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学園入学編

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前列からZのように後列へと行うようで、時雨は本当に最後の自己紹介となってしまった。

最初は高村が例に、っと自己紹介をする。
「あー、俺は高村元。歳はお前らの丁度2倍。好物はチョコ、趣味は野球観戦。科目担当は数学。質問にくるなら数学か物理しかわからんから、他は聞くなよ~。
番はいるが、この学校ではない。まぁ、よほどの限りでなればある程度の悪戯は目を瞑る。よろしくなって事で、はいっ、次。」
いよいよ生徒の自己紹介が始まる。生徒1人が教卓の前に立ち話すスタイルらしい。やめてぇと内心は震え上がる。

ワイワイとした雰囲気で、本当に大半が持ち上がりらしく、中等部では何組でしたーっなど紹介が入る。
名前も覚えようとするも、30人もいるクラスだ。独特な自己紹介でもされない限りなかなか覚えられない。

「小嶋拓海です。中学は千代中学で高等部から由良に進学しました!
好きな食べ物はカレー、特技は大食いです!部活はサッカー部に入ろうと思っています!知り合いが殆どいないので、仲良くしてくれると嬉しいです。
よろしくお願いします!」
外部は今のところ1人だけ。
明るくハキハキした感じの子で第一印象は運動部だ。
よろしく~、千代なら友達いるぜっと方々から話しかけられている。

その後も順調に進み、櫂斗の番までやってくる。これが終われば次だ…

「来栖櫂斗です。中等部ではS組、見知った顔も多いな。好きな食べ物は和食、趣味はそうだな、時雨に構う事。あぁ、噂になっているだろうが、次に自己紹介する時雨とは番になった。
人見知りな所もあるが、仲良くしてやってくれ。いらんちょっかいをかけるやつは容赦しない。まぁ、このクラスにはいないと思うがな。1年間よろしく頼む。」
やや物騒な声は聞こえるものの、にこやかに自己紹介を終え、周りも櫂斗の人柄をわかっているのか「今年も頼むぞー」とか「生徒会長~」などあらゆるところから声が上がる。

拍手も声もあらかた止んだところで時雨の番となってしまった。

進ませたくない車椅子のレバーを外し、恐る恐る前へと出て行く。
櫂斗が心配そうな顔で横切った際に「大丈夫か?」と声をかけてきたがとりあえず頷いて返す。

周囲からの視線は移動中も感じていたが、前に出ると一層感じて、泣きたくなる。
だが、言わなければ終わらない。諦め半分で声を出した。

「は、はじめまして。月見里、時雨と言います。今年から、由良に進学しました。好きなものは紅茶で、趣味は読書です。
……車椅子だったり、途中で授業を抜けたり、体育は参加出来なかったりと、色々ご迷惑を、おかけすると、思いますが、仲良くしてくれると、嬉しいです。
よろしく、お願いします。」
ペコリとお辞儀をし、顔は正面を向けられないままであるが、なんとかやりきった。

他の人の時はすぐに拍手なり何なりがあったのに、暫く沈黙が続き、心配になる。
やっぱり気持ち悪いと思われているのだろうか…


「よろしくなー!」「無理はするなよ!」「TALKのID後で教えて~!」「くっそ、櫂斗のやつ羨ましいっ」「かわ…かわっ…」など全ては聞き取れないがドワッと話し声が上がった。

その様子に思わず呆然とするも、少なくとも受け入れてくれたように感じほっとする。
「よろしくね。」
ゆっくりと顔を上げて、にっこりと思わず笑みを浮かべまた挨拶を紡いだ。

再びシーーーンッとなる。また不安になり櫂斗に助けを求めると、近づいてきて「シグ、笑顔の安売り禁止。」と訳の分からないことを言ってきてそれにも困惑する。

「あー、本人からもあったが、月見里は身体が弱くてな。できる限り色々やりたい気持ちはあるんだが、体がついて行かない事もある。今も、歩けない訳では無いんだが、少し調子を崩していて長時間歩いたりは出来ないため車椅子を使用している。
このクラスにそう言う事で差別をする奴はいないと信じているが、困っている時や具合の悪そうな時は助けてやってくれ。」
高村が皆に改めて呼びかけてくれた。

「俺からも頼む。生徒会などで俺がいない時は、何かあれば頼むな。
シグ自体は出来ることはしっかりやるから、本人からお願いされたり、困ってそうな時にだけ助けてやってほしい。」
櫂斗も時雨の横に立ち、頭を下げる。

