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学園入寮編

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そういえば、母さんは?」
「ああ、母さんなら厨房じゃないか?料理作るって張り切ってたぞ。」
「はぁ…。そんなに作っても食べられないぞ。」

「まぁ、残ったら持って帰るなり、花さん達の賄いにしても良いって言ってたぐらいだから大丈夫だ。それより、時雨君。少し重たい話をしてもいいかね?」
「なんでしょうか?」

「君は櫂斗でいいんだね?正直、素直で可愛らしい君に俺も来栖家に来て欲しいと思っているよ。ただ、櫂斗は一応嫡男だ。
パーティやら出張やら今後色々出る必要がある。時雨君も隣に立って出席しなければならなくなるだろう。
体は実際どうなんだい?どうでもいいモノには参加しなくても良いが、移動含めて5日以上あるものには番の共依存症状予防の為にも行く必要が出てくる。君達は運命の番いだからね。
もちろん、君が表に出なくとも来栖は揺るぐことは無いからホテル何かで過ごして貰っていて問題は無いんだが…。
櫂斗に娘の話は聞いているだろうか。何かあって、娘の様に失うのはもう嫌なんだ。」
どうやら、時雨の体調と体力を心配しているらしい。娘さんの話は以前少し聞いている。薬が間に合わずに命を落としたと。

「…そうですね。カイと番ってからは比較的落ち着いています。医師曰く、番の作用だそうです。でも、根本は変わらないと言われました。
元々体力は皆無ですし、薬もいらないくらいの軽度の発作は少し起きていますしね。」
「今回の様に、入院になった時櫂斗が横に居られるとは限らない。
まだ長期間離れた事もないだろう。体への負担は未知だ。」

コクンと頷き返す。学園にいる間はいいが、それ以外はまだ成人してもいないし難しい場合もあるだろう。
櫂斗に負担ばかりかけてはならない。

どうすればいいのだろうと悩んでいると、時雨と父の会話を黙って聞いていた櫂斗が口を開いた。
「父さん、俺はシグの事を負担と思っていません。シグといる事で俺は満たされているし、今まで以上に仕事や勉学のモチベーションは高まっています。
勿論、長期入院となった時は以前の時間に余裕のあった時の様には行かないでしょう。ですが、可能な限りは側に居たいと思っています。」
「カイ…」

「シグ、俺は覚悟は出来ている。前も言っただろう。俺は別に来栖に執着はない。シグといられないのであれば意味は無いのだから。」
番にする時に、ずっと隣にいると誓った。でも、櫂斗程覚悟出来ていた訳では無かったようだ。
櫂斗の言葉を聞いて、時雨も何処かで感じていた迷いが吹っ切れた。

「お義父様。」
「何だい?」
「僕は櫂斗に来栖を捨てさせるつもりはありません。
体は不良品で今も櫂斗が命を繋いでくれています。いつまでカイの側に居られるかも、わかりません。」
「……」
スゥッと息を整え、次の言葉を結ぶ。

「ですが、僕もカイを、来栖櫂斗を支えられる様最大限精進させて頂きます。
必要とあらば、カイの隣で一緒に立ち向かいます。僕は来栖櫂斗の番であり、それを誰にも譲るつもりはありません。
家族もカイも必死に今まで命を繋いでまくれました。この体を粗末に扱うつもりはありません。何があっても足掻き続けます。
これから、来栖家の一員としてよろしくお願い申し上げます。」

深くお辞儀を一礼してお義父様に微笑みかける。

暫く呆然としていたお義父様であったが、ふっと顔を緩め
「ああ、君の覚悟は受け取ったよ。
こちらこそ、よろしく頼む。
さぁ、これからは楽しい話をしよう。時雨君の事を色々教えてくれるかい?」

重苦しい空気が一転し、時雨の事や家族の事、櫂斗との馴れ初めなど根掘り葉掘り聞かれる。

櫂斗は時雨の腰をガッシリと掴んで、話をしながらも偶にお茶菓子を口に含ませながら世話を焼く。それを面白そうに見る父親に顔を顰めていたが、気にしていない様だ。


ワイワイ話しているとノックもなく扉が開く。

「お話は終わったかしら?私だけ除け者にするんだからっ!あら、貴方が時雨ちゃんねっ!きゃーっ可愛いっ!お目目クリクリね!お肌真っ白で綺麗だわぁ!」
櫂斗の母親だろう。余りの圧の強さにタジタジしてしまい、櫂斗の方に引いてしまうと守る様に櫂斗が止めてくれた。

