝ている茶髪の赤ちゃん。
ジャスパーもそれを見て感心する。
「こんな時に、大人しく寝てるのすげえ」
「うん、賢くていい子。熊って、冬眠中に出産するんだって」
「「へえ!」」
「だから、お乳飲んだらずっと寝てる」
だから無茶したのか、とダンが言うと
「それもあるけど……半郷に行ったなら、話が早いわ。ソピアから来た仲間が言っていたの。儀式が行われているって」
ツリーハウスの根元で、エリンが深刻な声を出す。眼前では、ガウルが杏葉を背負って梯子を登っていた。
「「儀式!?」」
「……中で話すわ」
ジャスパーはごくりと唾を飲み下し、ダンは
「まさか……古の黒魔術師団、か!」
忌々しげにその固有名詞を吐き出した。
◇ ◇ ◇
【あー、どーしよー】
クロッツは、エルフの里の前で項垂れていた。
ブーイとウネグの騒ぎに乗じて里への侵入を試みたものの、精霊の木に弾かれて途方に暮れているのである。
門番小屋を見上げても、中の騒動に手を取られているためか、誰もいない。
【ボク、がんばったのにな~トホホ】
振り返る先には、怪我を負って地面に座り込んでいる獣人たち。
ブーイは、自分の直轄部隊を率いてきたわけだが、皆相手がガウルということは知らされていなかったらしい。
ここでようやく目的を知った団員たちは【元団長とは戦いたくない!】【どういうことだ!】と詰め寄り、頭に血が上ったブーイは全員蹴散らして強引に里に入った、ということだった。
バッファローは暴れだすと、誰も止められない。
クロッツは隠れてその様子を窺い、ブーイとウネグが消えてから助けに入り、国王レーウの命令を命令書と共に正しく伝え――
【副団長、まさか、団長を殺す気なのか!?】
【団長を辞めさせるなんて、ありえない!】
【団長が辞めるなら、俺も辞めるぞ!】
【宰相もブーイも、いったい何を考えているんだっ】
と、副団長直轄部隊にあってもガウルの人望を改めて目の当たりにした。
もちろん、
【人間を助けるなんざ、ありえねえ】
【獣人が一番つええんだよ!】
と鼻息の荒い連中もいるが、ごく一部。それもクロッツが国王御璽の命令書を見せたら、押し黙った。
金獅子王に逆らってまでという者は、獣人王国にはいないのである。
【クロッツ様】
心配そうな、ウサギの獣人騎士が潤んだ目で訴える。
【ガウル様は、ご無事でしょうか……】
【団長のことだから、大丈夫っしょ! それより、怪我痛いよね~手当しなくちゃ。どうやって中に知らせようかな?】
コテン、とクロッツが首を傾げると
【おれ、行ってみます】
手、というか翼を挙げたのが
【アクイラ?】
【はい】
珍しい鷲の獣人、アクイラだ。この中で一番若く精悍な黒鷲は、金色の瞳をまっすぐにクロッツに向ける。
【空から行ってみます】
【わかった。頼んだよ!】
【はい!】
バサバサと翼をはためかせると、あっという間に上空へ飛んだ。
そしてアクイラは、ありったけの声で鳴く。
【ピイィーーーーヒョロロロロローーーー】
獣人たち全員が、彼の美声に酔いしれるように、見上げる。
【ピイィーーーーヒョロロロロローーーー】
すると、ワサワサと草が音を立てて、やがてひょこり、と顔を出したのが
『呼んだぁ?』
プラチナブロンドの長い三つ編みのエルフ。ランヴァイリーだ。
【あ! 大使! 良かった!】
クロッツがすかさず駆け寄ると
【わー、犬男爵ダー】
わしゃわしゃと両頬を撫でられた。
【その呼び方やめて!】
だが、まんざらでもないクロッツ。思わず喉が鳴る。
【うわ、なんか修羅場ダッタ?】
【うちのバカ牛が暴れたようでね~】
【ああ! 捕まえといたヨン】
【それなら良かったッス。団長は無事でしょうか!?】
【無事だヨン。おやまあ、怪我人たくサン】
ランヴァイリーが、ぽりぽりと頭をかいた。
【こんなにお客さん来たことナイネ】
【入れてくれるんすか!?】
クロッツは、あまりの驚きで耳もしっぽもピーン! となった。
【その様子だと、ガウルはまだ団長ダショ?】
【そーっす!】
【んじゃー、正式に獣人騎士団のご訪問てコトデ】
全員がホッとしつつ、肩を貸したりして立ち上がる中、何人かはまだ威勢が良いのを見とがめたランヴァイリーは、
【暴れたら、蔓でぐるぐる巻きにして牢屋に入れるカラネ。ブーイの野郎、頭冷えないカラ、逆さ吊りで水責め中ダヨ~】
と牽制した――全員、大人しくなった。
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