アヒル

司悠

文字の大きさ
上 下
3 / 15

『阿比留』

しおりを挟む
 六月、空梅雨、あっついネ。遅咲き生まれの紫陽花と早咲き生まれの百日紅、その間にピンキーなバラ、みな同時、一気に咲いた。町は彩られて、人は操られて、アンドロギュノスの宿命のメカニズムだ。
「ワタシはアイ(愛)、あなたは? 」
「ユウ(悠生)」
「覚えたての英語みたい」
 ボクとアイが初めて交わしたコトバだ。それだけでわかりあえた。古代からの宿命、アンドロギュノスのように繋がりあえた。何にも見えなかった、アイしか見えなかったよ。h・i・J・K、アイの前にH、後ろにJK。そんなアルファベットの歌なんか聞こえなかったよ。アイしか、HもJKも見えなかったよ。もう十八ヶ月が過ぎたね。愛って、食料品に貼られた賞味期限みたいに期限付きだ。ご機嫌ようだ。
「だから、しばらく空白期間をもとう」ボクは言った。
その途端、アイの場合は斜めに貼られた期限、歪んで、歪んで、ご機嫌斜めやね。
 
 私鉄のF駅で高架のN線とO線が交わる。その手前、ちょうどデルタ地帯のようになっている。その三角形のなか、小さな家々がひしめき合っている。ざわめきあっている。エネルギッシュな無法地帯だね。淫靡な魔物が潜んでいる。
アイの左足はN線、右足はO線だ。F駅はアイの陰り。ボクはこの風景にアイの下半身の逆三角に塗りつぶされたような陰りを重ねていく。アイの陰り、その奥にはやっぱり魔物だ。それは大いなる意思をもった軟体動物のようにひくひくと動めいていく。まるで開けっ広げの唐紅のアワビのようだ。ボクはいつも魔の三角形を見おろしながらO線からF駅に入る。アイの右足からアイを訪ねるみたいに。トン、トン、舌で叩く、舐める。アイは反応していく。いつものように喘ぐ。留守じゃなかったネ。ひと安心。
ボクは脚本『阿比留』の老婆が語る、宿命についての言葉を読みかえす。

(学校の教室、メガネをかけ黒装束の魔法使いのような老婆の先生がいる。生徒はハクチョウとアヒル、共学だ。老婆先生は黒板に『阿比留』と書く)
≺アヒルになるはアヒルの運命がある。アヒルを漢字に置き換えれば、アなるは阿呆の阿、親しみを表す冠のアだよ。アヒルのヒなるは比較の比、いつででハクチョウと比べられているのサ。ルなるは留守の留、向上心がなく、とどまっているという意味サ、アヒルなるは数メートルしか飛べない、そーだそーだクリームソーダからいつででとどまっているのサ。さらにアヒルなるはがさつ、ででで時に可愛い。とくに黄色のアヒル口なるなるは、黄疸じゃない。ファニィだっー の! ≻
「ファニィだ、ファニィだ」アヒルたちが騒めく。              
(続いて老婆は黒板に『白鳥』と書き、ずれた眼鏡をあげながら喋る)
≺ハクチョウになるはハクチョウの運命がある。ハクチョウなるは白い鳥と書く。白なるはその優雅さ、清潔感、また未来への可能性を感じとることが出来る。ハクチョウなるは遠く飛べる。渡り鳥だっー の! ハクチョウなるは気高く、エレガンス。そーだそーだクリームソーダなぁ、その泡立ちのよう気品があるのだっー の! ≻
≺アンドロギュノスのハクチョウとアヒルなるは愛し合う宿命だっー の! ≻
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼岸花

司悠
青春
1967年春、僕は京都の大学に入学。喜劇同好会というサークルに入りエキセントリックな面々に出会う。なかでも独自の死生観を持つ同級の神尾。デジャブ、ジャメヴュに苛まれている一級先輩の美沙。僕ら三人はいつも一緒だった。僕らは、ハプニングを繰り返したり、ある計画を実行するために全共闘のシンパになったり、、、、。 あの頃の僕らの生き様は一体何だった? 僕らは何処へ行こうとしていたのか?

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

僕たちのトワイライトエクスプレス24時間41分

結 励琉
青春
トワイライトエクスプレス廃止から9年。懐かしの世界に戻ってみませんか。 1月24日、僕は札幌駅の4番線ホームにいる。肩からかけたカバンには、6号車のシングルツインの切符が入っている。さあ、これから24時間41分の旅が始まる。 2022年鉄道開業150年交通新聞社鉄道文芸プロジェクト「鉄文(てつぶん)」文学賞応募作 (受賞作のみ出版権は交通新聞社に帰属しています。)

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

思春期ではすまない変化

こしょ
青春
TS女体化現代青春です。恋愛要素はありません。 自分の身体が一気に別人、モデルかというような美女になってしまった中学生男子が、どうやれば元のような中学男子的生活を送り自分を守ることができるのだろうかっていう話です。 落ちがあっさりすぎるとかお褒めの言葉とかあったら教えて下さい嬉しいのですっごく 初めて挑戦してみます。pixivやカクヨムなどにも投稿しています。

坂津眞矢子星花短編集

坂津眞矢子
青春
星花系統の、短編を集めたものです 集まるほどあるかは不明ですが、色々頑張ってみます。 本家の方もしっかり進めたいです()

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...