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学園入学編

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「…きにしないで、いってきて…」
翌日の朝、見事に38℃まで熱を出した時雨は生徒会室まで連れてこられたは良いものの、所詮健康診断とばかりに休もうとする櫂斗を必死に教室に行かせようとしていた。

「だが、1人で何かあったらどうするんだ。」
心配でたまらないとばかりに櫂斗が離れようとしない。

体は何故か再生されてきていると言えども、ポンコツなままで思うようには動いてくれない。
まだそれも不確実だが。
「白屋先生だって、今日は健康診断の責任者ですぐにはこれないんだぞ。」

「おとなしく、ねてるから。ひどくなりそ、なら、カイか、じょうせんせ、れんらくする。ほら、ちこくするよ。」
時雨はベッドから体を起こしてグイッと櫂斗を出発させようとするが、いかんせん力が弱くピクリとも動かない。

「ハァッ…ハァッ…」
ちょっと動いただけでもこの様だ。

「やっぱり、1人にするのは不安なんだが…。」
「だいじょーぶ、カイのかーでぃがんもあるし。なにかあれば、きてくれる、でしょ?」
部屋で着用していた櫂斗のカーディガンを羽織って紅茶の匂いに包まれている。うっとりしてしまうくらいにはこの香りが安心できるのだ。

できれば本人が良いが我儘は言いたくないため早く出ていく様に頑張っているのだが…

「…はぁ…。わかった。速攻で終わらせてくるから、ゆっくり休んでいてくれ。生徒会室は生徒会メンバーと特定の教員、風紀の幹部くらいしか入れないから、安心して眠ると良い。」
サラリと頭を撫でられて、思わず手に擦り寄る。

その様子をにこやかに櫂斗が眺めているのを熱い吐息を漏らしながら映したが最後、回復の為の眠りに入った。





「…ぃ、な………にい…る。」
ユサユサと体を揺すられる感覚で目が覚めた。

頭まで被った毛布の隙間から、ぼんやりとした視界を開くと、仏頂面した胸まであるロン毛の銀髪の男性が立っているのが見える。

「起きたか。お前、何故ここにいる。今年の新規メンバーは来栖と北条だけだと聞いている。生徒会室には部外者は入れないぞ。どうやって入った。」
寮での様に威圧はされていないものの、最悪な体調の中尋問されるのは辛い。
もそもそと動き、ふらふらしながら起き上がる。
「……ぁ。ケホッ、んん、いちねんの、やまなしです。くるすかいとの、つがいで、すこし、休ませて貰っていました…」

ギョッとした様に男性が見てきた後、か「そうか、お前が…」と呟かれる。
横になる様言われて倒れ込む様に再びベッドに沈み込む。
「悪いな。月見里の顔が分からなかったから、一度確認する必要があったんだ。
体調悪いんだよな。すまん。」
ぼぉっとする頭で、この人は誰だろうと思いつつも、櫂斗に何処となく似た雰囲気で落ち着く。

「いぇ…。おどろかせて、すみません。」
「まだ熱が高い様だ。櫂斗ももうすぐ来るだろうから、大人しく寝ておけ。」
生徒会室に入れると言うことは風紀の方なのだろう。
どうやら櫂斗とも知り合いらしい。

「いま、なんじですか…」
「11時半だ。1年は午後から体力測定だったが櫂斗だけ上級生に混じってやってたから終わって来る頃だろう。」
言い終わった瞬間、ガラッと扉が開く音がして、カツカツと足音が聞こえたと思うと仮眠室の扉がソロリと開けられる。

「…!!龍…、何故ここに。」
時雨が毛布で隠れている為起きているのがわからないのか、小声で男性に訊ねる櫂斗。やはり知り合いの様だ。

「ここの風紀委員長は俺だよ。資料置きに来たついでにお前の番を見つけてな。少し話していた。」
「シグ、起きてるのか?」

「ん…。おかえり。」
近くにくるとすぐさま額に手が当てられる。
「まだ高いな。終わったから部屋で休もう。行ったり来たりで申し訳ない。」
外出用に櫂斗が新たに購入したフード付きポンチョの様な毛布を時雨に被せると抱き上げる。

「しりあい…?」
「なんだ、名乗って無かったのか。コイツは来島龍(くるしま りゅう)。俺の従兄弟にあたる。母さんの弟の息子だな。風紀が龍なら安心だ。何かあったら頼らせてもらう。」
「よろしく、お願いします…」

「ああ、まぁ校則内でなら問題ない。早く連れ帰ってやれ。生徒が食堂に集まる今が帰りどきだぞ。」

「そうだな。シグ、帰るよ。」
「うん…。りゅーさん、さよなら…」
「また元気な時にな。生徒会室が難しい時は風紀室に来ると良い。」
「はぃ…」

生徒会室を出て龍と別れて寮に戻る。
熱は変わらず38℃台で倦怠感が凄い。

汗をかいた服を脱がせられて体を丁寧に拭かれながら今日の話を聞く。
健康診断は何故か前の人が譲りに譲ってくれたらしく全部を回るのに30分ほどで終わったそうだ。
早く終わった為、高村に相談すると呆れた様子で体力測定に行くよう言われた。
そこでも心優しい先輩方が順番を譲ってくれたらしく、早く終えることができたらしい。
本当は櫂斗から滲み出る圧により、誰もが譲ったにすぎないのだが…

「ああ、後羽衣先輩達に会ってな。寮の歓迎会金曜日の放課後にやってくれるらしいから、そこまでには元気になろうな。」
時雨はもう無いものであったと思っていた為びっくりすると共に、迷惑をかけたのにそれでも開催してくれようとする先輩方の気持ちに胸を打たれる。

「うん…。明日も校舎見学あるし、明日までには熱が下がるといいな…。
カイ、横、きて。」
もう1人で病室で過ごしていた時が思い出せないくらいに櫂斗が隣にいる事が当たり前になっている。
櫂斗もラフな格好に着替えていたため、時雨の横に寝そべり抱きしめてくれる。

熱で白い頬はピンクにそまり、目が潤んでいる様は言っては悪いが扇情的だ。
櫂斗は思わず時雨の唇目掛けて顔を埋める。

「んぅ…ふぁ…んちゅ、はぁ」
いつもトントンと櫂斗の胸元を叩くとハッとしたように唇が離れていく。

「悪い、耐えれなかった。」
ペロリと時雨の口元にたれた唾液を舐め取りながら悪戯っぽく言われては敵わない。

もう一度ギュッと抱きしめられると櫂斗のお腹までモゾモゾと動き顔を埋める。

「夕方に起こすから。食欲は?」
「たまごぞーすいがいい。ネギもたっぷりのったやつ。」
熱はあるものの、気分は良く珍しく食欲もある。

珍しい返答にびっくりするも、ああと答えて冷蔵庫の中身を思い返す櫂斗だった。
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