「母さん。シグが困ってる。近いから離れて。」
グイッと遠慮なく母親の肩を押して距離を取ってくれた。

「あら、ごめんなさいね。こんなに可愛いと思って無かったのよ。
挨拶が遅れたわね。櫂斗の母親の百合子です。百合ちゃんって呼んでね!」
「ゆ、百合さん、月見里時雨です。よろしくお願いします。」

「あらやだぁっ!百合ちゃんで良いし、敬語も要らないわ!時雨ちゃんはもう私の息子なんだから!」
「百合子、落ち着きなさい。時雨君が困っているだろう。まぁ時雨君も固くならんでいい。自宅だと思って気楽に過ごしなさい。」

「ほらっ、迅さんもこう言っているし。ねっ?」
「は、はい。」
「ところで百合子、どうしたんだ?料理作っていたのではなかったか?」
「そうそう。お料理出来たから呼びにきたのよっ。真斗に呼びに行かせようとしたら、あの子人見知りだからビビって花さんにくっついちゃって。
桜の間に準備してるから、行きましょっ!」

そう言うと迅の手をとり、櫂斗にも促しながら早く~っと歩き出す。
わかったわかったと大人しくお義父様が立ち上がり、その後ろを櫂斗と並んで着いていく。

「久しぶりに頑張っちゃった!いっぱい作ったから食べられるだけ食べて頂戴。残ったら使用人達の賄いにするから気にしなくていいわ。」

「は、はい。ありがとうございます。」
長い廊下を歩いていると少し寒くなりブルリと体が震えた。
それに気づいた櫂斗が自身の羽織っていたカーディガンをそっとかけてくれた。

「ありがと。」
「外に面しているからな。廊下はまだ冷える。部屋は暖かいから安心してくれ。」
そんなこんなで食事場に着き中に入る。

長机の上には懐石料理並みに綺麗で種類豊富な料理達が鎮座している。
「こんなに…ありがとうございます。」

「いいのよぉ。櫂斗からあんまり食事が取れてないって聞いているわ。食べられるものだけでいいから無理はしないでちょうだいねっ!」
4人で席に座ると、後一つ席が空いている。

「マサは?」
櫂斗が尋ねる。先ほども出てきたが兄弟だろうか。

「まだ調理場かな。君、真斗を呼んできてくれ。」
お茶を注いでいた使用人にお義父が声をかけ、かしこまりましたと呼びにいく。

5分ほどして、そろそろと扉が開いた。

「遅いじゃないか。真斗。さぁ、席について挨拶なさい。」
「は、はい。」

そろりと男の子が入ってくる。身長は時雨より少し低いくらいだろうか。
クリクリとした目が可愛らしい。

「シグ、弟の真斗だ。今年から由良学園の中等部に進学する。寮にも入るんだが、1週間入学式が遅いからな。」
「初めまして、月見里時雨です。よろしくね、真斗君。」
斜め向かいに座った真斗にニコリと挨拶をする。

「はははは、はじめましてっ!来栖ま、真斗です。よろしくお願いしますっ!」
対する真斗はガチガチに緊張しており、顔を真っ赤にしながら俯いたまま挨拶をする。

「何をそんなに緊張しているんだ。全く。」
「だ、だって、父さんっ!兄さんの番がこんなに綺麗な人なんて聞いてないよっ!緊張しない方がおかしいっ!」
場に沈黙が走り、本人も自分の言った事を理解したのかボフッと音がしそうなほど顔を更に赤らめた。

それを櫂斗家族は微笑ましそうにながめ、そうかそうかと楽しそうにしている。
「ううぅ…」

「マサ、俺の番だからな。可愛くない訳が無いだろう?」
ニヤリと時雨を抱き寄せながら真斗をみる櫂斗。

「カイッ、全く…。真斗君、これからよろしくね。学園で会うかはわからないけど、櫂斗と来栖家にお邪魔するときはお話してくれると嬉しいな。」
「は、はいっ!勿論です!」

「じゃ、全員揃ったところで食事にしましょう!さぁ、手を合わせて、頂きますっ!」
「「「「頂きます。」」」」
久しぶりに賑やかな食事の場に花が咲いていく。
時雨も綺麗な食事を前に久しぶりに自ら箸を伸ばし始めた。
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