「わかったー!」「何でも言ってくれよ~」など歓迎ムードである。
櫂斗が教室に入る前に言ってくれたように、いい人ばかりのようだ。

これからこのクラスならやっていけそう。
打ち解けられるように、緊張するけど頑張っていこうと意気込んだ。

「んじゃ、今日はこれで解散っ。明日も遅刻するなよー。」
その声と共に再びガヤガヤと皆が話し始める。

「櫂斗~、こんな可愛い子何て知らなかったぞ~っ。」
櫂斗の側に2人学生が近づいてきた。
1人は爽やかイケメンと言うのだろうか。某君に届いてほしい漫画のヒーロー役に似た感じの人だ。

「そうですよ。私ぐらいには事前に紹介してくれると信じてましたのに…。」
もう1人、姿勢の良い、和風美人さんが続ける。

「皐月、帝、悪いな。3月からバタバタしてたんだ。」
櫂斗が苦笑しながら簡単に謝る。

「シグ、こっちは俺が初等部からつるんでる高倉皐月(たかくらさつき)と、北条帝(ほうじょうみかど)。」
「よっ!皐月って気軽に呼んでくれな~。時雨って呼んでいいか?」
「私も帝で構いませんよ。よろしくお願いしますね。時雨さん。」

「よ、よろしくお願いします。」
同世代との距離感が未だにわからない。どうして良いか分からず、櫂斗にまた視線を送る。

「あはは、シグ。敬語じゃ無くていいんだ。まぁ、ゆっくり慣れていけばいい。昼時だし、今日はこのメンバーで食堂でご飯でも食べるか?」
「いいですね。行きましょう。」
すんなりと同意され、4人でまとまり食堂に移動する。

「時雨は櫂斗とどこであったんだ~?俺たち、櫂斗が番寮に入ったって噂が流れるまでそんなこと知らなかったんだぜ~。」
「外部オリの時、だよ。帰り道にばったり…」

「へぇ~。それもまた運命みたいだなぁ。俺も時雨みたいに綺麗で可愛い番がほしいわぁ。」
「そんな事を言っているうちは皐月の元にはきませんね。」
「全くだ。」「うぅ~~」
たわいもない話をしながら食堂に着き、4人席を確保し座る。

「今日は何が食べれそうだ?」
「…フルーツ。」
「他には…?」
「…ヨーグルト?」
「他。」
「………ゼリー。」
「はぁ…。俺が頼んだものも少し摘んでくれ。とりあえず、野菜サラダとカットフルーツ頼むから。」
目の前の番の会話に他の2人は驚く。
櫂斗が甲斐甲斐しく誰かの世話をしている事にもそうだが、時雨のあまりの食のなさにもだ。

そんな様子に気づいた櫂斗が
「ああ、お前らは何にする?」
「A、A定食で。」
「俺はカツ丼大盛り!」
わかったといい、自分の分も頼むと5分ほどでアラームが鳴った。

櫂斗は時雨の分も纏めて取ってきて目の前におく。
他の人から見ると軽食程度だが、時雨にとっては多い。

頂きますと皆が食べ始め、時雨もサラダに手をつけたが一口目を咀嚼するまでに時間がかかっている。
ようやく飲み込んだ時雨に、櫂斗は横から自分の定食のメニューであった生姜焼きを一口に切り分け口に突っ込んだ。

「むぐっ。」
口に入れた時雨だったが、味の濃さに断念し、咀嚼も出来ずに困った様に固まっている。
「無理か?」
コクリと頷くと、櫂斗は時雨に口寄せ半開きになっている口に舌を捻じ込ませ、入れたものを奪い取る。

その行動に皐月は喉を詰まらせゲホゲホッと咽せている。
帝は箸で掴んでいたトマトがこぼれ落ちた。

「んっ、カイッ!!」
思わぬ行動に時雨は真っ赤になって怒っている。
やった本人はしれっとしており、「シグには味が濃いか…。明日から弁当だな…」と呟いている。

「…夢じゃ、ないですよね。」
「ああ、俺も見たぞ。」
友人面子は目が落ちそうなくらい驚いた。
あの櫂斗が、、人前で…

「もうっ、カイなんて知らないっ。」
口に残った塩気が気になり、時雨はコップにつがれた水を飲みほし、フルーツを半分だけ頑張って食べて櫂斗に押し付ける。

「駄目。後2切れは食べなさい。」
「んっむ。」
林檎にフォークを刺し、また時雨の口に突っ込む。
長い時間をかけて食べると、次はイチゴ。
そこまで食べると櫂斗は満足したのか、時雨の残りを食べた。
時雨はまだ不貞腐れた様子で櫂斗が話しかけるのを無視している。
それに焦った櫂斗は必死にご機嫌をとっている。
 
「番って、すごいな。」
「ええ、凄いですね…」
ご飯を食べた気にならないほど、目の前の光景にただ衝撃を与えられる昼食となった2人だった。
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