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学園入寮編

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気づけばいつの間にか眠ってしまっていたようだが、櫂斗にもうすぐ着くぞと揺り起こされる。

「んん…。ふぁ~、ごめ、寝ちゃってた。」
「いいよ。病院で疲れていたんだろう。」

周りを見渡すと、緑が広がる直線道路。
「もう着くの?」
「ああ、もう敷地内だ。」
「敷地⁈え!森じゃ無いの⁈」
「ははは、少し前に門を通ったんだが、それより前に起こせば良かったな。」

後ろを振り返るも、門の姿は無い。一体どれくらい広いのだろうか。
あまりの規模に恐れ慄く。

暫く呆然としていると、正面に大きな門が見えてきた。

「あれ?さっき門通ったって行ってなかった?」
「そっちは、業者とかでも普通に入れる門。脇道があってそっちから荷物の搬入などが行われる。目の前の門は、身内とか来栖家が招待しなければ入れない。」
さらっと普通の様に言う櫂斗に頭が痛くなってくる。

門の前に来ると、車が一度止まり、数秒して門が開く。
どうやら、車のナンバープレートや内部の人をカメラで認識して通行許可が出れば開く仕組みらしい。

車がもう少し進むと白い城壁の大きな洋館が出現した。
ロータリーには噴水があり、まわりは色とりどりの花が咲き乱れている。

「すっご…」
驚きすぎて、稚拙な言葉しか出てこない。
ここかぁと思っていたら、ロータリーを抜け更に奥へと進み出す。

「さっきのお家は?」
「あれはパーティや会合に使う館だ。何世代か前の当主が建てた家だな。日頃は清掃が入るくらいで使っていない。」
もう何も驚かないぞ……

何個か建物を過ぎてそこにはようやく辿り着いた。
「城…?遂にお城建てちゃったの…」
着いたと言われ見上げた建物は3階ほどの建物だが、いわゆる武家屋敷でかなりの規模だ。

時雨が城と表現したのが面白かったのか、櫂斗は横で吹き出しクククッと笑っている。

「ククッ。はぁっ…シグ降りようか。」
ひとしきり笑い終えた櫂斗が目元の笑い涙を拭きながら言ってきた。
櫂斗が差し出す手を取り、車から降りる。

高橋さんが先導し、屋敷の入口へと足を進めた。
ガラガラと扉が開かれていく。
緊張が増していき、心臓がドクドクと脈打つのがわかる。
手に力が入っていたのか、櫂斗と繋いでいた手をギュッと握り返されハッとする。

「大丈夫だから。噛みつかれたりしないよ。」
不安そうな時雨を宥める様にフワッとアールグレイの香りが広がる。
落ち着く香りに体から力が抜けていく。

扉が完全に開くと、女将だろうか、やや白髪混じりの着物の女性と2名の仲居さんらしき人が正座で頭を下げて出迎えてくれていた。
旅館では無い為、呼び方は違うのだろうが。

「おかえりなさいませ。櫂斗様。そして、ようこそお越し下さいました。」
「ああ、ただいま、花さん。紹介するよ。番の月見里時雨だ。シグ、こっちは花さん。女中のまとめ役をしている。何か屋敷の事でわからない事があれば相談するといい。忙しくしているから、捕まらない事が多いが。」
「花でございます。時雨様、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「月見里時雨です。よろしくお願い致します。時雨と呼んで頂いて大丈夫です。」

「櫂斗坊ちゃん、大変可愛らしく良いパートナーでいらっしゃいますね。花は幸せで天に召されそうですよ。さて、玄関は寒いですからね。旦那様方がお待ちです。お部屋にお荷物は運ばせて頂きますので、書斎の方に向かわれて下さい。」
「ああ、ありがとう。シグ、いこうか。」

「うん。2日間お世話になります。失礼します。」
ペコリとお辞儀をして、櫂斗に手を引かれるまま歩みをすすめる。

「シグ、着いたよ。開けてもいい?」
「う、うん。」
トントントンっと櫂斗が扉を叩く。
「失礼します。櫂斗です。」

すぐに中から低い声が聞こえる。
「ああ、入っていいよ。」
「失礼します。シグ、そんなに緊張しなくていいよ。大丈夫だから。」
ガチガチに緊張し、強張っていると櫂斗から宥められた。

中に入ると中央のテーブルに櫂斗をもっとキリッとさせ歳を取らせたダンディ中男性が書類を手に座っていた。
櫂斗が50歳くらいになったらこんな感じかな…。

「おかえり、そしてはじめまして。月見里時雨君。私は櫂斗の父親の来栖迅(じん)だ。」
「は、初めまして。月見里時雨と申します。」

「ああ、よろしく。さぁ座りたまえ。つもる話もあるだろう。」

「失礼します。」
櫂斗は何も言わずにドサっとソファに座り、時雨にちょいちょいと手招きをして腰掛させる。

「こんな入学式ギリギリで申し訳ないね。明後日からアメリカに出張でね。暫く向こうにいるからそれより前に会っておきたかったんだ。」
迅もテーブルを挟んだソファに腰掛け向かい合う。

「そうなんですね。僕も一度ご挨拶をと思っていたのでお時間頂き感謝しております。」

「はははっ、そんな固くならんでいいよ。気楽にいこう。君とはもう家族なんだ。」
「シグ、目の前の親父はお堅そうに見えて意外と愉快なところがあるから本当に気をはらないでいいぞ。」

「カイ、その言い方は無いんじゃないか?まぁ、取って食う事はないし、カイの番だ。コイツはちゃんと見る目はあるからな。それに日本支部の月見里君の弟さんだ。いい子なのは違いないだろう。来栖家に歓迎するよ、時雨君。」

「あ、ありがとうございます。兄をご存じで…?」
「ああ、仕事で少しね。彼が支部長という立場でなければこちらに引き抜きたいくらいには優秀で信頼できる相手だよ。君が倒れた時も私に連絡をくれてね。櫂斗を貸してほしいと懇願されたよ。電話越しでもわかるくらいには切な様子でね。良いお兄さんを持ったね。」
ふっと眉を下げて微笑みかけてきた。

「…それは知りませんでした。教えて下さりありがとうございます。本当に自慢の兄です。」
ー夏にぃ、そんな事までしてくれていたんだ。起きた時は何故か櫂斗がいたが、そんな背景があったとは知らなかった。
夏樹の家族(自分)を思う行動に胸を打たれ感謝が尽きない。
ゴールデンウィークに帰るときには、しっかり感謝と元気な様子を見せなくては、と心の中で意気込んだ。



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